企業におけるジェネレーティブAI活用のポイント:ChatGPTを例に

2022年11月にリリースされたChatGPTを皮切りに、ジェネレーティブAI(生成系人工知能)が盛り上がりを見せています。
ChatGPTを開発したOpenAIの研究チームは、2023年3月にGPTモデルと関連技術が米国の労働市場に与える潜在的な影響に関する論文を発表しました※1 。そのなかで8割の労働者は業務の約1割程度に影響を受け、2割の労働者は業務の約半分に影響を受けると論じられています。とりわけ執筆、プログラミングへの影響は大きいとされており、実際ChatGPTを応用したサービスが次々と立ち上がっています。3月のChatGPT API公開、またMicrosoftによるAzure OpenAI Serviceの登場により、今後もさらなる関連サービスの登場が見込まれます。

では、企業はChatGPTをはじめとするジェネレーティブAIとどう向き合う必要があるでしょうか。企業におけるAI活用には大きく以下の2パターンが存在します。

  • “特定のAI単体で解決可能な問題”が”業務課題”と一致している局所的なユースケース
     例:窓口チャットボット、契約書チェック、議事録自動作成等
  • 特定のAI単体では解決できない複雑なユースケース
     例:経営意思決定、新規事業創出、マテリアルインフォマティクス等

前者は従来からAI導入が進んだ分野ではありますが、ChatGPT(またはそれに準ずるサービス)活用により、さらなる効率化が見込まれます。AWSをはじめとするクラウドやTeams等のコミュニケーションツールと同様、業界・業種に依らず、業務を行う上でのインフラとして浸透していくことが予想されます。対して後者は、企業の競争力に直結するAI活用を指します。

では後者を目的とした場合、企業はジェネレーティブAIとどう向き合うべきでしょうか。ChatGPTを例に説明します。

ChatGPTは非常に高い応答精度とチャットという扱いやすいインターフェースを持つことにより多くの課題を解決可能としましたが、 一方、企業の競争力に直結する仕組みを直接ChatGPTが解決することはまずないと思われます。そのため、あくまで複雑な問題を解く1ピースとしてChatGPTを考える必要があります。
1ピースとして採用するかの判断にはChatGPTを1つのAIモデルとして考えた際に“企業の目指す姿や制約”と以下の“提供形態”、“アルゴリズム特性”を考慮し、他のアルゴリズムやツールと比較して組み合わせていくことが重要です。

提供形態 ・オープンソースではなく、APIやSaaSベースでの公開
アルゴリズム特性

・基本的には次のトークンを予測する生成系タスク

・マルチモーダル対応(言語- 画像間等)

・超大規模モデル

生成系タスクであることによる正確性・透明性といった論点は、すでにさまざまな媒体で議論されているため省略します。超大規模モデル、といった点に着目すると、企業内データの深い分析を行う上では大量に学習させた一般知識が足かせとなるケースもあります。追加学習しようにも、データの性質が大規模モデルの学習データと異なる、また絶対量が少ないといったケースも多く、そういった場合はよりシンプルで軽量なモデルを採用すべきです。
ジェネレーティブAIは一定の汎用性を手にしましたが、旧来から存在するword2vecやBERTといったAIが適する分野も存在します。何が得意で何が不得意か、アルゴリズムの本質を見極めた上で適切に組み合わせることが重要です。

今回は複雑なビジネス課題にジェネレーティブAIを活用する際の論点について紹介しました。
次回は、ジェネレーティブAIの具体的な事例を交え考察します(近日公開予定)。

※1 “GPTs are GPTs: An Early Look at the Labor Market Impact Potential of Large Language Models”(arXiv.org)

※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 海保 忠勝

高速進化するAIがもたらす未来

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