不正リスクに対応したデジタル監査(未来編)

不正リスクに対応したデジタル監査(未来編)について解説します。

不正リスクに対応したデジタル監査(未来編)について解説します。

近い将来、監査の現場はどのようになっているでしょうか。

将来の監査環境では、監査人が、非財務データを含む監査関与先の財務関連データすべてにリアルタイムでアクセス可能となる形が実現しているでしょう。これにより、手動によるデータ・資料の授受が不要となり、監査関与先にとって、情報共有の効率化や管理コストの削減などにつながります。

AIが搭載されたKPMGの監査プラットフォーム(KPMG Clara)は、自動分析を実施し、不正の兆候等や異常な動きを検知すると、担当監査チームに対して、自動的にアラートが通知されるような仕組みが確立されています。分析の評価の結果、不正の兆候や異常点を識別した場合、迅速に監査関与先に共有されるため、監査関与先は、問題を早期に把握し、対応を迅速に立案することが可能となります。

さらに、担当監査チームは、高度なデータ分析・ビジネスリスクに対する深い知見をもつメンバーで構成されています。そのため、監査関与先は、早期の問題解決を実現できるだけでなく、ガバナンスの強化等につながるインサイトを得ることにもつながります。

こうした未来の監査を達成するためには、以下のようなテクノロジーの実現が必要となります。

不正リスクに対応したデジタル監査(未来編)-1

それぞれのテクノロジーの実現に向け、あずさ監査法人の現在地と将来に向けた取組みを説明します。

1.データのリアルタイムな授受

監査関与先の不正リスクや異常点を早期に識別するためには、監査関与先からデータをリアルタイムで入手し、分析・評価する仕組みを構築する必要があります。

あずさ監査法人は、すでに監査のリアルタイム化に向けた取組みを開始し、監査現場への適用を順次拡大しています。監査のリアルタイム化は、監査関与先の連結・ERPシステムと連携して必要なデータを自動的に抽出するツール(ETLツール)を使用し、データ自動取得の頻度を上げること、かつ取得したデータの分析を自動化していくことによって実現します。

現在、あずさ監査法人では、多数の日本企業およびそのグループ会社(合計約100社)に対してETLツールを適用し、 監査のニーズに合わせて日次~四半期まで頻度を自在に設定してデータを取得し、監査現場で活用しています。

不正リスクに対応したデジタル監査(未来編)-2

2.AIも活用した高度なデータ分析

現在編でもご紹介した通り、あずさ監査法人では、不正リスク対応やその他監査関与先のリスクに応じたデータ分析についても数多く対応しており、そこから分析の標準化・自動化にも取り組んでいます。

すでに現場で全面展開している不正リスクスコアリング(Fraud Risk Scoring_FS)だけでなく、各国のKPMGメンバーファームで展開されている取引レベルのリスクスコアリングツール「KPMG Clara analytics AI Transaction Scoring」でも、誤謬リスクに加えて不正リスクにも対応する準備が進められており、あずさ監査法人でも監査現場での展開に備えています。当該ツールでは、さまざまなルールベースのデータ分析技法や統計モデルの技法あるいは機械学習を組み合わせて、全取引のリスクをスコアリングすることが可能です。

また、KPMGのデジタル監査プラットフォームであるKPMG Claraに対話型AIを搭載し、AIがさまざまな局面で監査人をサポートする未来に向けて準備が進んでいます。

これらの取組みは一例ですが、マクロレベル・ミクロレベルでの不正対応手続の高度化を進めており、上記のデータの自動取得と連携することで、リアルタイムで不正リスクの兆候を識別し、早期の課題解決の実現にもつながっていくと考えています。

不正リスクに対応したデジタル監査(未来編)-3

3.非財務データ含めたデータの活用

不正のリスク要因や手口は大きく変わらなくとも、ツールは変化しています。電話・書面に変わってメールやSNSが利用されることで、不正の痕跡や証拠が記録されているケースも多々あります。そうしたデジタル機器に残った痕跡などの解析は、不正調査において高い効果を発揮しています。今後は、分析対象としてこうした非財務データの範囲を広げることで、網羅的なリスク領域の特定が可能となります。

あずさ監査法人でも非財務データ分析に取り組んでいます。一例として、人工衛星から取得した位置情報データを利用した監査手法を開発しています。これ以外にもテキスト情報の分析等、分析対象のデータ範囲の拡大も継続的に実施しています。

対象範囲を広げた分析を実施することで、将来は不正が起きる前にリスクを察知し、対応をすることも可能となります。また、証拠隠滅や改ざんが困難であることが認知されるようになると、牽制効果も期待することができます。

不正リスクに対応したデジタル監査(未来編)-4

4.全員のデジタル化

上記のように、今後監査業務で扱うデータの範囲は財務データに限らず非財務データへと広がり、こうしたデータを活用するとともに、大容量データを駆使できる環境整備が必要になります。

あずさ監査法人では、専門部署が中心となり監査のデジタル化を進めているだけでなく、「全員デジタル化」をモットーに、監査業務に携わる誰もがデータを使いこなせる環境づくりを進めています。具体的には、データ処理や分析を手軽にできるソフトウェアを導入したり、データを可視化してリスクの高い処理などを発見するソリューションを開発し、監査の第一線に立つ公認会計士がそれを活用するという仕組みです。

監査関与先にとって重要なのは不正を未然に防ぎ、ガバナンスを強化していくことが組織として重要です。Open AI等、社会のデジタル化への変化は加速度的に進化しています。こうした変化に対応し、社会の期待に応えるために、不正兆候の検知を含めた監査業務の変革を進めています。

執筆者

あずさ監査法人
Digital Innovation本部

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