本連載は、2023年4月より日刊自動車新聞に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
2023年3月末、欧州において乗用車・小型商用車の二酸化炭素(CO₂)排出基準に関する規則の改正案を見直すというニュースが注目されました。2035年にCO₂、100%削減を達成する解決策にeフューエル(合成燃料)を認めるという内容であり、G7広島サミットに先駆けて行われたG7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合でも、自動車のCO₂排出量を50%削減する目標(2000年比)と水素・eフューエル・バイオ燃料などの将来性の議論が行われました。
本稿では、この2つに共通する項目である、「CO₂」と「eフューエル」について解説します。
eフューエルとは
eフューエルとは、再生可能エネルギーで発電した電気を使い製造した水素と、濃縮回収したCO₂から合成した低炭素燃料のことです。たとえば、メタネーション(水素とCO₂によるメタン合成・製造技術)による合成メタンガスや、航空機用として注目されるSAF(持続可能な航空燃料)の一部はeフューエルです。もちろん自動車用のガソリンおよびディーゼル燃料となるeフューエルも存在します。
ここで簡易なシミュレーションを行ってみましょう。
日本における乗用車の保有台数を6,200万台、1年間の新車販売台数を450万台と仮定します。新車販売台数の内の電気自動車(EV)のシェアを2022年に10%と仮置きして、毎年5%ずつ増加させます(2030年には新車販売台数に対するEVのシェアは50%となる)。保有台数は2022~2030年で変化せず、新車が売れた分だけ保有台数中の車が入れ替わるとします。この状況下で2030年のEVの保有台数に対するシェアはどのくらいになるか試算すると、結果は約20%となります。つまり、残りの約80%はエンジン車となる計算です。
カーボンニュートラルに向けてCO₂削減を行っていくためには、保有している自動車から排出されるCO₂を下げることが重要です。前述の簡易なシミュレーションは、EVの導入だけでなく、エンジン車の低炭素化を行っていく必要があることを示唆しており、このエンジン車の低炭素化の解決策の1つとして注目されるのがeフューエルです。
【図表1:日本市場におけるEV台数比率シミュレーション】
カーボンニュートラル時代の新しい競争軸
30ヵ国900人以上の自動車産業のグローバル経営者に対して行った「KPMGグローバル自動車業界調査2022」において、自動車のパワーユニットへの将来投資意向を尋ねところ、EVへの積極的な将来投資意向とともに注目されたのが、ハイブリッド車(HV)への将来投資意向でした。EV同様にHVにも高い将来投資意向が読み取れる結果であり、自動車産業のグローバル経営者は、EVと同様に、カーボンニュートラルに向けた解決策としてHVも重要な技術であると考えていることがうかがえます。
EVが拡大する以前において、パワーユニットの競争軸は主として出力と燃費でしたが、EVの増加により、もう1つの競争軸が見えています。それは航続可能距離です。ユーザーはより長い航続可能距離を求めて、バッテリー容量の大きいものを選ぶようになっており、そのために高いコストを払うことも厭わないように思えます。
「電気自動車の案内誘導における充電施設位置情報の標準化による社会的効果」(国土交通省 国土技術政策総合研究所)によると、1日の走行距離100km以上のEVユーザーは10%未満となっています。この結果から航続可能距離100km以上をEVに求めるユーザーは、多くの場合、普段使用しない重い重量物であるバッテリーを積んで走行していることになります。
そこで改めてプラグインハイブリッド車(PHV)に注目してみましょう。EV同様に100km程度ですがゼロエミッション走行が可能で、HVでもあるので必要とあらば長距離連続走行も可能です。EVの拡大とともにバッテリーコストが減少していますが、PHVも容量の大きいバッテリーを搭載しているため、このバッテリーコスト低減の恩恵を受けると言えます。
カーボンニュートラル時代の新しい競争軸として、eフューエルを組み合わせたPHVが改めて見直されるのではないでしょうか。
【図表2:パワートレイン将来投資】
日刊自動車新聞 2023年6月5日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊自動車新聞社 の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
アソシエートパートナー 轟木 光