金融庁、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(6)を公表
金融庁は、2023年4月26日、「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム(「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(6))」を公表しました。
「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム(「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(6))」を公表
本意見書は、コーポレートガバナンス改革の実質化という観点から、今後の取組みに向けた考え方や具体的な取組み内容について、フォローアップ会議としての提言を行ったものです。
1.現状の課題
具体的に、以下(1)~(3)の点について特に指摘が行われており、これらの課題を並行して解決することが重要であるとしています。
(1) 資本コストを踏まえた収益性・成長性を意識した経営の促進、人的資本への投資をはじめとするサステナビリティに関する取組みの促進といった経営上の課題
(2) 取締役会や指名委員会・報酬委員会の実効性向上、独立社外取締役の質の向上といった独立社外取締役の機能発揮に関する課題
(3)情報開示の充実、法制度上・市場環境上の課題解決といった企業と投資家との対話に関する課題
2.今後の取組みに向けた考え方
今後の取組みに向けた考え方は、以下のとおりとされています。
- 上記の課題解決に際し、改革の趣旨に沿った実質的な対応をより一層進展させることが肝要であり、形式的な体制を整備することのみによってその十分な成果を期待することはできないこと。
- コーポレートガバナンス・コードの更なる改訂は、形式的な体制整備に資する一方、細則化により、形骸化を招くこと。
- 企業と投資家との建設的な対話による個別企業ごとの課題の深堀りを通じた実効的な解決策の検討が望ましく、対話を深度ある実効的なものへと進展させるとともに、企業と投資家の自律的な意識改革を促進する環境を整備する必要があること。
企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を促進するため、上記の課題解決に向け、情報開示の充実をはじめ、企業と投資家の自律的な意識改革を促進するための施策や企業と投資家との建設的な対話の実効性を向上させるための施策を基本とし、必要に応じ、その他の施策によりこれを補完していくことが適切であるとしています。
また、各コードの改訂時期については、必ずしも従前の見直しサイクルにとらわれることなく、コーポレートガバナンス改革の実質化という観点から、その進捗状況を踏まえて適時に検討することが適切であるとしています。
3.具体的な取組内容
フォローアップ会議では、コーポレートガバナンス改革の実質化に向けて、以下のような施策・検討を順次実施していくことが提言されています。また、その実施状況について、随時検証し、追加的な施策等の要否を検討していくとしています。
(1)企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けた課題
項目 | 施策・検討の内容 | 実施時期 |
---|---|---|
A)収益性と成長性を意識した経営 | 資本コストの的確な把握やそれを踏まえた収益性・成長性を意識した経営(適切なリスクテイクに基づく経営資源の配分等を含む)の促進 (例:事業ポートフォリオの見直し、人的資本や知的財産への投資・設備投資等) |
2023年春から順次実施 |
B)サステナビリティを意識した経営 | 有価証券報告書に新設された人的資本・知的財産・多様性を含むサステナビリティに関する情報開示の枠組みの活用等を通じて、サステナビリティに関する取組みを促進 (例:好事例集の公表) |
2023年~2025年に順次実施 |
サステナビリティ開示基準策定のための国際的な議論に積極的に参画し、人的資本を中心とするサステナビリティ情報の開示の充実を推進 | 2023年以降継続して実施 | |
女性役員比率の向上等、取締役会や中核人材の多様性向上に向けて、企業の取組状況に応じて追加的な施策の検討の実施 | ― | |
C)独立社外取締役の機能発揮(取締役会、指名委員会・報酬委員会の実効性向上) | 有価証券報告書における取締役会や指名委員会・報酬委員会等の活動状況に関する情報開示の拡充を踏まえ、その実態調査・事例の取りまとめ・公表等を通じ、取締役会等の実効性評価等によるPDCAサイクルの確立・更なる機能発揮を促進 | 2023年秋 |
独立社外取締役に対して期待される役割の理解促進のための啓発活動の実施 (例:研修を通じたスキルアップ等) |
2023年春 |
(2)企業と投資家との対話に係る課題
項目 | 施策・検討の内容 | 実施時期 |
---|---|---|
A)スチュワードシップ活動の実質化 | スチュワードシップ活動の実質化に向けた課題の解決に向けて、運用機関・アセットオーナー等の取組みを促進 (例:運用機関における十分なリソースの確保、エンゲージメント手法の工夫、インセンティブの付与、年金等のアセットオーナーにおける体制の拡充等) |
2023年春から順次実施 |
B)対話の基礎となる情報開示の充実 | プライム市場上場会社について、投資家との対話の実施状況やその内容等の開示を要請 | 2023年春 |
コンプライ・オア・エクスプレインの趣旨を改めて周知するとともに、エクスプレインの好事例や不十分な事例の明示 | 2023年春 | |
有価証券報告書と事業報告等の重複開示に関する開示の効率化を含め、投資家が必要とする情報を株主総会前に効果的・効率的に提供するための方策について継続的に検討 | ― | |
投資家との対話の基礎となるよう、企業のタイムリーな情報開示を促進する方策について検討 | ― | |
C)グローバル投資家との対話促進 | グローバル投資家の期待に自律的、積極的に応える企業群の「見える化」を通じて、企業と投資家の対話を促進 (例:独立社外取締役の比率、多様性、英文開示等) |
2023年夏から順次実施 |
英文開示の更なる拡充 (特にプライム市場における英文開示の義務化) |
2023 年秋 | |
D)法制度上の課題の解決 | 大量保有報告制度における「重要提案行為等」「共同保有者」の範囲の明確化について検討 | ― |
実質株主の透明性のあり方について検討 | ― | |
部分買付け(上限を付した公開買付け)に伴う少数株主の保護のあり方について検討 | ― | |
E)市場環境上の課題の解決 | 従属上場会社に関する情報開示・ガバナンスのあり方について検討 | ― |
政策保有株式の縮減について、有価証券報告書における情報開示の規律の強化や、東証市場区分見直しに伴う上場維持基準の変更及びその経過措置を踏まえた進捗を今後継続的にフォローアップし、必要に応じて更なる施策を検討 | 2023年~2025年に順次実施 |
執筆者
有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部
アシスタントマネジャー 渡部 瑞穂