本連載は、日経産業新聞(2022年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
スマートシティの取組みを目に見える成果に
スマートシティに向けて先進的な取組みが進みつつありますが、その多くは道半ばであり、地域住民がその恩恵を実感できているとは言えません。そこで、スマートシティ推進のためのアイデアを3つの視点から提案します。
1点目は「スマートシティのコアとなるサービスを複数設計、実装できるか」です。スマートシティの取組みの多くは、社会課題の解決を目的の1つとしていますが、実態は供給側や技術側視点のものが多く、市民の理解・共感を得ているとは言い難いものです。
市民の漠然とした不安感が、データの活用の障害となっている事例も見られます。サービス自体の問題以外に、効果を住民が認識していない点が課題として挙げられます。まずは目に見える、わかりやすい成果を出し、少しずつ市民の理解を得ていく「Quick Win(クイック・ウィン)」戦術で、共感・共嗚する市民や企業を増やしていくことが、市民目線でのサービスを実装していくうえでの近道と言えます。
2点目は「ビジネスモデル」です。スマートシティを構築・運営するため、自治体と民間企業が共同で設立した新たな組織に資金と人材を集めて、長期的なスマートシティ推進、マネジメントの中核を担わせるものです。KPMGではこれを「デジタルPPP(官民パートナーシップ)」と呼んでおり、一部の自治体で取組みを始めています。資金面ではインパクト投資、組織面では公益に資する事業に率先して取り組む会社形態「パブリック・ベネフィット・コーボレーション(PBC)」のような新たなスキームを活用しながら、持続可能なビジネスモデルを構築して取り組むことが必要とされます。
3点目は「ステークホルダーのマインドセットの変革」です。日本のスマートシティは中国、米国だけでなく、韓国、シンガポール、オーストラリアなどの諸外国に後れを取っています。この現状を打ち破るには、グローバルな感性を持ち、デジタルネイティブと呼ばれる若者世代をはじめとする多様な人材をスマートシティ推進に巻き込み、ステークホルダー全体のマインドセットを変えていく必要があります。
デジタルPPPの主体となる推進組織に、多様な人材を巻き込み、短期間でわかりやすい見える成果を出すことで、関係する住民や企業の意識を変えていきながら、スマートシティの取組みが加速することを期待します。
日経産業新聞 2022年10月13日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
パートナー 馬場 功一