2023年3月期決算の留意事項(会計)

2023年3月期決算で適応される「時価の算定に関する会計基準」( 投資信託及び組合等への出資の取扱い)及び「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」ほか、執筆時点(2023年1月)で公表済みの会計基準等を紹介します。

「時価の算定に関する会計基準」及び「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」ほか、執筆時点(2023年1月)で公表済みの会計基準等を紹介します。

2023年3月期決算においては、「時価の算定に関する会計基準」( 投資信託及び組合等への出資の取扱い)及び「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」が適用されます。また、「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」については2023年3月期決算から早期適用が可能です。

なお、ASBJからグローバル・ミニマム課税に関する税効果会計の適用について公開草案が公表されていますが、本稿では執筆時点(2023年1月)で公表済みの会計基準等のみを紹介しているため含めていません。また、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。 

POINT 1
2023年3月期決算において原則適用となる会計基準等は次のとおりである。
1.「 時価の算定に関する会計基準の適用指針」(投資信託及び組合等への出資 の取扱い)
2.「 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」

POINT 2
2023年3月期決算において任意適用が可能な会計基準等は次のとおりである。
1.「 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示 に関する取扱い」

お問合せ

I.「時価の算定に関する会計基準」(投資信託及び組合等への出資の取扱い)の概要

1. 概要

2021年6月17日に、ASBJより、「時価の算定に関する会計基準の適用指針」( 以下、「改正時価算定適用指針」という)が公表されました。改正時価算定適用指針では、投資信託の時価の算定について、以下を規定しています。

■ 投資信託財産が金融商品である投資信託の取扱い
■ 投資信託財産が不動産である投資信託の取扱い

 

また、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記について規定しています。

2. 投資信託の時価の算定に関する取扱い

投資信託財産が金融商品である投資信託と投資信託財産が不動産である投資信託について、市場における取引価格が存在しない場合、その取扱いは解約又は買戻請求( 両者併せて以下、「解約等」という)に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限があるか否かで区分して定められています。

(1) 投資信託財産が金融商品である 投資信託

1. 取引所における取引価格が存在する場合
当該取引所が主要な市場である場合、その取引価格を時価とします。

2. 市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に重要な制限がない場合
基準価額を時価とします。ただし、時価算定基準における時価の定義を満たす、他の算定方法により算定された価格を利用することもできます。

3. 市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に重要な制限がある場合
改正時価算定適用指針第24-3項に定める一定の要件に該当するときは、基準価額を時価とみなすことができます。

なお、基準価額を時価とみなす場合には、他の金融商品とともに、時価の開示を行い、当該取扱いを適用した投資信託が含まれる旨を注記することが求められます。金融商品のレベル別開示等は不要ですが、追加の開示が求められます。

(2) 投資信託財産が不動産である投資信託

1. 取引所における取引価格が存在する場合
当該取引所が主要な市場である場合、その取引価格を時価とします。

2. 市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に重要な制限がない場合
基準価額を時価とします。ただし、時価算定基準における時価の定義を満たす、他の算定方法により算定された価格を利用することもできます。

3. 市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に重要な制限がある場合
基準価額を時価とみなすことができます。投資信託財産が金融商品である場合と異なり、基準価額を時価とみなす取扱いを適用するための要件の定めはありません。

なお、基準価額を時価とみなす場合には、他の金融商品とともに、時価の開示を行い、当該取扱いを適用した投資信託が含まれる旨を注記することが求められます。金融商品のレベル別開示等は不要ですが、追加の開示が求められます。

投資信託財産が金融商品又は不動産である投資信託の時価算定の概要をまとめると図表1のとおりです。

図表1 投資信託の時価算定の概要

上場/非上場 解約等の重要な制限 時価
上場投資信託 主要な市場における取引価格
非上場投資信託 なし 基準価額
他の算定方法による価格
あり 基準価額+調整額
他の算定方法による価格
基準価額(基準価額を時価とみなす取扱いを適用する場合)

基準価額を時価とみなす取扱いを適用した場合に求められる開示は図表2のとおりです。

図表2 基準価額を時価とみなす取扱いを適用した場合に求められる開示


開示内容
信託財産
金融商品 不動産
時価の開示
基準価額を時価とみなす取扱いを適用した投資信託が含まれる旨
金融商品のレベル別開示等の代わりに求められる追加の開示
1. 基準価額を時価とみなす取扱いを適用しており、レベル別開示の注記をしていない旨
2. 基準価額を時価とみなす取扱いを適用した投資信託の貸借対照表価額の合計額
3. 2の期首残高から期末残高への調整表(※ 1)
4. 2の解約等に関する制限の内容ごとの内訳(※ 1)

※1:2の合計額に重要性がない場合は開示不要
出所:KPMG作成

(3) 投資信託財産が金融商品と不動産の両方を含む投資信託

投資信託財産が金融商品である投資信託又は投資信託財産が不動産である投資信託のいずれの取扱いを適用するかは、投資信託財産に含まれる主要な資産等によって判断します。

3. 貸借対照表上、持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記

貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資について、時価の注記を行わないことができる旨が示されています。

ただし、その場合には、以下の注記が求められます。

■ 時価の注記を要しないとする取扱いを適用しており、時価の注記を行っていない旨
■ 当該取扱いを適用した組合等への出資の貸借対照表価額の合計額

4. 適用時期

改正時価算定適用指針は、2022年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています。

II.「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」の概要

1. 概要

2021年8月12日、ASBJにより、実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下、「実務対応報告第42号」という)が公表されました。

グループ通算制度を適用する場合の実務対応報告の開発にあたっては、基本的な方針として、連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理及び開示を除き、連結納税制度における従来の実務対応報告における会計処理及び開示に関する取扱いを踏襲することとされています。

2. 適用範囲

実務対応報告第42号は、以下の財務諸表について適用することとされています。

■ グループ通算制度を適用する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表
■ 連結納税制度から単体納税制度に移行する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表

3. 会計処理

(1) 通算税効果額の取扱い

個別財務諸表における損益計算書において、通算税効果額を当事業年度の所得に対する法人税及び地方法人税に準ずるものとして取り扱うこととされています。
 

(2) 税効果会計を適用する上での会計処理の単位

連結財務諸表においては、「通算グループ内のすべての納税申告書の主体を1つに束ねた単位」に対して税効果会計を適用することとされています。


(3) 個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性の判断

個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性の判断にあたっては、他の通算会社からの通算税効果額を考慮することとされています。


(4) 個別財務諸表における企業の分類

将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性を判断する際の企業の分類は、通算グループ全体の分類と通算会社の分類のいずれか上位の分類に応じた判断を行うこととされています。

また、税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性を判断する際の企業の分類は、特定繰越欠損金以外の繰越欠損金については通算グループ全体の分類に応じた判断を行い、特定繰越欠損金については、損金算入限度額計算における課税所得ごとに、通算グループ全体の課税所得は通算グループ全体の分類、通算会社の課税所得は通算会社の分類に応じた判断を行うこととされています。

4. 開示

(1) 表示

1. 個別財務諸表における通算税効果額に係る表示
通算税効果額を法人税及び地方法人税を示す科目に含めて、損益計算書に表示することとされています。

一方、通算税効果額に係る債権及び債務は、未収入金や未払金などに含めて個別財務諸表における貸借対照表に表示することとされています。

2. 繰延税金資産及び繰延税金負債に関する表示
個別財務諸表では、同一納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は双方を相殺して表示し、異なる納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は双方を相殺せず表示するという考えに従います。

連結財務諸表では、通算グループ全体の繰延税金資産の合計と繰延税金負債の合計を相殺して、連結貸借対照表の投資その他の資産の区分又は固定負債の区分に表示することとされています。


(2) 注記事項

実務対応報告第42号により法人税及び地方法人税の会計処理又はこれらに関する税効果会計の会計処理を行っている場合には、その旨を税効果会計に関する注記の内容と併せて注記することとされています。

また、税効果会計に関する注記において、繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳等の注記について、法人税及び地方法人税と住民税及び事業税を区分せず、これらの税金全体で注記することとされています。

III.「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」の概要

1. 概要

2022年8月26日、ASBJにより、実務対応報告第43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」( 以下、「実務対応報告第43号」という)が公表されました。実務対応報告第43号では、「電子記録移転有価証券表示権利等」を発行又は保有する場合の会計処理及び開示について定めています。

なお、電子記録移転有価証券表示権利等とは、以下の金融商品取引法第2条第2 項に規定される有価証券とみなされるもの( 以下、「みなし有価証券」という)のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示されるものをいいます。

■ 債券や株券等、有価証券に表示されるべき権利(有価証券表示権利)のうち、当該権利を表示する有価証券が発行されていないもの( 金融商品取引法第2条第2項柱書)
■ 信託受益権、持分会社の社員権、集団投資スキーム持分等( 金融商品取引法第2条第2項各号)

2. 範囲

実務対応報告第43号は、株式会社が電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の会計処理及び開示を対象としています。すなわち、株式会社以外の信託、持分会社、民法上の任意組合、商法上の匿名組合等( 以下、「会社に準ずる事業体等」という)による電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理は対象とされていません。一方、株式会社による保有の会計処理においては、発行者がいずれの事業体等であるかにかかわらず、電子記録移転有価証券表示権利等を保有する場合の会計処理を取り扱うこととしています。

3. 会計処理の基本的な考え方

実務対応報告第43号では、電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理は、基本的に従来のみなし有価証券を発行及び保有する場合の会計処理と同様に取り扱うこととしています。

4. 発行の会計処理

従来のみなし有価証券の発行と同様、電子記録移転有価証券表示権利等の発行に伴う払込金額は以下のように負債、株主資本又は新株予約権として会計処理を行うこととしています。

(1) 発行に伴う払込金額が負債に区分される場合

契約上の義務を生じさせる契約を締結したときに発生の認識を行い、その金額を原則として債務額をもって算定します。また、電子記録移転有価証券表示権利等に該当する新株予約権の場合には、「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」(以下、「複合金融商品適用指針」という)等の定めに従います。


(2) 発行に伴う払込金額が株主資本又は新株予約権に区分される場合

資本金や資本剰余金などその内訳項目に区分し、会社法の規定に従って払込金額を計上します。また、電子記録移転有価証券表示権利等に該当する新株予約権の場合には、複合金融商品適用指針等の定めに従います。

5. 保有の会計処理

(1) 金融商品会計基準等上の有価証券に該当する場合

「金融商品に関する会計基準」( 以下、「金融商品会計基準」という)及び「金融商品会計に関する実務指針」(以下、「金融商品実務指針」という。また、両者併せて以下、「金融商品会計基準等」という) 上の有価証券に該当する場合、原則として契約上の権利を生じさせる契約を締結したときに発生を認識し、契約上の権利を行使したとき、権利を喪失したとき又は権利に対する支配が他に移転したときは、当該金融資産の消滅を認識することとされています。

なお、従来のみなし有価証券とは異なり、売買契約を締結した時点から電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点までの期間が短期間である場合には、約定日から受渡日までの期間が市場の規則又は慣行に従った通常の期間であるか否かを問うことなく、売買契約を締結した時点で、買手は発生を、売手は消滅を認識することとされています。

また、貸借対照表価額の算定及び評価差額の会計処理については、従来のみなし有価証券と同様とされています。


(2) 金融商品会計基準等上の有価証券に該当しない場合

金融商品会計基準等上有価証券として取り扱われない一部の信託受益権については、金融商品実務指針及び実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」( 以下、「実務対応報告第23 号」という)の定めに従うこととしています。

ただし、金融商品実務指針及び実務対応報告第23号に基づき、結果的に有価証券として又は有価証券に準じて取り扱われるものについての発生及び消滅の認識は、上記(1)金融商品会計基準等上の有価証券に該当する場合と同様に行うこととしています。

株式会社が電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の会計処理をまとめると図表3のとおりです。

図表3 株式会社が電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の会計処理

  金融商品会計基準等上の有価証券
該当する 該当しない
発行 従来のみなし有価証券と同様 ( 実務対応報告第43号の対象外)
保有 貸借対照表価額の算定及び評価差額の会計処理 従来のみなし有価証券と同様 金融商品実務指針及び実務対応報告第23号に従う
発生及び消滅の認識 原則として金融商品会計基準に従う一定の場合には、売買契約を締結した時点で発生又は消滅を認識する 原則として金融商品実務指針及び実務対応報告第23号に従うが、別途の定めあり

6. 開示

従来のみなし有価証券に求められる表示方法及び注記事項と同様とされています。

7. 適用時期

2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用されます。ただし、実務対応報告第43号の公表日(2022年8月26日)以後終了する事業年度及び四半期会計期間からの早期適用も認められます。

執筆者

あずさ監査法人
会計プラクティス部
マネジャー 豊永 貴弘

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