小売業・消費財メーカーにおけるESG課題の考察(1)- サプライチェーン・マネジメント

小売業・消費財メーカーにおけるESG課題について、6つのマテリアリティから特に重要と考えられる「サプライチェーン」「エネルギー」「ステークホルダー」の3つを選定しました。今回は「サプライチェーン・マネジメント(廃棄物管理、商品の品質管理含む)」について、重要性や業界動向、今後の方向性を考察します。

サプライチェーン・マネジメント(廃棄物管理、商品の品質管理含む)について、重要性や業界動向、今後の方向性を考察します。

小売業および消費財メーカー各社は、提供する商品やサービスの受益者が消費者であることから、ESGやSDGsが今日ほど着目されていない従前より、サステナビリティに関する情報提供や情報開示を行ってきました。

食品や日雑品を扱う国内の小売業の会社のうち、主要な会社(日経225対象、売上高1兆円超の会社9社)において実際に開示されているマテリアリティを確認したところ、6つのマテリアリティ重要課題に着目していることが特徴的でした。

主要なマテリアリティ

  1. サプライチェーン・マネジメント
  2. 温室効果ガス(GHG)排出量の削減
  3. 廃棄物の管理
  4. 地域社会との共生
  5. 従業員のダイバーシティ
  6. 製品・サービスの品質・安全の確保

一方で、2022年6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告における提言を受け、金融庁は2022年11月7日に、「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案を公表し、2023年3月期以降の有価証券報告書等における以下の開示の拡充を提案しています。

1.サステナビリティ全般に関する開示

(必須記載事項)

  • 「ガバナンス」(サステナビリティ関連のリスクおよび機会を監視し、管理するためのガバナンスの過程、統制および手続)
  • 「リスク管理」(サステナビリティ関連のリスクおよび機会を識別し、評価し、管理するための過程)


(重要性に応じて記載する事項)

  • 「戦略」(短期、中期、および長期にわたり、提出会社の経営方針・経営戦略等に影響を与える可能性があるサステナビリティ関連のリスクおよび機会に対処するための取組み)
  • 「指標及び目標」(サステナビリティ関連のリスクおよび機会に関する提出会社の実績を長期的に評価、管理、監視するために用いられる情報)

サステナビリティ情報には、環境、社会、従業員、人権の尊重、腐敗防止、贈収賄防止、ガバナンス、サイバーセキュリティ、データセキュリティなどに関する事項が含まれると考えられます。

2.人的資本、多様性に関する開示

  • 人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針、および社内環境整備に関する方針を「戦略」において記載
  • 当方針に関する指標の内容、ならびに当該指標を用いた目標および実績を「指標及び目標」において記載

本稿では、金融庁の開示提案を意識しつつも、小売業・消費財メーカーにおけるESG課題について、6つのマテリアリティ重要課題を以下3つのテーマに分けて、テーマ別の重要性や業界動向、今後の方向性を考察しています。

  • サプライチェーン・マネジメント(廃棄物管理、商品の品質管理含む)
  • エネルギー・マネジメント(温室効果ガス排出量の削減)
  • ステークホルダー・マネジメント(消費者、工場や店舗で働く正規・非正規従業員および取引先との関係)

今回は「サプライチェーン・マネジメント」について取り上げ、「エネルギー・マネジメント」および「ステークホルダー・マネジメント」については、次号以降で解説します。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

目次

1.消費財・小売セクターにおけるサプライチェーン課題の背景
1.1 日本国内の課題背景
1.1.1 物流コスト上昇
1.1.2 物流の2024年問題

1.2 海外での課題背景
1.2.1 英国:2015年現代奴隷法
1.2.2 ドイツ:サプライチェーンにおける企業のデューデリジェンス義務に関する法律

2.企業価値との関連性
2.1 SASB重要財務インパクト
2.2 ESG格付への影響
2.3 税務リスクの管理

3.現状の取組み(最近の事例紹介)
3.1 フィジカルインターネット(PI:Physical Internet)実現会議
3.1.1 フィジカルインターネットとは
3.1.2 フィジカルインターネットの登場(海外)
3.1.3 フィジカルインターネット実現会議

3.2 小売業と食品会社の共同配送における実証実験
3.2.1 コンビニ3社の店舗共同配送実験
3.2.2 ビール会社と即席麺会社の共同配送実験

4.今後の展望・方向性
4.1 サプライチェーンの効率化、強靭化
4.1.1 フィジカルインターネット実現へのロードマップ
4.1.2 サプライチェーン効率化・強靭化により実現できること
4.1.3 サプライチェーンのトレーサビリティの高度化 - KPMG Origins
4.1.4 サプライチェーンの将来の実現に向けての課題

4.2 サプライヤー管理体制の高度化
4.2.1 サプライヤー管理の高度化
4.2.2 サプライヤー(サードパーティ)とのレジリエンスな関係性の構築

執筆者

KPMGジャパン
消費財・小売セクター
KPMGコンサルティングパートナー 箕野 博之

箕野 博之

KPMGジャパン 消費財・小売セクター/KPMGコンサルティング 執行役員 パートナー

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