BEPS2.0の国内法制化と日系企業への影響
2022年12月16日に公表された令和5年度税制改正の大綱。なかでもグローバル・ミニマム課税制度(国際最低税額に対する法人税課税制度)は日系企業にもたらす影響が甚大です。日系企業に大きく影響すると考えられる国際課税に関する法人税改正項目として「国際最低税額に対する法人税課税制度」について解説します。
令和5年度税制改正の大綱のなかでも、日系企業に大きく影響すると考えられる国際課税に関する法人税改正項目として「国際最低税額に対する法人税課税制度」について解説します。
2022年12月16日、令和5年度税制改正の大綱( 以下、「2023年 度税制改正大綱」という)が公表されました(2022年12月16日政府与党決定、12月23日閣議決定)。2023年度税制改正大綱には、日系企業に大きな影響を及ぼす改正項目が数多くありますが、なかでもグローバル・ミニマム課税制度(国際最低税額に対する法人税課税制度)は特に日系企業にもたらす影響が甚大です。また、同制度の国内法制化は財務・経理・税務部門の在り方にも大きな変革をもたらします。関連各部門の密なる連携や海外拠点を巻き込んだグループ全体のガバナンス体制の構築が喫緊の課題となり、企業統治を監督していく見地からも重要な影響を受けることでしょう。日系大手企業においては、同制度の国内法制化に対応し得るコーポレートガバナンス体制の構築に着手することが肝要です。
本稿では、日系企業に大きく影響すると考えられる国際課税に関する法人税改正項目として「国際最低税額に対する法人税課税制度」について解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。
POINT1
2023年度税制改正大綱公表においてグローバル・ミニマム課税制度の導入決定国際課税制度の見直しに係る国際合意に従って、2023年度税制改正においてグローバル・ミニマム課税制度(国際最低税額に対する法人税課税制度)が導入される。同制度は、2024年4月1日以後に開始する会計年度から適用開始される。
POINT 2
グローバル・ミニマム課税制度における実効税率(ETR)の計算は非常に複雑。タイムリーに情報を収集し、税額計算ができるかが課題となるOECD(経済協力開発機構)のモデルルールにおける実効税率(ETR)の計算は非常に複雑である。膨大な海外子会社の情報 をタイムリーに入手する必要があることから、財務会計ならびに税務上、これらの情報を精査して適正な税額計算が可能となるグローバル税務ガバナンス体制を構築することが肝要。
POINT3
グローバル税務ガバナンス体制構築に最適なKPMG DigitalGateway本社主導で経営判断の基礎となる海外子会社の税務情報をいかにしてタイムリーに入手できるかがグローバル税務ガバナンス体制を構築するうえでのポイントとなる。「KPMG DigitalGateway」は、その司令塔的な役割を担う、グローバル税務プロジェクト・マネジメント×テクノロジーのプロフェッショナルが提供する税務アウトソーシング・ソリューションである。
Ⅰ.2023年度税制改正大綱で グローバル・ミニマム課税 制度導入が決定
連結総収入金額が7億5,000万ユーロ相当額( 約1,000億円)以上である日系企業は、2024年4月1日以後に開始する会計年度より、国際最低税額に対する法人税の課税を受けます。
(1) グローバル・ミニマム課税制度 とは
2022年12月16日、2023年度税制改正大綱が公表され、グローバル・ミニマム課税制度(以下、「国際最低税額に対する法人税課税制度」という)が創設されました。
国際最低課税額に対する法人税とは、軽課税国に所在する海外子会社等に係る所得について、国別実効税率(ETR)と合意された基準税率15%の差分を、日本で法人税および地方法人税として課税を行うというルールです。ただし、所得合算ルールは、法人住民税・法人事業税( 特別法人事業税を含む)の対象外となります( 図表1参照)。
図表1 国際最低税額に対する法人税課税制度
(2) 適用対象となる日系企業
適用対象となる日系企業は、企業グループに属する会社等の所在地国が2 以上ある場合の多国籍企業グループのうち、各対象会計年度の直前4対象会計年度のうち2 以上の対象会計年度の総収入金額が7億5,000万ユーロ相当額( 約1,000億円)以上である企業グループです。
(3) 適用開始となる会計年度
適用開始となる会計年度は、2024 年4 月1日以後に開始する会計年度です。
(4) 納税義務者
納税義務者は、特定多国籍企業グループ等に属する親会社にあたる内国法人(日系企業)です。また、適用対象となる海外子会社は、最終親会社の連結財務諸表上の連結子会社です( 非連結子会社・支店等を含む)。
(5) 軽課税国かどうかの判断基準
軽課税国かどうかの判断基準は、基準税率が15%未満かどうかです。そのため、実効税率は国・地域別に計算します( 図表2参照)。
図表2 国別実効税率の計算方法
ただし、同じ国・地域に複数事業体がある場合には、分子も分母も合計額となります。
国別グループ純所得の金額とは、その国・地域に所在するすべての構成会社等に係る個別計算所得金額の合計額から、その国・地域に所在するすべての構成会社等に係る個別計算損失金額を控除した残額を言います。
2023年度税制改正大綱においては、国別グループ純所得の金額および調整後対象租税額の計算の詳細は示されておらず、今後交付される政省令において明らかとなる見込みです。そのため、本枠内ではモデルルールを参照、記載しています。
(6) 国・地域別の実効税率の計算
「国際最低税額に対する法人税課税制度」における税金計算は非常に複雑です。軽課税国かどうかを判定するにあたり、国・地域別に実効税率を計算する必要があるからです。具体的には、連結会計パッケージに含まれる財務情報のほか、海外子会社から今後法令で要求されるさまざまな情報を迅速に収集し、各要素の調整計算を行ったうえで、国・地域ごとに合計して実効税率の分子分母に当てはめていきます。これでようやく1ヵ国・地域のGloBE (Global Anti-Base Erosion)ルールによる税金計算が可能になります(図表3参照)。
図表3 実効税率の計算 各調整項目のイメージ
さらに、国・地域ごとに同じ調整計算を行い、正確に税額の計算をします( 図表4参照)。
図表4 実効税率の計算 国・地域別計算
また、上記国・地域別の実効税率の計算を行う時期についてですが、財務会計上、四半期および半期を含む決算時期において対象となる海外子会社が所在するすべての国・地域の実効税率を正確に計算して法人税を把握する必要があるため、非常に限定された期間で対応する必要があると考えられます(図表5参照)。
図表5 国際最低税額に対する法人税計算のタイムライン
Ⅱ.セーフハーバーの概要
2022年12月20日、OECDは企業の事務負担を軽減することを目的とするセーフハーバーを公表しました。
(1) セーフハーバーとは
OECDより企業の事務負担を軽減することを目的としたセーフハーバーが公表されました。セーフハーバーは、「移行期におけるセーフハーバー」と「恒久的セーフハーバー」の2種類が存在します。
それぞれのセーフハーバーは、ともに以下の3 つのテストから構成されています。各国・地域において以下のテストのうちいずれか1つでも充足すればその国・地域においてセーフハーバーが適用されるという点で、両セーフハーバーに差異はありません。
- デミニマステスト:収益・利益の規模に基づいて判定
- 簡易ETRテスト:簡易的に計算したETR に基づいて判定
- 通常利益テスト:利益がカーブアウト額を超過するか否かで判定
(2) 移行期におけるセーフハーバー
移行期におけるセーフハーバーは、2026 年12月31日以前に開始する会計年度にのみ適用されます。ただし、2028年6月30日より後に終了する会計年度は含まれません。したがって、たとえば3 月決算の日系企業の場合は25年3月期、26年3月期、27 年3月期に、12月決算の日系企業の場合は25年12月期、26年12月期に適用されることが想定されます。移行期においては移行期におけるセーフハーバーと恒久的セーフハーバーの双方から選択適用することが可能ですが、各テストいずれの場合においても移行期におけるセーフハーバーの方が有利と考えられます(図表6参照)。
図表6 移行期におけるセーフハーバー
(3) 両セーフハーバーの違い
移行期におけるセーフハーバーと恒久的セーフハーバーは、次の点で大きく異なります。移行期におけるセーフハーバーでは主として適格国別報告書および適格財務諸表に基づく財務数値を用いますが、恒久的セーフハーバーではOECDから公表されたアドミニストレーションガイダンスの計算方法に基づく数値を原則的に用います(図表7参照)。
図表7 両セーフハーバーの比較
移行期におけるセーフハーバーと、恒久的セーフハーバーの主たる相違点は以下のとおりです。
項目 | 移行期におけるセーフハーバー | 恒久的セーフハーバー | |
---|---|---|---|
セーフ ハーバーの判定 |
デミニマステスト | 各国・地域において、適格CbCRで報告された単年度の総収入が10百万ユーロ未満および税引前利益(損失)が1百万ユーロ未満の場合に適用。 | 各国・地域において、簡易収入計算および簡易所得計算に基づいて算定されたGloBE平均※収入が10百万ユーロ未満およびGloBE平均※所得が1 百万ユーロ未満(損失の場合を含む)の場合に適用。 |
簡易ETRテスト | 適格財務諸表の当期税金費用等に一定の調整を加えた簡易対象税金を適格CbCRの税引前利益( 損失)で除した割合が、移行税率以上である場合に適用。 | 簡易所得計算および簡易税額計算に基づいて計算したETRが、15%以上である場合に適用。 | |
通常利益テスト | 実質ベースの所得除外額が適格CbCRの税引前利益を上回る場合に適用( 実質ベースの所得除外額はGloBEモデルルールに基づく計算)。 | 実質ベースの所得除外額が簡易所得計算による所得を上回る場合に適用( 実質ベースの所得除外額はGloBEモデルルールに基づく計算)。 | |
当年度追加トップアップ税 | 移行期におけるセーフハーバーの適用を受ける場合、当年度追加トップアップ税は課税されない。 | 恒久的セーフハーバーの適用を受けても、当年度追加トップアップ税の課税は免れない。 |
※モデルルール5.5に基づき、当会計年度および前会計年度・前々会計年度の3会計年度の平均値を用いるものと考えられる。
出所:KPMG作成
なお、このセーフハーバーは今後交付される政省令において内容が明らかにされる見込みです。
Ⅲ.グローバル税務ガバナンス体制構築の必要性
上述のとおり、2023年度税制改正において「国際最低税額に対する法人税課税制度」が法制化し、2024年4月1日以後に開始する対象会計年度から適用開始となります。同制度の導入は日系多国籍企業の連結ベースの最終利益を変動させるものであることから、税務担当者だけでなく、企業経営にとって非常に重要なCFOアジェンダと考えます。
今後、「国際最低税額に対する法人税課税制度」に関連して、連年の税制改正によりグローバルに展開する日系企業にはグループ全体のビジネスモデルや利益配分を各国および日本の税務当局に報告することが義務付けられます。そのため、これまで以上に税務に関する強固なコーポレートガバナンス体制を構築する必要があります。新制度は非常に複雑で、しかも適用開始まで1年3ヵ月と、期間に猶予がありません。また、財務・経理・税務部門の在り方にも大きな変革をもたらすことが考えられることから、各関連部門と海外拠点を含むグループ全体の密なる連携体制の構築も必要です。
それでは、「国際最低法人税額に対する法人税課税制度」の導入に際してグローバル税務ガバナンス体制を構築するためにはどうしたらいいのでしょうか。それは、各国の税制改正、税務調査の動向、海外子会社の税務コンプライアンスの状況および税務ポジションなどの税務情報を一元管理する税務情報インフラを本社主導で構築することです。
Ⅳ.国際最低税額に対する法人税課税制度に対応する ソリューションとしてのKPMG Digital Gateway
前述したように、本社主導で経営判断の基礎となる海外子会社の税務情報をいかにしてタイムリーに入手できるかが、日系多国籍企業がグローバル税務ガバナンス体制を構築するうえでのポイントとなります。しかしながら、「国際最低額に対する法人税課税制度」に対応するためのグローバル税務ガバナンスを1から構築するには資金も必要ですし、時間もかかり ます。
そこで、グローバル税務プロジェクト・マネジメント×テクノロジーのプロフェッショナルチームであるKPMGのグローバル・コンプライアンス・マネジメントサービス(GCMS)が開発した「KPMG Digital Gateway」をご紹介します。KPMG Digital Gatewayはグローバルに展開する日系企業が利用可能な税務管理用ツールとしてリリースされた統合プラットフォームで、グローバル税務ガバナンス体制の司令塔的な役割を担います(図表8参照)。
図表8 KPMG Digital Gateway による国際最低額に対する法人税計算結果のイメージ
KPMG Digital Gatewayのクライアント専用サイトを通じて、海外子会社の税務担当者ならびにKPMGの世界中の税務プロフェショナルと協働することで、日系企業は税務先進企業のベストプラクティスに基づく最適化されたグローバル税務ガバナンスを構築することが可能となります。
執筆者
KPMG税理士法人
Clients & Markets (Tax)
FinTech ファイナンス&テクノロジー
BEPS2.0実務対策プロジェクト
パートナー 小出 一成
ICT インターナショナル コーポレートタックス
Global Compliance Management Services
パートナー 福田 隆