観光型MaaSの先にあるもの~地域の中小事業者にとっての可能性

官民連携により大手資本が中心となって取り組む観光型MaaSは、観光客誘致や観光課題改善への貢献が期待されますが、同時に地域の中小事業者の成長の起爆剤ともなる可能性について説明します。

大手資本が中心となって取り組む観光型MaaSは、観光客誘致や観光課題改善への貢献が期待されますが、同時に地域の中小事業者の成長の起爆剤ともなる可能性について説明します。

国が策定した「未来投資戦略2018」では、重点分野の1つとしてMaaS(Mobility as Services)を取り上げています。複数の移動サービスを組み合わせたMaaSは、住民や観光客の移動利便性を高めると共に、その他のサービス(例えば観光や福祉など)と連携することによって、都市や地域が抱えるさまざまな課題を解決することが期待されています。また、国はMaaSを普及させるため、2019年度から各地の実証実験を支援し、自治体を含む関係者によって、実証実験だけで終わらない持続可能なビジネスモデルが模索されている状況となっています。

観光立国を目指すわが国では、世界的にもユニークな観光型MaaSと呼ばれる形態があります。それは、観光型MaaSプラットフォーム(アプリ)を通じて、観光客に「移動×観光」に係るワンストップサービスを提供することを目指す試みです。例えば、観光型MaaSアプリでは、複数の交通事業者(鉄道・バス・タクシー・レンタカーほか)の中から目的地までの最適な移動手段とルートを提案するほか、観光/商業事業者の地域コンテンツ(観光施設の入場券や商業施設のクーポンなど)と連携し、予約・決済などの機能をワンストップに提供することが可能となります。

観光型MaaSはIoTを通じたビジネス・エコシステムとして機能し、その観光型MaaSプラットフォームには、運営主体であるMaaSオペレーター、交通事業者、観光/商業事業者、自治体、DMO(Destination Management Organization)などが連なります。特に地方都市における観光型MaaSは、官民連携により、観光客のアクセス性や利便性の向上、地域内の周遊観光の促進など、地方部の観光課題の改善に寄与し、観光客、観光/商業事業者、地域住民に以下のような効果がもたらされます。

観光型MaaSの先にあるもの~地域の中小事業者にとっての可能性-1

今後、九州全域を念頭に置いた広域MaaSを推進する先進的な実証実験が始まる予定となっていますが、観光型MaaSがより大規模な訪日外国人を含む交流人口を獲得できるプラットフォームに成長する可能性が示唆されます。観光型MaaSの収益化には規模拡大が必須ですが、一般的な観光型MaaSは「旅ナカ」での活用が想定されるものの、将来的に「旅マエ」と「旅アト」での活用を視野に入れた場合には、更なる規模拡大と共に夢が膨らみます。例えば、訪日外国人を例に考えると、観光型MaaSは「旅マエ」から海外在住の潜在顧客に地域の魅力やコンテンツを情報発信することによって、地域に訪日外国人を囲い込みます。「旅アト」には囲い込んだ訪日外国人に対する国際的な電子商取引(越境EC)の可能性のほか、鮮度の高い旬の情報を発信し続けることによって観光客リピーターを取り込み、大手事業者のみならず中小事業者にとっても、収益獲得機会が飛躍的に向上する可能性があります。そのためには、将来的に国内企業による観光型MaaSから脱皮し、海外事業者と連携する展開も予想されますが、少子高齢化により縮みゆく地方都市の観光型MaaSは、観光客誘致戦略の鍵になることが期待されます。

加えて、観光型MaaSは交通領域以外にも地域課題の解決への貢献も期待されています。一般的に地域課題解決のためには域内中小事業者が担う役割は大きいと考えられていますが、実際には生き残りに必死な中小事業者単独での取組みは限界的です。国が推進するMaaSの取組みでは、デジタル化が進んでいない地域の中小事業者にもデータ連携をはじめとする利用しやすいプラットフォーム構築が目指されています。したがって、中小のMaaS参画事業者はプラットフォームに連なる大企業が有するリソースを直接的・間接的に共有し、観光型MaaSのミッションの具現化を通じて、地域課題の解決に貢献できる可能性を秘めていると言えます。

最後に、デジタル化が進んでいない中小事業者による観光型MaaSの取組みには、人的・金銭的な負担が生じるため、国や自治体のサポートが必須と思われます。ただし、そのような公的負担によっても、観光型MaaSが、コロナ禍を経てさまざまな経営課題に立ち向かうことになる地域の中小事業者に対し、新たな成長機会を提供する起爆剤になることを期待しています。

執筆者

ガバメント・パブリックセクター
インフラストラクチャーセクター
パートナー 栗原 隆

栗原 隆

KPMG FAS 執行役員パートナー 不動産・インフラ セクターリーダー/KPMG FAS ホスピタリティセクター統括パートナー/KPMGジャパン インフラストラクチャーセクター/KPMGジャパン ガバメント・パブリックセクター

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