自然関連のリスク・機会の管理と開示:TNFD開示ベータ版フレームワークv0.2の公表

2022年6月28日に「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」は自然関連のリスク・機会の管理と開示のためのベータ版フレームワークv0.2を公表しました。自然に関する指標と目標の設定やセクター別の追加ガイダンスに対するアプローチを中心に、その概要を解説します。

2022年6月に公表されたTNFDのベータ版フレームワークv0.2について、自然に関する指標と目標の設定やセクター別の追加ガイダンスに対するアプローチを中心にその概要を解説します。

概要

自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は、自然関連のリスク・機会の管理と開示のためのベータ版フレームワークv0.2を公表しました。

2022年3月に公表されたベータ版フレームワークv0.1には、五大陸すべてにわたる37の国・地域で活動する130以上の市場関係者とステークホルダーから500件以上のフィードバックが寄せられ、市場関係者からは多くの好意的な反応があったといわれています。

今回公表されたベータ版フレームワークv0.2では、v0.1に含まれるTNFDの推奨開示(戦略、ガバナンス、リスク管理、指標と目標)や自然関連のリスク・機会を評価するためのLEAPアプローチ(Locate:発見、Evaluate:診断、Assess:評価、Prepare:準備)といった基本概念は変更されていませんが、主に以下のような改善や追加が行われています。

  • 自然に関する指標と目標の構成に関するドラフト案、パイロット・テストへの参加者をサポートするための具体的な評価指標の例
  • LEAPアプローチの一部である優先地域の特定(Locate)および自然への依存と影響に関する評価(Evaluate)の実施に関する詳細な追加ガイダンス
  • 将来的に策定される市場関係者向けの追加ガイダンスについての概要(国際サステナビリティ基準審議会(ISSB審議会)のアプローチに沿った、セクター別ガイダンスの説明を含む)
  • ベータ版フレームワークv0.1の中で公表された「金融機関のためのLEAPアプローチ(LEAP FI)」の改良
  • ベータ版フレームワークのパイロット・テスト(2022年7月1日から2023年6月1日の期間に実施)に関心のある市場関係者向けの実践ガイダンス

今後は、2023年9月に予定されている最終的なTNFD提言の公表に向けて、2022年11月と2023年2月の2回にわたってベータ版ドラフトの公表が予定されています。

ベータ版フレームワークv0.2で新しく追加された内容

  • 自然に関する指標と目標
  • TNFDの目標設定に向けた初期的な検討
  • 追加ガイダンス
  • TNFDが提案するセクター分類と優先的に取り組むべきセクターに対するアプローチ
  • 金融機関における自然関連のリスク・機会の評価(LEAP FI)

ベータ版フレームワークv0.2で新しく追加された内容の詳細はPDFからご確認いただけます。

いま、企業に求められること

TNFDフレームワークのファーストドラフトであるv0.1は、TNFDの推奨開示項目やLEAPアプローチに関する概念的な説明に留まっており、それに基づいて具体的な行動を始めることは難しい状況でした。今回公表されたベータ版フレームワークv0.2においては、Locate、Evaluateフェーズに関する追加ガイダンスや依存・影響に関する指標の例といったパーツが提示され、TNFD開示に向けた方法論が具体化され始めています。企業や金融機関にとって、TNFD開示を現実的に考え始めるための基盤ができあがってきているといえます。

TNFDフレームワークに沿った開示を予定している企業は、フレームワークの開発状況を横目に見ながら、開示を行うために不足している情報を特定し、情報の収集をスタートさせる必要があります。例えば、バリューチェーンの透明化が進んでいない企業にとっては、上流・下流を含むバリューチェーンが関わっている拠点や地域の把握を進めることが一番の優先事項です。こうした情報はLEAPアプローチの第1段階であるLocate(発見)フェーズにおいて優先地域を特定するために不可欠であり、具体的な拠点・地域の情報がなくてはLEAPアプローチによる評価を一巡させることは難しいと考えられます。特に生物由来の原材料を使用して製品・サービスを提供する企業にとっては、自然と直接的に接触しているサプライチェーンの上流の拠点・地域まで遡り、自然に関連するリスク・機会を適切にとらえることが望ましいといえます。

今後、TNFDフレームワークはパイロット・テストの結果等を踏まえ、さらに具体性を持ったものに成熟していくことが想定されます。しかし、方法論が明確に示されたとしても、陸、海洋、淡水、大気を含む「自然」という大きな存在を評価するという取組みが容易でないことは明らかです。早期からデータの整備や一部の事業・製品を対象としたテスト評価を始め、2023年9月の本格的なスタート後に生じる懸念点を可能な限り解決しておくことが、TNFDフレームワークをはじめとするネイチャー・ポジティブに向けた国際的潮流に乗り遅れないために重要となります。

KPMGはTNFDフレームワークの開発を行うタスクフォースのメンバーであり、専門家の知見を活かした生物多様性・自然資本関連支援を行っています。支援サービスに関しては、「生物多様性に関する課題対応支援」をご覧ください。

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