本連載は、日経産業新聞(2022年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

メタバース空間でイベントを開催

前回はメタバースビジネスについて解説しましたが、今回はデジタルコンテンツに直接関係のない事業を営む企業がどのようにメタバースに取り組んでいるのかをみてみます。

メタバースが注目される理由をこれまでいくつか紹介してきましたが、注目を集めるもう1つの理由は異業種連携を可能にするからでしょう。多くの場合、異業種連携の目的は新規事業の開発やマーケティング、生産性の向上、あるいはそれらの組み合わせではないでしょうか。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響でエンターテインメント業界をはじめ多くの企業がリアルな世界での事業が困難な状況にあるなか、メタバースといったインターネット上の仮想空間で新たな取組みを始めた事例が最近になって増えています。これまでリアルで開催していたライブコンサートなどのイベントや、海外旅行など観光業などで目立ちます。バーチャルイベントに合わせてアーティストとコラボしたアバター(分身)用のアイテムを期間限定で販売するなど、アーティストにとって新しい収入源となっているようです。一方、仮想空間を提供するプロバイダーはイベント開催によるマネタイズとともに、アーティストのファンという新たなユーザーを獲得できます。

メーカーもメタバース空間で自社製品に関連したイベントを開催するなど、Z世代をはじめとした若年層の取り込みに向けたマーケティング活動が活発です。メタバースでは親和性が高いコンテンツプロバイダーだけではなく、メーカーのような非コンテンツ系の事業者との連携により仮想空間ならではの顧客体験を実現することが可能になります。リアルな世界では、例えば自動車のような高単価商材は顧客とのタッチポイントが限られますが、仮想空間を活用することで顧客体験価値を向上させられます。事業者とユーザーの間でウィンウィンの関係をつくることができるのです。もちろん、メタバースでバーチャルイベントを開催したからといって必ずしも成功するとは限りません。成功例の裏には、人が集まらないといった失敗例も存在します。
次回からはメタバースビジネスの課題について解説します。

【仮想空間のメリット】 

・場所・空間、人数等の物理的な制約がない

・非現実的・非日常的な体験

・他社と気軽に交流できるコミュニティ

出所:「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業」(経済産業省)

執筆者

KPMGコンサルティング 
ディレクター  ヒョン・バロ

日経産業新聞 2022年4月26日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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