本連載は、日経産業新聞(2022年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
NFTを基盤とした新規ビジネスの誕生
前回取り上げたブロックチェーンゲームのような取組みは、いわば個人向けエンターテインメントを目的としたB2C(企業対消費者)事業です。今回からはメタバースビジネスの取組みに踏み込んで解説します。
経済産業省の調査報告書によると、仮想空間事業は(1)仮想空間を提供する「プラットフォーマー」(2)サービスやコンテンツを提供する「サービスプロバイダー」(3)仮想空間内でサービスを利用する「ユーザー(消費者)」の3つの構成要素からなります。
プラットフォームとしての仮想空間自体を提供するプラットフォーマーは、「Decentraland (ディセントラランド)」や「The Sandbox(ザ・サンドボックス)」などすでに多く存在します。この2社が代表的な例として取り上げられるのは、運営する仮想空間で使われる「MANA」と「SAND」と呼ばれる独自の仮想通貨があり、ユーザーが仮想空間上に店舗などを構築するための「デジタル土地」を販売するなど、仮想空間内に経済圏が形成されているからです。
世界的なNFT(非代替性トークン)ブームや米フェイスブックのメタヘの社名変更などでメタバースの注目度が上がったこともあり、NFTを基盤としたさまざまなデジタルオブジェクト(物体)の取引が活発に行われています。情報サイトのダップレーダーによると、2021年の1年間(1月1日~12月8日)で、MANAトークンは4635%、SANDトークンは1万4872%、それぞれ価値が上がったと言います。
筆者が面白いと感じるのは、デジタル土地の売買から派生した、これまで存在しなかった新たなビジネスの誕生です。例えば、仮想空間上で仮想建物の設計や施工を請け負う2次ビジネスが誕生しています。仮想土地所有者に対して仮想建物の設計構築サービスがメタバース事業者とは異なるサービスプロバイダーから提供されています。
2018年に創設されたNFTマーケットプレイス「SuperRare」では、アーティストが制作したデジタル住宅が50万ドルを超える価値で売買されました。そのデジタル住宅は現実の建物に比べても遜色ない完成度だといい、メタバース内でアバター(分身)が住む家として利用できるそうです。リアルなものをデジタル上に再現する「デジタルツイン」とは異なる、むしろ反対概念に近い「アナログツイン」のような取組みと言えるでしょう。
それではリアルな世界で事業活動を行っている事業者は、メタバースでどういうことができるのでしょうか。
次回は、既存事業と連携したメタバースの取組みについて見ていきます。
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執筆者
KPMGコンサルティング
ディレクター ヒョン・バロ
日経産業新聞 2022年4月25日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。