新型コロナウイルス感染症(以下、「COVID-19」という)拡大により、個人や企業が仮想空間へと活動の場を移しています。仮想空間上でアバター(自分の分身となるキャラクター)を操作して、他ユーザーと交流して遊ぶゲームやバーチャルイベントが話題となり、企業もイベントなどのリアルの代替手段やマーケティングの場として注目しています。VR・AR関連の市場規模も2022年には16.7億ドルに到達すると予想され、VRと関連する仮想空間市場も今後大きく成長することが見込まれます。
本稿は、さらなる活用が見込まれる仮想空間をビジネスとして展開する際の指針と今後の展望について解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 仮想空間を活用する際、仮想空間のメリットを理解したうえで目的(新規事業、マーケティング、生産性の向上)を明確にすることが重要である。
  • 仮想空間を提供するプラットフォームの登場により、ゲーム以外の事業者も仮想空間活用の障壁が低くなっている。
  • 仮想空間上で生活圏・経済圏が成立するメタバースを構築するには、コンテンツを軸にした利便性の編込みが必要である。
  • 仮想空間という新たな領域でビジネス展開する場合、発生し得るさまざまなリスクを既存領域のビジネスを参考に整理することが重要である。
  • 仮想空間ビジネスで発生し得る問題の対応策は、「アーキテクチャ(技術)」「市場」「規範」および「法」の4つの分類で考察することができる。

注目される仮想空間

COVID-19の感染拡大により、リアルでの活動が制限されたことで、企業・個人が軒並み仮想空間へと活動の場を移行しています。仮想空間とはVRの中でも「多人数が参加可能で、参加者がアバターを操作して自由に行動でき、他の参加者と交流できる、インターネット上に構築される仮想の三次元空間」のことを言います。たとえば、仮想空間でアバターを操作してスローライフを楽しむゲームは、世界累計販売本数が約3,200万本(2021年3月時点)の大ヒットとなりました。また、2020年5月に開催された現実の街を再現したバーチャルイベントは約5万人/日のユーザーを集客し、話題になりました。
エンターテインメント領域だけでなく、ビジネス領域においても活用が増えています。その多くが展示会、株主総会などのイベント利用ですが、一部の観光業や小売業においても活用されています。たとえば、多くの企業が出展し、デジタルアイテムやリアルの商品を仮想空間上で売買できるバーチャルマーケットは、世界中から100万人以上が来場するイベントとして注目を集めています。
総務省の令和2年版「情報通信白書」によると、世界のAR/VR関連ソフトウェアおよびサービス支出は2020年の11.7億ドルから2021年の14億ドルに成長し、2022年には16.7億ドルに達すると予測されています。
VRに関連する仮想空間市場は、今後大きく成長すると予想されます。

仮想空間ビジネスの目的とメリット

事業者が仮想空間の活用を検討する際、仮想空間のメリットを理解し、明確な目的を設定することが重要です。

1.仮想空間ビジネスの目的
仮想空間ビジネスの目的は大きく、「新規事業」「マーケティング」「生産性の向上」の3つに分類できます。

(1)新規事業
リアルの事業を、仮想空間で新規事業として展開する事例が多く見られます。たとえば、参加料で収益化を目指すバーチャルイベントやバーチャル観光などです。リアルではできない仮想空間ならではの体験の提供がマネタイズのポイントになります。
また、ノンファンジブル・トークン(NonFungible Token:NFT)の登場により、唯一無二のデジタルアイテムの保証が可能となりました。それにより、仮想空間内で利用するアバター、建物、美術品などのデジタルアイテムの売買、デジタルコンテンツのn次利用のビジネスが、今後はより活性化していくと思われます。

(2)マーケティング
リテラシーの高いミレニアル世代とZ世代へのリーチの場所として活用したり、仮想空間ならではの体験を提供して顧客のエンゲージメントを高めたりすることができます。たとえば、海外の大手自動車会社は、仮想空間内で自社の車両を試乗できるサービスを展開しています。自動車や不動産などの高単価商材は、顧客への体験が成約率に直結します。そのため、仮想空間で気軽に体験ができるのは事業者と顧客双方にとってメリットがあると言えます。

(3)生産性の向上
社員のコミュニケーションを円滑にする目的で仮想空間を活用する事例も多く見られます。コロナ禍におけるリモートワークでは難しい、対面での気軽なコミュニケーションを代替する手段として仮想空間が活用されています。
また、通常は再現困難な災害シミュレーションなどの実証実験の場としても活用されています。

2. 仮想空間ビジネスのメリット
仮想空間ビジネスのメリットは、主に以下の3つがあります。

  • 場所・空間、人数等の物理的な制約がない
  • 非現実的・非日常的な体験が可能
  • 他者と気軽に交流できるコミュニティ

ビジネス設計においては、これら仮想空間のメリットを把握し、仮想空間で対応することとリアルで対応することを明確に線引きする必要があります。

仮想空間のビジネス分類

1. プラットフォームの登場により、仮想空間の活用が容易
仮想空間のビジネス活用は、「仮想空間内で自社サービスを提供」「仮想空間をプラットフォームとして提供」に分類されます(図表1参照)。

【図表1】仮想空間のビジネス活用

仮想空間のビジネス活用

出所:「産業構造審議会 商務流通情報分科会 Connected Industriesにおける共通商取引ルール検討小委員会」の内容をもとにKPMG作成

(1)仮想空間内で自社サービスを提供
仮想空間を開発・運営する企業が、自社サービスやコンテンツを消費者へ提供する形態です。主にゲームが該当します。それ以外の活用では、技術面、コスト面で多くの課題があります。

(2)仮想空間をプラットフォームとして提供
プラットフォーマーが開発/運営する仮想空間内において、サービス提供者がサービスやコンテンツを消費者へ提供する形態です。前述のバーチャルイベントやバーチャルマーケットは、プラットフォーマーが提供する仮想空間をサービス提供者が利用し、ビジネス企画や空間設計・構築をして、一般消費者にサービスを提供するものです。ゲーム以外の活用用途が増えた理由には、仮想空間プラットフォーム事業者の存在が大きいとされています。仮想空間上で何かサービスやコンテンツを提供したい場合、まずはプラットフォームの利用を検討すると良いでしょう。

2. メタバースにはコンテンツを軸にした利便性を編み込む
現在、ゲームをはじめとした多くの仮想空間が存在しています。1つの仮想空間上でゲーム、音楽ライブなどの単一のサービスが提供される1対1のものが主流ですが、ゲームやバーチャルマーケット内で音楽ライブが実施されている事例も見られます。近い将来、1つの仮想空間で多様なサービスが提供され、一種の生活圏・経済圏を構築するメタバースの世界が訪れる可能性もあるでしょう。そのためには、仮想空間に多くのユーザーを滞在させるコンテンツを軸に、世界観が壊れない形で小売や教育などの利便性を提供するサービスをいかに融合させるかがキーとなると考えます。

仮想空間ビジネスで発生するリスクに備える

1. 新たな領域だからこそ、既存領域のビジネスにおける事例を整理する
仮想空間という新たな領域でビジネスを展開するからこそ、事業者は発生し得る問題や適用される法律といったさまざまなリスクを事前に認識し、対策を実施する必要があります。しかしながら、同領域は黎明期にあるため、事業者がリスクへの対策を考えるうえで参考となる仮想空間ビジネスの事例は少ないです。だからこそ、既存領域のビジネスにおいて発生した過去事例を整理することが、仮想空間ビジネスを展開するうえで重要であると考えます。
たとえば、仮想空間プラットフォーム上での利用者による著作権侵害といったトラブルは、既存の動画配信プラットフォームにおける事例が参考になります。このように、仮想空間ビジネスで発生し得る問題の多くは既存のビジネスにおいて過去に発生した問題と類似します。特にITプラットフォームビジネスの領域においては多様なビジネスが展開されており、参考になると考えます。

2. 法律面においても既存領域における法的論点の整理が有効
仮想空間ビジネスにおいて事業者が負う法的リスクを明確化するという点においても、既存ビジネスにおける事例の整理は有効です。越境ビジネスに適用される準拠法や、個人間取引におけるプラットフォーマーの責務といった、仮想空間ビジネスにおける主要な法的論点は、既存のITプラットフォームビジネスにおいて議論が進んでいます(図表2参照)。
しかし、仮想空間という新たな領域であるからこそ、現行法における対応の限界といった新たな法的論点が発生する可能性もあります。たとえば、仮想オブジェクトの資産性保護という観点における所有権の問題や、仮想キャラクター保護という観点におけるパブリシティ権などです。仮想空間の利用が拡大した場合、仮想空間固有の法的論点が顕在化する可能性があるため、事業者は留意しなければなりません。

【図表2】仮想空間ビジネスの参考事例となる既存ITビジネスの例

プラットフォームビジネス事業類型 既存のプラットフォームビジネスの仮想空間への適用可能性の検討
コンテンツ配信型プラットフォーム 仮想空間における音楽ライブ・イベントの開催事例は多数ある
2020年4月世界的に人気のアーティストが、海外シューティングゲーム内で音楽ライブを行い、同時に1200万人以上もの人を集めた。
SNS 仮想空間上のSNSプラットフォームは多数ある
2020年4月、国内の芸能人がゲーム内でファンと交流する画像をSNSへ掲載した。
アプリケーション・マーケット 仮想空間におけるアプリの販売プラットフォームは少数存在する
ゲームの開発やプレイが可能な米国の仮想空間プラットフォームでは、ユーザーがプラットフォーム内で創作したゲームが他のプレイヤーにプレイされると報酬がもらえる。年間1千万円以上稼ぐユーザーは250人以上存在する。
オンラインショッピングモール VRショッピングモールは2018年から複数回にわたり、期間限定で開催されている
XR関連企業が主催する仮想空間上の展示即売会では、2018年から計5回にわたり数日間限定VRショッピングモールで仮想空間内で3Dアイテムを購入できる。
マッチング型 仮想空間上のマッチングサービスは2020年頃から限定的に開催されている
米国のマッチングアプリにおいて、仮想空間上でデートを行う企画が期間限定で実施された。2020年9月、総勢130社が集結しVR就活イベントを開催した。

出所:公開情報をもとにKPMG作成

3. 仮想空間ビジネスで発生し得る問題の対応策
既存のITプラットフォームビジネスにおいて発生する問題の整理を行う場合、その対応策に関しては、「アーキテクチャ(技術)」「市場」「規範」および「法」という4つに分類し、考えることが可能です(図表3参照)。たとえば、上述の動画配信プラットフォームの利用者による著作権侵害の場合、AIによる著作権侵害動画の自動識別機能の追加が「アーキテクチャ」による対応策です。「市場」の対応策としては著作権利用のマネタイズモデル構築、「規範」では著作物利用のガイドライン配布などが該当します。このように、同様の問題に対しても複数の観点による対応策が実施可能となります。そのため、事業者は各分類における対応策を整理し、提供するサービスに適合する形を検討することが、リスク低減の観点で求められます。

【図表3】対応策の4分類

  アーキテクチャ 市場 規範
規制方法の種類 物理的な環境

技術的な制約
市場原理

インセンティブ
啓蒙

自主ルール(ガイドライン、事業者策定ルール、規約)
法律

条約

条例
長所 直接的な強制力

イノベーションの促進

ルール変更やニーズへの柔軟性
利用者にメリットがある場合は浸透しやすい

即時的な対応が可能
即時的な対応が可能

事業者負担は少ない

ルール変更やニーズへの柔軟性
民主的正統性

間接的な強制力

司法による公正な判断
短所 技術開発のための事業者負担が大きい

技術の進歩に依存
意図通りに機能しない可能性がある

初期市場での適用が困難
短期的な強制力が働きにくい

社会規範浸透までに時間を要する

ルールが乱立しやすい
実現まで時間を要する

イノベーションの阻害

過剰・過少規制

出所:『CODE VERSION2.0』(2007/12/20、ローレンス・レッシグ)
『GOVERNANCE INNOVATION Society5.0の実現に向けた法とアーキテクチャのリ・デザインVer1.1JP』(2020/7、Society5.0における新たなガバナンスモデル検討会)
公開情報をもとにKPMG作成

終わりに

日本において大きな産業であるゲームは、今までB2Cエンターテインメント市場が主戦場でしたが、ゲーム内広告や異業界の著作物とのコンテンツ連携を通じてB2B市場への進出も期待できます。そして、そのカギになるのが仮想空間です。たとえば、KPMGが支援する米国のゲーム会社Hi-Rez Studios社は有名観光都市である京都市と連携し、ゲームの仮想空間内で世界遺産を登場させるバーチャルツーリズムを提供、ゲームコンテンツの強化を図るとともに文化財保全金の確保も実現しました。こうした取組みは仮想空間だからこそ可能な新しいビジネスではないかと考えます。
本稿では、このようにポテンシャルの高い仮想空間を活用するビジネスに取り組むに当たって事前に検討しなければいけないリスクや法的な課題の一部を紹介しました。詳細にご興味がある方は、私たちが執筆に携わり、2021年7月13日に経済産業省より発表されたレポート「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業」もご参照ください。

※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。

執筆者

KPMGコンサルティング
ディレクター Hyun Baro
マネジャー 岩田 理史
コンサルタント 水沢 丈

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