カーボンニュートラル地域創生~KPMGが考える地方創生~

本稿では、国および地方公共団体における主なカーボンニュートラル関連政策の枠組み、特に洋上風力発電と水循環に着目して最近の動向や自治体における取組み事例を紹介します。

本稿では、国および地方公共団体における主なカーボンニュートラル関連政策の枠組み、特に洋上風力発電と水循環に着目して最近の動向や自治体における取組み事例を紹介します。

2020年10月における政府による2050年カーボンニュートラル宣言を受けて、カーボンニュートラルが国および地域における政策の重要テーマとなっています。そのカーボンニュートラルは、実は地方創生の文脈においても重要なテーマとなっています。

本稿では、国および地方公共団体における主なカーボンニュートラル関連政策の枠組み、特に洋上風力発電と水循環に着目して最近の動向や自治体における取組み事例を紹介します。

洋上風力発電については、2021年5月と12月に行われた促進区域計4海域における入札結果を踏まえた洋上風力と地域経済への波及効果の洞察、水循環については、愛知県矢作川カーボンニュートラルプロジェクトを基に、流域マネジメントという新たな地方創生の動きについて取りまとめています。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

POINT1 従来の地方創生モデルからカーボンニュートラル地方創生モデルへ
カーボンニュートラルが地方創生の新たなテーマとして加わる。カーボンニュートラルは複数テーマの結節点となっており、従来の地方創生はカーボンニュートラル地方創生モデルへと変わる。

POINT2 地方創生につながる再エネ導入の促進
改正地球温暖化対策推進法では、2050年カーボンニュートラルを基本理念にするとともに、地域の再エネを活用した脱炭素化を促進する事業を推進する計画・認定制度が盛り込まれた。

POINT3 着目すべき領域1 ~洋上風力発電~
2050年カーボンニュートラルを達成するため、第6次エネルギー基本計画では再生可能エネルギー拡大を目指している。特に、洋上風力発電はエネルギー業界以外の関連産業への波及効果が大きく、地域活性化に大きく寄与する取組みとして高い期待が寄せられている。

POINT4 着目すべき領域2 ~水循環~
愛知県矢作川カーボンニュートラルプロジェクトは、“水循環”をキーワードに、森林保全や治水などの流域マネジメントを分野横断で実施するプロジェクトである。水循環をプラットフォームとしたカーボンニュートラルの取組みは、「地域」一帯にその効果をもたらすことが期待されている。

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I.日本の主なカーボンニュートラル関連政策

1.温暖化の将来予測と緩和策

気候変動に関する予測は、1988年に設立された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)において、設立以来、定期的に作成されている報告書の中で述べられています。2021年から本年にかけて、第6次評価報告書が公表されており、2022年4月には第6次評価報告書の第3作業部会報告書1が公表されました。これによると、COP262より前に発表・提出された各国のNDCs3の履行では、21世紀中に温暖化が1.5℃を超える可能性が高い見込みであり、2030年以降に温暖化を2℃よりも低く抑えることは難しくなるだろうと述べられています。そして、今以上に政策を強化していかなければ、温室効果ガス排出量は2025年以降も増加し続け、2100年には約3℃の温暖化をもたらす可能性があるとされています。

一方、同報告書では、費用が100米ドル/トンCO2換算以下の緩和策により、世界全体の温室効果ガス排出量を2030年までに少なくとも2019年レベルの半分に削減することが可能とも指摘しています。具体的には、エネルギー関連であれば太陽光発電や風力発電を中心とする再生可能エネルギーの導入、農林業・土地利用であれば農業におけるカーボン隔離、森林やその他の生態系の転換の減少、生態系の復元・植林・森林再生などが挙げられます。

この報告書から読み取れることは、2030年以降に急速かつ大幅な温室効果ガス排出量の削減に転じなければ、気温上昇を1.5℃に抑えることは困難であること、そして2025年までに温室効果ガス排出量を頭打ちにする必要があるということです。1.5℃の達成に向けて、利用可能なすべての対策を早急にとらねばなりません。とはいえ、それは必ずしも費用が多くかかるものばかりではなく、比較的安い費用の対策をさらに促進・拡充させることによっても可能です。

2.日本のカーボンニュートラル政策に関する主な枠組み

日本では、2020年10月に菅第99代内閣総理大臣が所信表明演説において、2050年までにカーボンニュートラルを目指すと宣言しました。また、同年11月には、衆参両議院において「気候非常事態宣言」が決議されています。カーボンニュートラルは、温室効果ガス/CO2の排出と吸収でネットゼロを意味する概念4とされており、2020年12月に2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(2021年6月に改訂)が策定されました5。また、2021年4月に示された新たな指針「2030年度の新たな温室効果ガス削減目標として、2013年度から46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続ける」が、わが国の中期目標として位置づけられています。

2021年5月には地球温暖化対策推進法の改正において、2050年カーボンニュートラルを基本理念として法定化がなされました。この改正により、国民、地方公共団体、事業者などによる脱炭素社会の実現に向けた政策の継続性や予見性を高め、脱炭素に向けた取組み・投資やイノベーションを加速させることが意図されています。

続く2021年10月には、「地球温暖化対策計画」、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」、「第6次エネルギー基本計画」がそれぞれ閣議決定6され、2050年カーボンニュートラルに向けた基本的な考え方、ビジョン等を示すと同時に、諸関連計画等の策定・改正によって実行面での環境整備が行われています。

さらに、気候変動対策において緩和策の両輪とされる適応策についても、同じく2021年10月に気候変動適応法7に基づく気候変動適応計画の変更が行われ、防災、安全保障、農業、健康等の幅広い分野で適応策を拡充することなどが盛り込まれています(図表1参照)。

図表1 カーボンニュートラル政策に関する主な枠組み

図表1 カーボンニュートラル政策に関する主な枠組み

出典:KPMG作成

3.地域における主なカーボンニュートラル関連施策

上記のような国における政策動向を踏まえ、ここでは地域、特に地方公共団体に関連する政策の動向について概括的に述べます。

(1)地域脱炭素ロードマップ
国と地方の協働・共創による地域における2050年脱炭素社会の実現に向けて、国は2020年12月から2021年6月にかけて「国・地方脱炭素実現会議」を開催し8、「暮らし」「社会」分野を中心に、2050年脱炭素社会実現に向けたロードマップ(地域脱炭素ロードマップ)を取りまとめています。

その中で、2030年度目標および2050年カーボンニュートラルという野心的な目標に向けて、今後の5年間に政策を総動員し、人材・技術・情報・資金を積極支援するものとし、1.2030年度までに少なくとも100か所の「脱炭素先行地域」をつくる、2.全国津々浦々で重点対策を実行(自家消費型太陽光、省エネ住宅、電動車など)することが掲げられました。これらにより、モデルを全国に伝搬し、2050年を待たずに脱炭素達成(脱炭素ドミノ)することを目指しています(図表2参照)。

図表2 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略

図表2 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略

(2)脱炭素先行地域
上記の「脱炭素先行地域」では、地域と暮らしに密接に関わる分野の温室効果ガスの削減に取り組んでいます。2030年までに民生部門9の電力消費に伴うCO2排出については実質ゼロを、運輸部門や熱利用等も含めてその他の温室効果ガス排出削減についても、日本全体の2030年度目標と整合する削減を地域特性に応じて実現することなどが削減レベルの要件となっています。

この脱炭素先行地域の選定は、2022年度から2025年度までの各年度2回程度行うことが想定されています10。選定された地方公共団体等には、再エネ設備整備、地域再エネ導入・利用最大化のための基盤インフラ設備導入、省CO2等設備の導入のために「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」(令和4年度予算額200億円)に応募ができることになっています11

(3)ゼロカーボンシティと地域脱炭素化促進事業
このような流れを受けて、2050年二酸化炭素排出実質ゼロを表明した自治体、いわゆるゼロカーボンシティは、2022年3月31日時点においては679自治体(41都道府県、402市、20特別区、181町、35村)と2019年9月の4自治体から加速的に増加しています12。先に述べた改正地球温暖化対策推進法では、前述のカーボンニュートラルの法定化のほかにも、地方創生につながる再エネ導入を促進するため、地域の再エネを活用した脱炭素化を促進する事業(地域脱炭素化促進事業)を推進するための計画・認定制度の創設が盛り込まれています。

これは、地域の求める方針(環境配慮・地域貢献など)に適合する再エネ活用事業を市町村が認定する制度となっており、関係者等との協議に基づき、市町村が地方公共団体実行計画(目標や促進区域を含む)を策定し、その計画に合致する地域脱炭素化促進事業計画を認定するものとなります。認定された事業は、関係法令の手続きのワンストップ化等の特例13を受けられるなど、円滑な合意形成を促進することで地域の再エネ導入が加速すると期待されます。

(4)脱炭素化支援機構(脱炭素事業への新たな出資制度の創設)
地域脱炭素ロードマップに基づき、国全体であらゆる分野において脱炭素への移行につながる取組みを加速させるため、新たな官民ファンド(出資制度)の創設が検討されています14、15

脱炭素化支援機構は、国から財政投融資を活用して出資される200億円を呼び水として、1,000億円程度の規模の脱炭素事業を実現することを想定。資源循環や森林保全、炭素固定など、非エネルギー起源の温室効果ガス排出抑制事業にも適用できる仕組みとなっており、地域での幅広い活用が期待されます。

II.着目すべき領域 ~洋上風力発電~

1.国内洋上風力市場への期待

2050年にカーボンニュートラル達成という大きな目標を掲げる日本は、第6次エネルギー基本計画(以下、「第6次計画」という)において、2030年の電源構成として再生可能エネルギーによる発電割合を36~38%としています。2019年度時点での再生可能エネルギーの電源構成割合が18%程度であることから、この数値目標は野心的な目標と言えます。

大幅な再生可能エネルギー拡大を目指す日本での風力発電への期待は高く、第6次計画では2030年の目標として風力発電の電源構成割合を5%程度とし、発電電力量として510億Kwhという目標を掲げています。風力発電にとって最も重要なのは風況ですが、その風況が日本近海は良好なため期待が高いのですが、陸地における適地は少ないとされています。そのため、洋上風力発電のポテンシャルへの期待が高まっています。

洋上風力発電の開発に向けた動きは、2018年の第5次エネルギー基本計画において再生可能エネルギーの推進が打ち出されて、2019年4月1日に海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(平成30年法律第89号。以下、「再エネ海域利用法」という)が施行されたことで本格化しました。

再エネ海域利用法においては、国が指定した促進区域において、国の実施する公募制度を通じて選定された事業者が事業を行うこととされています。具体的には、2019年7月に一定の準備が進んでいる区域として11区域、うち有望な区域として4区域が公表され、2019年12月に長崎県五島沖(浮体式)が、2020年7月に千葉県銚子沖をはじめとする3海域(着床式)が促進区域に指定されました(図表3参照)。その後、公募占用指針が公示されて公募開始となりました(図表4参照)。

図表3 促進区域、有望な区域等の指定・整理状況(2021年9月13日)

図表3 促進区域、有望な区域等の指定・整理状況(2021年9月13日)

図表4 洋上風力公募案件一覧

図表4 洋上風力公募案件一覧

2021年5月と12月に、上記促進区域計4海域について入札結果が開示されました。着床式3海域については、同一事業者(三菱商事を中心とするコンソーシアム)により落札されたこともあり、2021年は「国内洋上風力元年」だったと言えます。

当該公募プロセスは今後10年にわたり毎年継続し、その後の事業期間を含めれば40年間の事業継続がなされます。市場規模としては累積で2030年6GW、2040年18GWと、大きな投資とビジネスの成長機会が見込まれています16。最大想定市場規模も、単年ベースで2030年が6,200億円、2040年が9,700億円程度と試算されています。

2.洋上風力とサプライチェーン

日本における洋上風力は新しい産業を創造する取組みとも言われています。洋上風力発電は構成機器・部品点数が多く、エネルギー業界以外の関連産業への波及効果が大きいとされているからです。洋上風力発電事業を進めていくにはサプライチェーンの整備が必要不可欠で、かつその裾野が広いというのが理由です。

たとえば、投融資という側面から言えば、資金面では銀行から融資を受けることになりますが、建設リスクや事業リスクを軽減するためには損害保険会社等も不可欠となります。また、発電量を予測するためには、風況や天候の予測や調査が不可欠ですし、設備・仕様に関しても、技術開発や研究・検証が必要です。そのためには、天気予報会社や技術コンサルタント、その他調査会社が不可欠な存在となります。
風車メーカーや関連する部品メーカー、そして建設事業者、それは風車設置だけでなく、海底ケーブルや洋上での変電所設置等、さまざまな分野の建設事業者を必要とします。建設工事には不可欠な船舶や完工後のメンテナンス事業者も重要です。また、沖合での工事を行う際には港湾が出発点となりますので、港湾整備も不可欠な要素となります。

つまり、政策として国内洋上風力市場の発展を促すには、開発を促進する政策誘導によって競争環境を整備し、サプライチェーンを整備できる環境を構築することが不可欠なのです。ただし、各分野で大きな投資が必要であるため、事業リスクを明確化・細分化したうえで投融資環境を進める制度や法的な整備が必要となります。また、技術革新に向けた研究開発を促進する制度等も求められます。サプライチェーン整備は開発海域近くの地域が、部品製造、建設、O&Mというプロジェクトの大きな流れの中で中心地となっていくことが理にかなっています。これは、結果として地方創生につながっていくものと期待されています。

3.地域貢献策の重要性

洋上風力発電の開発事業者は、入札時に公募占用計画を策定します。その中の大きな項目として「地域との調整」ならびに「地域経済等への波及効果」という項目があります。関係海運事業者や漁協関係者との調整、自治体との対話、地元雇用や地域への投資効果、産業育成等が求められ、計画の審査項目となっています。

サプライチェーン整備には開発海域付近の地域の協力や共生は不可欠であることはすでに述べましたが、地元への部品工場誘致や建設工事基地の地元整備、地域金融機関からの融資、調査や新技術の研究のための地元企業ならびに地元大学等との連携など、さまざまな地域貢献策が今後各事業者から打ち出されるでしょう。そして、それは審査のうえでも期待されています。

一方で、現状のFIT制度においては、洋上風力で発電された電源が必ずしも地元での電力消費に直結するわけではありません。そのため、地域貢献策が投資や雇用という側面には直結するものの、地域におけるカーボンニュートラルという文脈につながっていないと感じる人々もいるかもしれません。洋上風力発電という供給側だけでなく、電力消費やサプライチェーン関連での電力需要側でも、地域創生を考える必要があるのではないでしょうか。

いずれにせよ、入札時の公募占用計画において地方貢献策は重要項目です。しかも、サプライチェーン整備には地域一体での開発が必要不可欠である以上、地方創生の大きな柱として洋上風力事業は位置づけられていくと考えられています。

III.着目すべき領域 ~水循環~

1.愛知県矢作川カーボンニュートラル

政府の2050年カーボンニュートラル実現の宣言を受けて、自治体においても具体的な取組みが加速しています。愛知県は、1994年に全国に先駆けて、県の地球温暖化対策を体系化した「あいちエコプラン21」を、2018年2月には「あいち地球温暖化防止戦略2030」を作成して、取組みを進めています。

そして、2021年9月に「矢作川カーボンニュートラル(CN)プロジェクト」に着手しました。本プロジェクトはカーボンニュートラル(以下、「CN」という)の実現に向けて、“水循環”をキーワードに森林保全、治水、利水、下水処理などにおいて最新の技術を活用し、総合的かつ分野横断的にあらゆる施策を推進するものです。

2022年3月30日の知事会見「矢作川カーボンニュートラル(CN)の全体像をとりまとめました」17によると、本プロジェクトの方向性や全体像は以下の通りです(図表5参照)。

図表5 矢作川カーボンニュートラルプロジェクト

図表5 矢作川カーボンニュートラルプロジェクト

(1)CO2削減及び吸収対策の推進

  • 小水力発電施設新設など再生可能エネルギーの創出や省エネルギー化によるCO2排出量の削減を図る対策を推進する。
  • 緑地保全など、CO2吸収量の維持・向上を図るための対策を推進する。


本プロジェクトでは対策効果の定量化を試みており、想定条件下における概算ポテンシャルは、CO2削減量は43,525t-CO2/年、CO2吸収量は26,187t-CO2/年、創出電力量と削減電力量の合計は約96,800MWh/年(約21,500世帯分)と試算されています。
 

(2)分野横断した流域マネジメントの実施

  • 季節や時間帯などによる発電量の変動が大きいグリーン電力の効率的なマネジメントを推進する。
  • あらゆる利水者が連携して調整を行い、一元化した運用管理による無駄のない水利用を目指す。


分野を超え一元化した管理運用によって、「地域グリッドによる電力マネジメント」、「水循環マネジメントによる水利用の最適化」、「上下水道施設の連携による省エネ化」といった対策を講じて、矢作川流域における「流域マネジメント」の実現を目指すとされています。
 

(3)CNに関する総合的な取組みの検討

  • 新技術の導入による新たな対策や、CN対策の促進に向けた制度改正の提案など、矢作川流域におけるCN対策を幅広く総合的に検討する。


「排出ガスに含まれるCO2の分離・回収する他液化炭酸ガス等生成新技術の活用」、「低炭素型建設機械の使用等の建設業全般におけるCO2排出量の削減を検討」、「動物、ヒト、環境、スマート共生統合DXプラットフォーム(仮称)による水資源、食料生産、健康への一連リスクの低減の実現」を検討するとされています。

今後は、県関係部局、有識者、国の関係省庁等からなる「研究会」と、下部組織として個別検討を行う「分科会」を設立し、研究会では総合的な検討を行い、分科会は個別対策毎に具体的な調査・検討を行うとされています。

IV.従来の地方創生モデルから、CN地方創生モデルへ

1.カーボンニュートラル(CN)は、「地域」が主役

(1)洋上風力発電による地域起点のサプライチェーン構築、地域活性化
国は、再エネ海域利用法に基づき、洋上風力発電事業の実施に適合した海域を促進区域として、その区域内で最大30年間の占有許可を事業者へ与えています。洋上風力産業は、大型風車の設置・維持管理に必要な基地港湾の整備、国内調達・コスト低減目標を達成すべく投資促進、サプライチェーン形成、雇用創出、関連産業への波及効果が期待され、地域活性化に大きく寄与します。洋上風力発電は、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札であり、その事業展開は「地域」がプラットフォームとなり、再エネ産業を中心とした地方創生が実現します。

(2)水の循環がもたらすCN流域マネジメント
水が、蒸発、降下、流下または浸透により、海域等に至る過程で、地表水、地下水として河川の流域を中心に循環すること、すなわち水循環においては、人の活動と環境保全に果たす水の機能を適切に保つことが持続的な社会を築く上で重要となります。循環の過程では、1つの施策を行うことが他の環境へ影響するため、水循環をプラットフォームとしたCNの取組みは、「地域」一帯にその効果をもたらすことが期待されます。

従来からの治水および利水に加えて、ダム再編・高度利用による発電量増強、エネルギー地産地消(水上太陽光発電、小水力発電、間伐材バイオマス発電)、浄水場・下水処理場の一体運営・最適化による省エネ等の施策によるCN流域マネジメントという地方創生の実現が期待されます。

このように、これからの行政(国、地方自治体)は、地域のポテンシャルを最大限活用するために、CNという観点から地域のプラットフォームを整備することで、CNに取り組む民間企業との官民連携の機会を創出することが求められています。

2.CN地方創生とは

地方創生の実現に向けた主なテーマとしては、「行政マネジメントの高度化」、「地域経済の活性化」、「サステナブルなインフラ・住民向けサービス提供」、「スマートシティ」、「地域医療体制改革」等が想定されます。今後は、CNが新たなテーマとして加わるとともに、CNが複数テーマの結節点となります。

なぜならば、CNへの取組みはCO2排出削減の観点から地域エネルギー循環における「省エネ」、地域ポテンシャルの最大活用の観点から地域バイオマス等による「創エネ」、「再エネ」による地域まちづくり等に作用するからです。

CNが地方創生の推進役であり、その担い手は行政と民間企業です。つまり、官民連携の手法をもって、CN地方創生が実現されるのです。

(1)CN地方創生を実現する手段、Public Private Partnership
官民連携とは、公共施設等の建設、維持管理、運営等を、行政と民間が連携して行うことにより民間のノウハウ、創意工夫、資金を活用し、財政の健全化や行政の効率化を図るものです。具体的には、包括的民間委託、指定管理者制度、DBO(Design-Build-Operate)、従来型PFI(Private Finance Initiative)、コンセッション(公共施設等運営権制度)があります。

なお、洋上風力発電では、国が魅力的な国内洋上風力市場を創出するために2040年30~45GWという導入目標にコミットし、民間企業は、国内調達率・コスト低減目標にコミットすることで、官民一体となって需要創出し、競争力がある強靭な国内サプライチェーンを形成します。これは、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた官民連携でもあります。

(2)官民連携手法の組合せにより、複数事業のバンドリングを実現
官民連携手法は、対象施設、対象事業、期間、民間関与(設計、建設、運転、維持管理)、民間自由度(事業経営、料金の設定・収受)に応じて選択されます。CN実現に向けた取組みを含む複数の事業を地域一体で展開するために、官民連携手法を組み合わせることも有効です。たとえば、高知県須崎市の公共施設等運営事業+包括的民間委託等では、次のように事業ごとに異なる手法で連携しています。

  • 下水道の終末処理場および管渠(汚水)の経営、企画、運転維持管理 [公共施設等運営事業]
  • 漁業集落排水処理施設の維持管理、クリーンセンター等の維持管理 [包括的民間委託]
  • 雨水ポンプ場の保守点検、管渠(雨水)の維持管理 [委託]


(3)民間提案型の官民連携の推進

CN地方創生を推進するには、民間提案型の官民連携を積極的に活用する必要があります。いわゆるPFI法6条提案や随意契約保証型民間提案制度です。行政によるこれらの提案制度の積極的な活用が、CNに取り組む民間企業のインセンティブを高めることになり、CN地方創生の推進に有効となります(図表6参照)。

図表6 クライアントイシューと想定オポチュニティー地方創生

図表6 クライアントイシューと想定オポチュニティー地方創生

出所:KPMG作成

V.おわりに

新型コロナウイルス感染症の拡大は、図らずも東京一極集中を改めて見直す機会となりました。リモートワークの普及により、主要都市部から地方へのヒト、モノ、カネの分散が見られるようになったのです。

しかし、地方の定住人口増加、地域経済活性化、雇用創出という地方の課題を解決するには、もう一段の取組みが必要です。地方創生の各種課題の解決に直結し、かつ民間企業が経済投資活動として参画できるもの、それが脱炭素社会の実現という御旗だと思います。

地域ポテンシャルを最大限生かすべく、官民連携によるCNへの取組みこそが、これからの「地方創生」であります。

1 Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change
2 国連気候変動枠組条約第26回締約国会議。2021年10~11月に英国のグラスゴーで開催された。
3 Nationally Determined Contributions、パリ協定のもと国が決定する貢献(温室効果ガス排出削減の長期目標等)。
4 資源エネルギー庁「第1部 エネルギーをめぐる状況と主な対策 第2章 2050年カーボンニュートラル実現に向けた課題と取組 はじめに」(2021年)
5 経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました」(2020年12月25日)
6 環境省「「地球温暖化対策計画」及び「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」の閣議決定並びに「日本のNDC(国が決定する貢献)」の地球温暖化対策推進本部決定について」(2021年10月22日)および経済産業省「第6次エネルギー基本計画が閣議決定されました」(2021年10月22日)
7 平成30年6月13日公布、平成30年12月1日施行。気候変動適応計画と気候変動影響評価について規定。
8 内閣官房「国・地方脱炭素実現会議」(2022年5月24日確認)
9 家庭部門及び業務その他部門
10 第1回目の公募は令和4年1月25日~2月21日に実施済み。第1回目として、79件の計画提案のうち26件が採択された(令和4年4月26日)。
11 環境省「地域脱炭素」(2022年5月24日確認)
12 環境省「地方公共団体における2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明の状況」(2022年5月24日確認)
13 自然公園法・温泉法・廃棄物処理法・農地法・森林法・河川法の関係手続きのワンストップサービスや事業計画の立案段階における環境影響評価法の手続き(配慮書)の省略。
14 脱炭素ポータル「脱炭素化支援機構の設立準備中です」(2022年6月16日更新)
15 2022年2月8日に「地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定し、第208回国会(208-25)に提出中。2022年秋頃に成立予定。
16 前提条件:
導入:IEA(持続可能なシナリオ)を使用
シナリオ:2020年の着床式コストに基づいたシナリオ:{当年導入量(GW)×2020年のサプライチェーン前提での資本費(円/kW)}+{当年を含めた導入済容量の累積×運営維持費(円/kW)}により算出
Source:資源エネルギー庁 - 再エネ海域利用法に基づく公募用指針について - 2020年8月/24P(NEDOによる算出)
17 愛知県「「矢作川カーボンニュートラ(CN)プロジェクト」の全体像を取りまとめました」(2022年3月30日更新)

執筆者

KPMGジャパン ガバメント・パブリックセクター
あずさ監査法人 常務執行理事/パブリックセクター本部長
パートナー 村松 啓輔

KPMGジャパン ガバメント・パブリックセクター
KPMG FAS 執行役員
パートナー 宮本 常雄

KPMGジャパン ガバメント・パブリックセクター
パートナー 猿田 晃也