本稿は、「KJ(建設ジャーナル)」2021年6月号に寄稿された記事の転載となります。掲載にあたっては、株式会社KJの許可を得ており、また、以下の文章は原則連載時のままとなっていますが、場合によって若干の補足を加えていることをお断りします。

国内では、1999年にPFI法が公布され、2011年の改正PFI法により、公共施設等運営権が認められました。 PFI法から22年、法改正から10年が経った現在PPP・PFIが必要とされる背景、最新動向を整理した後に、PPP・PFIに取り組む企業の状況、今後の方向性について述べたいと思います。

本論のポイント

・運営を重視した成果連動型契約、包括的維持管理が増加している。

・PPP・PFIに取り組む企業の取り組み姿勢は、過去20年と直近3年では、特徴が異なり、ゼネコンが代表企業を務めるコンソーシアムから維持管理運営企業が代表企業を務めるコンソーシアムや、維持管理運営にフォーカスしたコンソーシアムが増えている。

・施設単体でなく、複数施設を束ねた包括的成果連動型契約の必要性が高まっている。

PPP・PFIの最新動向

(1)PPP・PFIが求められる背景
PFIの目的は、公共施設などの建設、維持管理、運営などに民間の資金、経営能力および技術的能力を活用し、効率的かつ効果的な社会資本整備を図ることにあります。

政府基本方針では、PFI事業は以下3点の成果をもたらすものと期待されています。
1. 国民に対する良好かつ低廉なサービスの提供
2. 公共サービスの提供における行政の関わり方の改革
3. 民間の事業機会の創出などによる経済構造改革の推進

(2)直近の案件数、総事業費
PFIの実績は年々増えており2019年までの実績は818件に上っており、契約金額も6兆5,000億円を超えています。
法改正以降の公共施設等運営権(コンセッション)事業も35件になっています。
分野で比較すると、教育・文化が1番多く、道路・公園・上下水道などのインフラ関連が2番目に多くなっています。

PFI事業の実施状況 分野別実施方針公表件数(2020年3月31日現在)

 

分野

事業主体別  合計
地方 その他
教育と文化(社会教育施設、文化施設など) 3 231(23) 42(2)

276(25)

まちづくり(道路、公園、下水道施設、港湾施設など) 21(3) 174(23) 2 197(26)
健康と環境(医療施設、廃棄物処理施設、斎場など) 0 120(9) 2

197(26)

庁舎と宿舎(事務庁舎、公務員宿舎など) 47(2) 20(4) 6 73(6)
安心(警察施設、消防施設、行刑施設など) 8 18 0 26
生活と福祉(福祉施設など) 0 25(1) 0 25(1)
産業(観光施設、農業振興施設など) 0 21(3) 0

21(3)

その他(複合施設など) 7 68(5) 2(1) 77(6)
合計 86(5) 677(68) 55(4) 818(77)

(注1)事業数は、内閣府調査により実施方針の公表を把握しているPFI法に基づいた事業の数であり、サービス提供期間中に契約解除または廃止した事業および実施方針公表以降に事業を断念しサービスの提供におよんでいない事業は含んでいない。
(注2)括弧内は2019年度の実施件数(内数)

PPP・PFIに取り組む企業

(1) PPP・PFIに取り組む代表企業、構成員(過去20年)
過去20年を通じてPPP・PFIに取り組む企業で実績が最も多いのは大林組で、梓設計、鹿島建設、大成建設、九電工という順でゼネコンが多くなっています。

  企業名 総合計 代表 構成 協力
1 大林組 52 42 6 4
2 梓設計 48 0 35 13
3 鹿島建設 44 17 24 3
4 大成建設 40 28 10 2
5 九電工 34 13 18 3
6 清水建設 32 26 6 0
7 日本管財 32 1 31 0
8 東急コミュニティー 31 1 30 0
9 東洋食品 30 26 4 0
10 合人社計画研究所 29 13 16 0

(2) 過去3年の実績
直近3年(2017~2019年度)でみると合人社計画研究所、九電工、梓設計、NECキャピタルソリューション、日本管財となっており、運営・維持管理に関連する企業が増えてきています。
過去3年の実績数トップの合人社計画研究所は、特に地方の中小型案件 公営住宅、学生寮、体育館、給食センター、斎場などで実績を積んでおり、今後は、エリアマネジメント、Park-PFI などの要素を含む事業にも挑戦していく方針とのことです。

  企業名 総合計 代表 構成 協力
1 合人社 計画研究所 15 9 6 0
2 九電工 14 3 10 1
3 梓設計 12 0 9 3
4 NEC キャ ピタルソリューション 11 1 9 1
5 日本管財 9 1 8 0
6 大和リース 8 6 1 1
7 パシフィックコンサルタンツ 8 1 1 6
8 ユーミー設計 8 0 7 1
9 石本建築事務所 7 0 0 7
10 東急コミュニティー 7 1 6 0

今後のPPP・PFIの方向は

(1) 成果連動型民間委託契約方式
新しい公共調達による公共の財政健全化を目指し導入されたPPP・PFIですが、都市の抱える課題は多様化・複雑化しており、特に運営・維持管理フェーズの公共負担の増加や先が見通せない複雑な社会課題が増加しています。
運営・維持管理フェーズの公共負担の削減に向けて、運営・維持管理にフォーカスした公共施設等運営権制度の活用が空港や上下水道、集客施設などで増えています。
また、公共発注の成果を明確に規定できず、事業に対する予算化を庁内や議会、市民に説明できない事案について、成果連動型民間委託契約方式(PFS:Pay For Success)やSIB(Social Impact Bond)の導入がヘルスケア分野などにおいて進んでおり、国土交通省では、まちづくりSIB導入に向けて調査検討を進めており、2021年度に前橋市での導入に向けた具体的な支援を進めています。
また、豊田市は「豊田市つながる社会実証推進協議会」の取り組みとして、新しい官民連携の仕組みであるSIBを初めて活用し、介護予防事業を推進しています。団塊の世代の後期高齢化に加え、新型コロナウイルスの影響で高齢者の外出機会が減少しているという課題の解決を オンライン交流、オンライン運動、 3密を回避したオフライン交流により目指しており、豊田市は企業版ふるさと納税の活用も検討しています。
このようなまちづくりにおける成果連動型委託の取り組みは今後増えていくことが予想されます。

(2) 包括的民間委託
施設単体でなく、複数施設をまとめた包括的民間委託が施設・インフラの維持管理を中心に増えています。上下水道や道路、公園、河川、公共施設などが主な対象となっており、公共施設の包括管理委託は、流山市や東村山市などで進んでいます。
包括的にインフラ・施設の維持管理を民間委託することでスケールメリットによるコスト削減を目指している取り組みとなります。これまでの包括委託の取り組みはありましたが、各自治体の財政悪化に伴い、インフラ、施設に加えて、エネルギーや交通などにも広がることが予想されます。

(3) IT関連企業のPPP・PFIへの参画
運営を重視した集客施設の事例として、愛知県新体育館は、最新の運営重視型PFI(BT+コンセッション)となっています。
建設時は前田建設工業が代表企業で、運営時はNTTドコモが代表企業となっており、共同事業体に三井住友ファイナンス&リース、東急、中部日本放送、日本政策投資銀行、クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドなどが参画しています。
特に最近のスタジアム・アリーナビジネスに関してはこれまでの体育館運営事業者ではなく、他業種からの参入が多く見られます。DeNA、ミクシィ、メルカリ、スマートバリュー、電通、三井不動産などIT関連からデベロッパーまで幅広くなっており市場の広がりが感じられます。コンテンツ(チームやアーティスト)やデジタル(オンライン配信やアプリ、e-sports)などとの親和性も高く、市民の余暇時間の奪い合いの中でスタジアム・アリーナビジネスは存在感を増しています。
これまでPPP・PFIに関与していない企業の参画も多数見られ、またコンテンツやデジタルの活用も積極的であることから、PPP・PFI市場の拡大を牽引することが期待されます。

(4)デジタル化を活用した包括的成果連動型契約の必要性
少子高齢化に加えて、複合災害、市民ニーズの多様化など地域が抱える課題はより複雑化し、さらに運営を重視した成果連動型契約が増えることが想定されます。また、自治体の財政状況もより厳しくなり、インフラ・施設の維持管理が厳しくなるため、包括的維持管理が増加するでしょう。一方で、デジタル技術を活用した効率化も必須となります。
今後は公共施設単体での成果連動型契約に加えて、複数施設を取りまとめた包括的成果連動型契約も必要となっていくと予想されます。このような潮流はデジタル化との親和性も高く、利便性向上に加えて、各施設DX化に必要となるオペレーションや窓口、予約、決済の仕組みを共通化することで劇的なコスト削減も期待されます。
このように新しい事業スキームとプレイヤー、デジタル技術を重ねることで、PPP・PFI市場が次のフェーズに進むことが期待されます。

執筆者

KPMG コンサルティング
シニアマネジャー 大島良隆
コンサルタント 河江美里

デジタル化と官民連携による都市・建築への影響

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