本稿は、「KJ(建設ジャーナル)」2021年6月号に寄稿された記事の転載となります。掲載にあたっては、株式会社KJの許可を得ており、また、以下の文章は原則連載時のままとなっていますが、場合によって若干の補足を加えていることをお断りします。
少子高齢化が進み、複合災害や住民ニーズの多様化などにより地域課題が複雑化しており、建築・都市において多様な官民連携(資金調達、契約形態等)、デジタル技術の活用、人材育成などが求められています。また、成果連動型などの新しい事業スキームや新規プレイヤーの参画、デジタル技術の活用などさまざまな取組みやユースケースが出てきています。
本寄稿では、スマートシティの視点とPPP・PFIの視点を中心に都市および建築が置かれている現状と今後の可能性について述べたいと思います。
本論のポイント
・4省庁(内閣府、国土交通省、経済産業省、総務省)を中心にスマートシティの支援事業を進めており、スマートシティ第3世代が伸長。また、スーパーシティの公募も進展している。 ・実証から実装へは大きなギャップがあり、そのギャップを超えるために新たな視点が必要であり ・地域性を考慮したデジタルコンテンツの活用、多様な資金調達、ガバナンスの利いたPPPが鍵になる。 |
スマートシティに関する現状
(1)スマートシティ第三世代
現在のスマートシティは第3世代に位置し、スマートシティ第1世代は2000年代後半に再生可能エネルギーなど環境との共生を志向していました。第2世代は、2010年代にビッグデータ解析によるエネルギー分野以外も含む社会課題解決を推進しました。そして2020年代のスマートシティ第3世代は、社会課題解決に加えて、人間中心が強調され、また分野横断のデータ利活用による都市機能の最適化、データ連携基盤の構築、規制緩和やデジタルツインの活用が目指されています。
内閣府、国土交通省、総務省、経済産業省の4省庁でスマートシティを推進しており、関連支援事業を継続的に実施しています。また、スーパーシティについても内閣府主導で進めています。
(2)市場規模
世界のスマートシティプラットフォーム市場は2019年に約1,247億米ドルと評価され、2020年から2027年の予測期間にわたって11.2%を超える健全な成長率で成長すると予想されています。
また、世界のスマートシティ市場は年17.3%での成長が予想され、2030年に4兆5,000億米ドルと予測されます。
(3)対象分野
「スマートシティ」と一口に言っても、過去、時代の変化とともに言葉の定義も変化しており、また明確な定義がないことから、開発タイプ、エリアの広さ、主導者、各エリアの課題に紐付いた取り組み分野など、実体は多岐にわたります。
大きな分類として、既存市街地改修型(ブラウンフィールド)と新規開発型(グリーフィールド)に分類できます。建物街区1つを対象としたスマートシティから、地域(複数ブロック)や自治体全体と対象スケールが異なります。対象分野も幅く、ヘルスケア、モビリティ、教育、安心安全、観光、環境、など多様な分野が対象となります。その他の構成要素としてデジタルツインやデータ連携基盤、IoT、5Gなど通信環境、対象物自体のDX化などがあげられます。
都市を存続させるためにも、自治体による都市運営の効率化だけでなく、市民のQoL向上、サービス提供者である事業者・団体の売り上げ向上、社会・環境の改善など、スマートシティ化を通じてすべてのステークホルダーがメリットを享受できる好循環を生み出す必要があります。また、構築に関するプレイヤーもプロセスごとに多様なステークホルダーとなります。
資金調達方法は、公共主導の場合、PPP・PFIに加えて、成果連動型、企業版ふるさと納税、クラウドファンディング、ESG投資、STOなどが想定され、民間主導の場合もプロジェクトファイナンスやコーポレートファイナンスに加えて、上記手法との掛け合わせが想定されます。
開発タイプ | 対象エリア | 主導者 | 取組分野 | 資金調達 |
---|---|---|---|---|
・新規開発型(グリーンフィールド) ・既存改修型(ブラウンフィールド) |
・都市、都市圏エリア ・地区、街区エリア ・ある建物および工場敷地内 |
・国/自治体 ・民間企業(デベロッパー、敷地所有者) |
・交通 ・観光 ・水 ・環境 ・安心、安全 ・行政 ・教育 ・健康 ・ゴミ ・その他 |
・PPP、PFI ・成果連動型 ・企業型ふるさと納税 ・クラウドファンディング ・ESG投資 ・STO ・サービス利用料 ・データ利用料 ・その他 |
スマートシティの課題と可能性
(1)スマートシティの課題
スマートシティに関する実証は多数の自治体で進んでいますが、実装に向けては大きなギャップがあります。特に事業を継続していくための事業内容、ファイナンスモデル、官民連携手法が論点としてあげられます。また既存の事業に加えて、デジタルを活用した先端事業を都市に埋め込む必要性があり、次から次に出てくる最新技術に対応できる体制(物理的、組織的)を準備しておくことが重要です。
(2) ESG投資の可能性
ESG投資とは、2006年に発足した「責任投資原則」(PRI)の中で提唱されたものであり、「E」(環境)、「S」(社会)、「G」(ガバナンス)が、中長期的な企業価値に影響を与える要素として提示されました。ESG投資は欧州を中心に急速に拡大し、PRIに署名する運用機関の総運用資産額は約66兆ドル、また実際にESG投資に振り分けられている資産額は約30兆ドルとなっています。また日本においても、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESGを投資原則に盛り込むなど、ESGへの強いコミットメントを進めたことなどが契機となり、ESG投資への関心が高まっています。
ESG投資を実践する手法としては、「GSIA(世界持続可能投資連合)」という世界的な団体が以下の7種類と定義しています。
特定のセクターやESG基準を満たさない企業を投資対象から排除するネガティブ・スクリーニングが最も運用資産額が大きく、欧州で最も使われています。また2番目に運用資産額が大きい手法は、ESG要素を財務分析に導入する「ESGインテグレーション」であり、地域別にみると米国や日本で多く用いられています。さらにまだ比較的少額ですが、ポジティブ・スクリーニングやテーマ型投資がここ数年で急増しています。
ESGのインパクト投資を呼び込むにあたって、認証機関の認証の他に、独自にESG投資の指標を公開していくことが求められてくる方向性が想定されます。特に「S」については定量的な指標の公開が海外ではおこなわれており、今後日本においても「Social」について定量的な指標を公開していくことが重要となると想定されます。
特にテーマ投資、インパクト投資と社会課題解決を目指すスマートシティとの親和性は高く、国内外でESG投資を意識したスマートシティファンドが増えてきており、今後より増加することが予想されます。またスマートシティに取り組む企業はESG投資を受けやすいというエコシステムが構築されることで、スマートシティ全体の持続性確保につながると考えられます。
(3) STO(セキュリティ・トークン・オファリング)
SBIホールディングスが、国内初となるSTO(Security Token Offering)関連ビジネスの開始を発表しました。STOは、従来の株式や社債に代わりブロックチェーン上で管理されるデジタル証券を発行する仕組みです。2020年5月に改正金融商品取引法が施行され、セキュリティトークンを用いた資金調達であるSTOが可能になり、SBIホールディングスは5,000万円の資金調達に関して普通株1,000株を発行すると発表しています。
STOのメリットとして、下記があげられます。
1. 発行・流通コストの削減
2. 市場障壁の排除(市場の24時間化や、国・地域で隔てられた市場の統合など)
3. 所有権の細分化(不動産所有権の細分化など)
これまで公共施設やインフラ、公共不動産(PRE)では実現できなかった所有権や運営権の細分化により、市場が広がる可能性があり、スマートシティへの活用が期待されます。また、公共がもつ既存のインフラ資産を民間に売却、長期リースし、その収益により、新しいインフラ整備を進めることで、豪州で進むアセットリサイクリングに近い取り組みをより進化させた取り組みが期待されます。
(4) NFT(ノン・ファンジブル・トークン)デジタルコンテンツの可能性
NFTは複製できない唯一性を持つトークンで、所有権を表すことができます。1ビットコインは、どの1ビットコインでも同じ価値となるため、ファンジブルですが、NFTはそれぞれが固有の価値を持つため1対1で交換することができないため、ノンファンジブルです。
NFTを使ったデジタル作品が約6,900万円で売買されており、ブロックチェーンゲーム内の仮想区画が約1億6,000万円という記録的な金額で売買されました。
今後、地域に根差したデジタルコンテンツの製作が増え、デジタルツインとの親和性が高いためスマートシティのひとつの収益源としてNFTの活用が期待されます。
目指すスマートシティモデルのイメージ
持続可能なスマートシティのモデル構築に向けて、既存のモビリティやヘルスケアといった分野に加えて、収益性の向上のためにコンテンツやエンターテインメント分野が重要になると想定されます。
デジタル化による効率化も重要ですが、トップラインをあげていく事業と併せて検討する必要があります。またデジタルコンテンツと一言でいっても地域の文化に合致し価値を生み出す必要があり、カルチャライズドスマートシティが求められていくと考えられます。
その際には、複製不可のデジタルコンテンツ運用や官民連携においてこれまで以上のガバナンスが事業主体に求められます。
デジタルコンテンツの活用、多様な資金調達、ガバナンスの利いたPPPがスマートシティの実現の鍵を握るでしょう。
※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。
執筆者
KPMG コンサルティング
シニアマネジャー 大島良隆
コンサルタント 河江美里