自己改革を社会改革へ、クライアント改革に範を示す自己改革の覚悟
「After/ Withコロナ時代の企業経営」シリーズ第2回として、富士通執行役員常務グローバルソリューション部門デジタルインフラサービスビジネスグループ長の島津めぐみ氏、CIO(最高情報責任者)兼CDXO(最高デジタル変革責任者)補佐である福田譲氏にお話を伺いました。
「After/ Withコロナ時代の企業経営」シリーズ第2回です。
多くの企業がコロナ禍で苦しい経営を迫られるなか、富士通は2020年、大規模かつドラスティックな自己変革プロジェクト「Work Life Shift1」「フジトラ2」を相次いで打ち出しました。ニューノーマルにいち早く適応し、新しい働き方、新しい企業のあり方を模索する富士通は今、何を成し遂げようとしているのでしょうか。
「After/Withコロナ時代の企業経営」シリーズ第2回は、エンジニア出身で多様性への取り組みを積極的に推進している執行役員常務グローバルソリューション部門デジタルインフラサービスビジネスグループ長の島津めぐみ氏、富士通のDX改革を牽引する執行役員常務CIO(最高情報責任者)兼CDXO(最高デジタル変革責任者)補佐である福田譲氏にお話を伺います。
インタビュアー=阿久根 直智
KPMG FAS 執行役員 パートナー
伝統を守るために個々人のスキルを高めつつ、組織としての変革を実現していく
- 富士通は、7月にニューノーマルに対応した新しい働き方のコンセプト「Work Life Shift」、10月には新事業創出、戦略事業の成長、プロセス標準化、人事制度などを含む全社DXプロジェクト「フジトラ(Fujitsu Transformation)」を発表されました。このタイミングでこのような大改革を発表されたのはコロナ禍を意識されてのことでしょうか。
執行役員常務
グローバルソリューション部門
デジタルインフラサービスビジネスグループ長
島津 めぐみ氏
1987年 4月 富士通入社。システムエンジニアとして企業のシステム構築に従事。ニューヨーク駐在経験を経て、現在は、データセンター、クラウド、ネットワーク、セキュリティを中心としたインフラ事業と働き方改革を支援するITサービス事業を担当。 2016年富士通で女性として2人目の執行役員となり、2019年1月執行役員常務に就任。
執行役員常務
C IO 兼 CDXO補佐
福田 譲氏
1997年SAPジャパン入社、23年間勤務、2014-2020 年の約6年間、代 表取締役社長。2020年4月、富士通に入社、CDXOを兼務する社長を補佐し、同社 自身のDX、およびCIOとして社内ITの責任者、日本型DXの探索・実践とフレームワーク化に取り組んでいる。「日本を、世界をもっと元気に」がパーパス。
島津 今回の改革がコロナ禍と重なったのは偶然です。しかし振り返ってみると、コロナ禍は改革の追い風になっています。
福田 もしコロナ禍がなくても、富士通は変わっていったと思います。コロナ禍がなければ変革に疑問を呈する人もいたでしょうが、現状では社員の大半が変革に前向きになっています。
島津 ビジネスモデルも変わりました。6月に「FUJITSU Hybrid IT Service」というサービスを提供開始しましたが、これは「言われた通りに作る」というビジネスモデルから脱却したものです。
今、部下には「これからの富士通をレストランに」ということをよく言います。そもそも、私が「富士通をレストランに」と思ったのは、幹部社員との面談がきっかけです。今までの富士通は、お客様に料理を提供するとき、みんなお客様を喜ばせるために一所懸命いろいろな料理を作っていましたけれども、担当者によって味付けが異なっていました。これは経営側からすると、「担当者の料理であり、富士通の料理ではない」ということになります。ですから、「富士通のメニュー、味はこうです」という、レストランにしましょうと。まずは、富士通の誰が作っても同じ料理は同じ味にできなければならない。そのうえで、「これはおいしいけど、もう一工夫欲しい」など、いろいろなご意見をいただき、改良していけばいいのです。
また、注文に対して「はい、わかりました」とただ料理を作るのではなく、富士通ができることを積極的に提案して「それが食べたい」と言ってもらえるように、今、ビジネスモデルを改革しています。
Work Life Shift 富士通は、新型コロナウイルスの感染拡大によって生じたニューノーマルにおいて、DX企業への変革をさらに加速し、従業員がこれまで以上に高い生産性を発揮し、イノベーションを創出し続けられる新しい働き方として「Work Life Shift」を推進しています。「Work Life Shift」は、「働く」ということだけでなく、「仕事」と「生活」をトータルにシフトし、Well-beingを実現するコンセプトです。 |
フジトラ(Fujitsu Transformation) 富士通は、デジタル時代の競争力強化を目的として、製品やサービス、ビジネスモデルに加えて、業務プロセスや組織、企業文化・風土を変革する全社DXプロジェクト(フジトラ:Fujitsu Transformation)を7月に立ち上げ、2020年10月より本格始動しました。 |
- ビジネスモデルを変えるとはいえ、お客様から「やっぱりカスタムで作ってほしい」、「紙の仕様書がほしい」などの要望があると思います。レシピの決まったメニューで対応するのはなかなか難しいと思いますが、そのあたりはどのように工夫されているのでしょうか。
島津 お客様の要件の本質をきちんと理解をして、すでにあるサービスを紹介するか、もしサービスがない場合は、サービスに追加か検討した上で、それでも、お客様独自の要件であれば、そこはカスタムとしてビジネスライクに対応します。
-これまでの富士通の強みは、個々のお客様に適した提案力でした。決まったメニューをベースにするということは、これまでの営業とはまったく異なるアプローチになります。このアプローチを実践していくために、どのようなことが必要だと思いますか。
福田 老舗レストランで看板料理を注文すれば、いつでも同じ一流の味の一皿が出てきます。それは、誰が作っても同じ味にできるよう、訓練されているからです。基本はそこだと思います。誰が作っても一流の味を出せるようにするには、個が強くなくてはいけません。一方で、老舗であっても、メニューを改定する、時代に合った味付けを開発するなど、新しいことへのチャレンジは必要です。
つまり、伝統と革新ということです。伝統を守るために個々の技量を一定レベル以上にする一方で、一人ひとりの得意技を磨いていく。守破離でいう「破」や「離」に踏み込んでいくためには、その前提として「守」をきちんと押さえていないといけません。そのうえで、「これが当店おすすめの新作です」といったような、自信と革新性のある提案が必要なのです。当たり前のことを継続しつつ、自らを変えることができる。これを実現するには、相当のレベルが求められます。そのためには、個々人がきちんとありたい姿を描き、日頃の業務を単なる作業ではなく、自分を自己開発していく機会と捉える必要があります。お互いにフィードバックし合い、高め合うカルチャーを醸成できる人事制度や教育制度の整備が不可欠となるでしょう。
島津 決まったメニューをベースにすると、個の価値がなくなってしまわないかと思うかもしれません。しかし個は、レストランでいえば、料理に合うお酒を勧めたり、お客様の年齢や体調に合わせた柔軟な対応をとる、といった部分で活きてきます。富士通は、そういう面で一人ひとりの個を強くして、お客様によりよいサービスを提供していきたいと考えています。
「日本的」「真面目で地道」な社員のポテンシャルを発揮させるための「Work Life Shift」
-7月に発表した「Work Life Shift」は、どのような経緯で始まったのでしょうか。
福田 新型コロナウイルスの感染拡大によるニューノーマルにおける新たな働き方を定義した「Work Life Shift」は、富士通がどのように自己変革に臨むのかを示す象徴的なプロジェクトです。
私が4月に入社してすぐの経営会議で、「新型コロナを通じて働き方が変わっていくだろう」という話になりました。どうせ変わるのであれば「早くやろう」と。そこからは速かったですね。すぐに精緻なプランが人事・総務から提案され、意思決定を経て7月に発表。4兆円規模の日本企業でここまで大きく方向性を変えることを宣言したのは、富士通が最初だったのではないでしょうか。このときのスピード感は、私が入社前に想像していた日本企業を大きく超えていました。
後から知ったのですが、総務と人事はコロナ禍の前から、働き方改革の準備をしていたのだそうです。コロナ禍で一気に広まったリモートワークについても、富士通は2017年4月からテレワーク勤務制度を正式に導入していましたし、働き方を変えていこうという思いはもともとありました。つまり、トップからの指示がなくても現場はあらかじめ準備していた。企業としては強みです。
-いわゆるボトムアップ形式ですね。
福田 そうですね。前職の欧州企業では、トップダウンの強くて良い面を多く経験しましたが、同時にトップダウンには脆さや弱さもあると感じていました。富士通がこのレベルのボトムアップができることは非常に強いと感じます。
しかし、同時に課題も見えてきました。それは、ここまで準備ができているのに、コロナ禍でのトップからの指示がなければ、このタイミングでは実現できなかったであろう、ということです。
富士通の社員は、上司から言われなくても、他者が見てなくても、日頃から真面目に地道に勉強、研鑽しています。しかし成果がなかなか表面化しない。今回のように緊急事態やトップからの指示がなければ化学反応を起こさないというのは、もったいないことです。
-ボトムアップの強さをもっと活用できるのではないかとお考えになったということでしょうか。
福田 そうです。そこで、富士通のカルチャー変革を始めました。一つ例を挙げると、11月初旬から実施した総選挙があります。自分たちの企業文化を変えるためにはどうしたらいいのか、社員の投票で決めよう、というものです。
たとえば、役職の肩書について。よくメールの宛名に肩書が書かれたり、「〇〇部長」と呼んだりしますよね。これは日本の文化といえます。しかし、「正解が見えない時代だからこそ、立場に関係なく多様な意見を交わそう」というありたい姿からすると、これは課題です。そこで、今回の総選挙では「役職呼称を社内ではやめよう」ということを投票することにしました。役職で呼びたい方は従来通りでもかまいません。ただ、社内で「さん付け」をスタンダードにすれば、余計な気遣いをしなくてもすむようになります。ひいてはオープンでコラボレーティブな雰囲気・カルチャーに近づくと考えたのです。これには結構関心がある人が多いようで、短期間で4000票くらいの投票がありました。
島津 役職呼称について、私はずっと問題視してきました。異動で別の部署に行ったとき、最初の挨拶で「『さん付け』にしましょう」と話したくらいです。役職はたくさんあるので間違えやすいですし、部長と統括部長、シニアマネジャーとシニアディレクターのように、どちらが上司なのかわかりにくいものもあります。これでは間違えないほうが無理があるというものです。ですから「さん付け」を推奨していますが、全社レベルにはなっていません。富士通は組織が大きく、そういうカルチャーだからなのでしょう。
しかし、従来通りの男性社会で、同じような価値観を持っている人たちだけで意思決定していくというのは、もう限界があると思っています。
福田 本来ならば、たとえば同じ「日本人・40代・男性」でも、考えていることはそれぞれ違うはずです。でも、日本はカルチャー的に同質化しやすいですよね。人に迷惑をかけないとか、入社式は紺のスーツを着るとか。だからこそ、その良い面を残しつつ、個を出していく必要があります。このことを明確に打ち出すことによって、本来多様性を発揮させることがチームとしての強さにつながるのです。持っているポテンシャルを出し、改革の礎にしたいと思っています。
トップが変わったことで、人事もビジネスもドラスティックに変わった
-エンプロイーエクスペリエンス変革の一環として総選挙を行ったのですね。
福田 そうですね。社員は、どうしても「会社は、会社は」と言ってしまうものですが、「会社」とは、巡り巡って自分たち自身のことを言っているわけです。会社が大きいほど心理的な距離はできやすいのではないかと思います。だからこそ、「会社とは私たち自身なのだ」ということをみんなが再確認する必要があります。
日本は世界でもエンゲージメントが低い国ですから、この課題を解決するのは大変です。エンゲージメントを上げて自分事にする。富士通は今期からエンプロイーエンゲージメントという非財務指標を経営の主要指標に加えました。
-人を中心にするチェンジマネジメントは、これまでも多くの日本企業が挑戦してきました。ところが、一時的にはうまくいっても、結局は元の木阿弥に戻ってしまうことが多いように見受けられます。さきほど、福田さんはトップダウンとボトムアップにはそれぞれの良さがあるとおっしゃっていましたが、今後のチェンジマネジメントでどのようなことが起こると想定されていらっしゃいますか。
福田 なんといっても、主役は社員です。富士通は昔からヒューマンセントリックな会社です。個々人が勤勉で、成熟していて、自分の意見をきちんと持っている。ところが、会社に来て、チームになった瞬間に1+1が1.7くらいになってしまう。階層が積み重なると、力が落ちてしまうのです。
これは富士通だけの問題ではありません。「和をもって尊しとなす」、これはみんなで助け合うという日本がもともと持っているすばらしい文化ですが、弊害もあります。たとえば、目立ったことをすれば排除されるとか、上司がいる前で部下は意見を言いにくいとか。そういう不文律的な弊害から解き放つことで、もともと持っている強みを活かせるのではないかと思っています。ですからこの改革は、何かを根本的に変えるのではなく、本来のポテンシャルを引き出すことに主眼を置いているのです。
島津 やはり「人」だということです。AIとか、DXとか、いろいろなことが今はありますけれども、会社は「人」で成り立っているからです。しかし、富士通はその「人」を活かしきれていませんでした。ポテンシャルがあっても、それを引き出せずにいたのだと思います。
たとえば、富士通には基本的に多くの部門を経験するような異動がありませんでした。入社時に配属されたら定年までその部署で仕事をして、他部門に異動するということが少なかったのです。もちろん制度的には他の組織に異動できるのですが、いろいろな制約があり、実際には難しいものがありました。
-制度に実行性が伴っていなかったということでしょうか。
島津 そうです。さきほど申し上げたように、基本的には縦割りで、しかも異動もない。これでは、いくら社員にポテンシャルがあり、それぞれ意見を持っていても、声を上げられませんよね。心の中にバリアがあって、行動を抑制してしまっていたのです。それが、今では改善されてきています。
-組織の論理が優先されていたというわけですね。なぜ、変わったのでしょうか。
島津 トップが変わったことが大きいです。昨年、代表取締役社長に就任した時田が、人事制度を大きく変えました。今の富士通は、異動は公募ですし、外部から役員も招聘しています。これは、これまでの富士通ではありえなかったことです。
また、ビジネスのあり方も変わりました。たとえば5Gのビジネスは社長直轄で行っていますが、これまでの富士通ならば、ビジネスはそれに関連する事業部だけで展開し、全社的なビジネスに発展させることはしませんでした。スタッフも、ネットワーク関連の中から選んでいたはずです。しかし、5Gビジネスは組織の責任者含めてスタッフ全員を公募で集め、新たに5GVertical Service室をオープンしました。
-公募の範囲はどうでしょう。富士通単体か、それともグループ全体なのでしょうか。
島津 グループ全体です。「富士通を変えていくのだ」という経営層の熱量と強い意志は社員にも伝わります。そのおかげか、5GVertical Service室の競争率は7.5倍となりました。しかも、室長は飛び級での就任です。従来の人事制度では等級が足りなくても、今の富士通はジョブ型ですから、飛び級もありなのです。
福田 また、人事のデータドリブンへの変革も試みています。今回、エクスペリエンスマネジメントと言われる領域のプラットフォームを導入しました。社員の意見を集約するとともにエンゲージメントを可視化するツールで、入社年数に何らかの因子があるのか、部署やマネジャーが変わったことでどんな変化が起こるのか、そういうことを非常に細かく定量化・追跡できる仕組みです。
-モデリングするということですね。
福田 はい。マーケティング部門でも、世界中のお客様にデジタルサーベイを開始しました。どこに満足され、何に不満なのか、それはどのような因子があるのか、そういったことをAIで分析し、解明しようと考えています。その分析結果と業績を組み合わせることで、こういう状態のエクスペリエンスのお客様は伸びている、こういうお客様はパイプラインが減っているなど科学的に定量化し、パターンを方程式にしていきたいと思っています。この仕組みを完成させ、本当の意味でのデータドリブン経営を実現させる。それが今回の取り組みの狙いのひとつでもあります。
島津 富士通は、今まで十分にデータを活用しきれていませんでした。これからの経営はデータで語らなければならないと考えています。
時田 隆仁氏(写真中央)
2019年6月に代表取締役社長、2019年10月に CDXO(最高デジタル変革責任者)に就任し、 2020年7月から福田譲氏と共に全社 DXプロジェクト「フジトラ」を経営メンバー全体のリーダーとして、富士通グループの部門・グループ・リージョンを横断した変革に取り組んでいる。
実感の伴う先行例を発信していくために、まず富士通の中でDXを実現する
-「Work Life Shift」では、2022年度末までにオフィス規模を現在の約半分にする一方、サテライトオフィスを拡張し、TV会議システムなどのインフラ環境を整備するとされています。
福田 個人で仕事をするソロワークの日は、会社に来る必要はありません。でも、お互いにインタラクションする機会は今後も大事で、そのときにはオフィスに来てほしいわけです。そこで、コラボレーション用のオフィスをアクティビティベースドワーキング(ABW)で用意することにしました。
Work Life Shiftの構成要素はすごく多いのですが、なかでもオフィスは重要な要素です。必ずしも小洒落たオフィスである必要はありません。働き方を変えるのは、「オフィス×ITツール」だったり、「オフィス×カルチャー」「オフィス×勤務規定・人事制度の変更」であり、全部がつながっているんです。
-これもグループ全体でしょうか。
島津 グループ全体です。今までの富士通の課題は、グループと富士通が離れていることでした。オフィスを2分の1にするというのは、本社もグループ会社も合わせてです。みんな集まってくださいということを意味します。
-オフィスという意味でも、ICTという意味でも集約したということですね。でも、なかにはそういうのは苦手という社員もいるのではないでしょうか。
島津 一部はそうです。しかし、富士通ではすでに、自分の席というのはありません。蒲田のソリューションスクエアができた2003年から、課長も部長も含めて、基本的にフリーアドレスにしました。
-フリーアドレスは、いわゆる企画系の仕事には適していますが、エンジニアの方には抵抗があるように思えます。そうした人たちから、昔ながらの固定席がほしいという要望はないのでしょうか。
福田 効率よく仕事をするための集中する場所はありますし、ディスプレイを2面、3面使えるような席もあります。ただ、価値を最大化する働き方は昔と違ってきていると思います。
-今後、「Work Life Shift」をグローバル展開される予定はあるのでしょうか。
島津 グローバルで同時展開します。このことは、海外でもプレスリリースしています。実は、海外では別のブランド名で同じような取組みをしていましたが、今回、「Work Life Shift」のブランド名でグローバル展開することにしました。
福田 海外でも、富士通の外国人社員には、日本に対してリスペクトをもっている人が多いです。でも、働き方はもう少しモダンにしたい、変えたいと思っている。今回の変革に関しては、日本以上に海外のほうが基本的にはウェルカムですね。どんどんやってくれ、と。
島津 こうしたことが実現できるのは、トップのバックアップがあるからです。「Work Life Shift」の日本・グローバル同時展開も、社長の指示です。これまでは数字に縛られてできなかったことを、今は社長自ら「まずやってみよう」と言い出すほどです。
-最後に、「フジトラ」プロジェクトへの1000億円の投資に対する説明責任をどのようにイメージされているのか、教えていただけますか。
福田 富士通は、利益率が1%上がれば営業利益が300億円超上がります。生産性を高めるとともに、働きやすさや働きがいを高めることで社員のエンゲージメントへの上振れ効果を狙い、決めたものです。
残念ながら他の先進国に比べて、日本は過去20年でITに最も投資をしていない国になってしまっていました。これまで、経営にとってITはコストであり、もっと効率化し、削減すべき対象と見られてきたわけです。ITはコストという側面だけでなく、効果を得るための投資という側面も持っています。そして、DX時代はITを戦略的に活用することでビジネスモデルやサービスを変え続けられるかの勝負です。富士通にとっても、ユーザー企業と一緒に解決していかなければならない課題だと思っています。富士通自身を変えていく「フジトラ」はその先駆けと言ってもいいでしょう。
-実際に富士通内でDXを実現し、その空気そのままにサービスとプロダクトをお届けしていこうという、素晴らしい仕組みですね。ありがとうございました。
新連載「After/Withコロナ時代の企業経営」について
COVID-19を契機に世界中で人々の生活スタイルや活動の基本設計が変化したことで、地政学の観点も踏まえたグローバルオペレーション、グローバルマネジメントの早急な変革など、多くの企業が事業戦略の抜本的な見直しに直面しています。そこで、本誌では直面する変化への対応について、日本を代表する企業のCXOにお伺いする新連載「After/Withコロナ時代の企業経営」を展開していきます。