望まれる組織的対応~年金運用ガバナンスに関する実態調査2020(要約版)
企業年金の資産運用を担う方々に実施した調査結果を基に、企業が直面する年金運用ガバナンスの課題やKPMGの提言をまとめました。2018年に実施した同様の調査との比較も行っています。
企業年金の資産運用を担う方々に実施した調査結果を基に、企業が直面する年金運用ガバナンスの課題やKPMGの提言をまとめました。2018年に実施した同様の調査との比較も行っています。
2018年4月の確定給付企業年金法の改正でガバナンスの強化が求められたことに加え、企業のコーポレート・ガバナンス改革に伴って自社の企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮が求められており、企業年金運用に関するガバナンスが注目されています。これらを踏まえ、年金運用ガバナンスの現状や課題を調査するため、確定給付型企業年金の運用担当者向けに実施した調査結果は以下のとおりです。
※なお、「前回」と記載している箇所は、2018年10月~11月に実施した同様の調査を指しています。
調査結果
1. 年金運用に関するガバナンス体制
- 大企業を中心として、資産運用委員会の設置や財務経理部門の関与が進んでいますが、規模の小さい企業ではこうしたガバナンス体制の整備が不十分な傾向が見られます。
- 年金運用に関する意思決定権限は多くの企業でマネジメントレベルに委ねられており、年金運用の重要度が認識された権限設定がされていると考えられます。
【図表1】 検討組織の設置状況
【図表2】 資産運用に関する意思決定階層
2. 運用モニタリング体制
- 多くの企業では、毎月または四半期ごとに担当役員への報告がなされ、年1回はトップマネジメントへの報告がなされています。一方、報告なしとした企業の割合は前回より低下しているものの一定程度あり、対応にばらつきが見られます。
- モニタリングの課題としては、「専門的内容を上位者に理解させる工夫」や「社内担当者の専門能力不足」を挙げる企業が多くなっています。また、大企業を中心に「多数の運用実績の集計の作業負荷」を挙げた企業も一定数あります。
【図表3】 運用実績の報告頻度
【図表4】 運用報告に関する負担・課題
3. 運用人材配置の状況
【図表5】 主たる年金運用担当者の所属部署
【図表6】 年金運用担当者の業務従事度
【図表7】 年金運用担当者の配置状況
【図表8】 年金運用担当者の育成状況
4. スチュワードシップ・コード対応/外部専門家の利用/利益相反管理
- スチュワードシップ・コード対応は、検討中が約30%、未検討が約40%と、まだ対応を決めていない企業が依然として大半を占めています。
- 40%程度の企業で外部専門家の利用がありますが、大企業が中心となっています。
- 運用能力だけで委託先を決定している企業は全体の30%程度にとどまっています。
【図表9】 スチュワードシップ・コードの受入れ方針
【図表10】 外部専門家の利用状況
【図表11】 運用委託先決定における利害関係の考慮
5. 今後の課題
- 「ポートフォリオの見直し」が最も多く、次いで「社内の運用人材の能力向上」や「ガバナンス体制の向上」が挙げられています。
- With/Afterコロナ下での新たな課題が数多く指摘されています。
【図表12】 今後の課題
【図表13】 With/Afterコロナ対応
主なコメントの概要を領域ごとに整理した結果は以下の通りです。
年金財政全般
- リスク対応掛金の検討
- 母体の経営悪化による掛金維持が懸念される
- 市場環境悪化による運用成績の悪化
- 非継続基準抵触時の対応
- 運用効率の低下(許容リスク内でのリターン確保が困難)
- ボラティリティを抑制した長期安定運用
資産運用のあり方
- 低金利下での債券・株式ポートフォリオのあり方
- オルタナティブの重要性の高まり
- 株価下落時のリスク抑制・テールリスク対応
- 市場の安定化
- 低リスク資産への切り替え
- コロナによる不動産等実物資産への影響
- コロナの影響を受けにくい企業に投資するファンドの組成
- リスクを抑制したポートフォリオの構築
- 機動的な資産配分ができる体制の構築
コミュニケーション
- 運用機関とのコミュニケーションが取りにくくなった
- 新規の運用機関とのアクセスがしにくい
- 他基金の運用担当者との連携不足による情報収集の困難さ
- 地方と都心の情報ギャップがWeb等で埋められるかどうか
- オンラインのコミュニケーション機材の未導入
- 代議員会等のオンライン化対応(規約改正含む)
年金業務の遂行
- テレワーク実施のためのインフラ整備
- 個人情報を扱うことによるテレワークの困難
- 押印・書面文化による制約、これらの電子化
その他
- BCPの強化
- 今回の経験値の蓄積
KPMGからの提言
運用人材の能力向上に向けた組織的な取組み
他のメイン業務の傍らで、自己研鑽により能力向上を図りながら年金運用業務に従事している担当者が多い状況です。また、規模の小さい企業では人事労務部門のメンバーが対応しているケースも多く、企業財務や資金運用により精通した財務経理部門メンバーの関与が十分でない可能性があります。
企業は、年金運用担当者がより運用業務に注力できるような業務のアサインに留意する必要があります。また、能力開発を支援する対応も必要と考えられます。実際の教育機会を企業が提供するのは難しいと思われますが、公的機関や外部団体等による年金運用教育機会が拡充され、そうした場への参加を企業が支援することが望まれます。
さらに、適材適所な役割付与を図るために、財務経理部門の参画や外部人材の採用などによってより素養のある人材を配置することも必要と思われます。
マネジメントの関与
一部の企業ではマネジメントへの定期的な運用実績報告がなされておらず、また運用人材の適切な配置や育成に関するマネジメントの理解不足が指摘されています。
マネジメント自身が年金運用の重要性を認識し、定期的な実績報告態勢の整備や運用担当者の育成などを支援することが望まれます。
加えて、マネジメント層が年金運用や年金制度運営の概要を理解できるような取組みとして、「マネジメント層を対象にした研修の実施」、「シンプルで分かりやすい運用報告の工夫」といった取組みを推進することも必要と考えられます。
利益相反への対応
一部の大企業を除けば、年金運用受託機関との利益相反に関する対応はまだ課題として認識されていない状況です。
確定給付企業年金法で規定されている「受託者責任」を再確認し、加入者や受給者の利益に資するような運用受託機関の選任が図られるよう、選任基準の明確化や定期的な評価の態勢を整えることが必要と考えられます。
外部リソースの利用
上述の取組みを進めるには、年金運用や年金制度運営に関する専門知識や経験が必要になるため、必要に応じてこれらの事項に長けた外部機関のコンサルテーションを利用することが望ましいと考えられます。
当局等による中堅・中小企業への支援
調査項目全般を通じて、企業規模によって取組みに差があることがうかがえます。
すでに当局や公的機関等による年金運用のベストプラクティスや管理ツールの提供もある程度されていますが、特に人的リソースに制約のある中堅・中小企業に対する支援の拡充が望まれます。
With/Afterコロナ対応
年金財政や資産運用の安定化や下方リスク対応等の課題に対応できるよう、新たな商品やリスク管理手法の開発等が期待されます。
また、在宅勤務が行いにくい業務環境の改善ニーズも指摘されており、法定帳票の見直しや押印の省略などについて行政や受託金融機関のリーダーシップによる見直しが望まれます。
「確定給付企業年金の資産運用に関する実態調査」の実施概要
調査の目的
2018年4月の確定給付企業年金法の改正でガバナンスの強化が求められたことに加え、企業のコーポレートガバナンス改革に伴って自社の企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮が求められており、企業年金運用に関するガバナンスが注目されています。そこで、年金資産運用ガバナンスの現状や課題を調査するため、企業年金の資産運用実務ご担当者に、標題調査に対するご協力をお願いしました。
調査の概要
調査対象 | 以下に該当する上場企業(約1,500社)の年金運用実務ご担当者
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調査期間 | 2020年8月 - 9月(前回は2018年10月 - 11月) |
調査方法 | インターネットによる回答(前回は書面による回答) |
回答数 | 155名(回答率:約10%/前回は211名) |