小売業における日本版BOPISの可能性とは

「小売りの明日」第22回 - オンラインで購買をし、店舗で引き取るショッピングスタイル「BOPIS」について、今後の日本の小売業へどのように影響をするのかを考察する。

オンラインで購買をし、店舗で引き取るショッピングスタイル「BOPIS」について、今後の日本の小売業へどのように影響をするのかを考察する。

昨年、米国のEC(電子商取引)市場でウォルマートがアップルを追い越し、米国3番目の規模のEC企業となった(2019年9月執筆時点)。株価では2019年前半の6ヵ月間で、アマゾン・ドット・コムが約6%の上昇にとどまっているのに対し、ウォルマートは約15%上昇した。
ウォルマートが伸長した大きな要因の1つが「BOPIS」である。BOPISとはBuy,Online,Pickup,In Storeの略称で、つまり、オンラインで購買を決定し、商品を店舗へ引き取りに行くことを指す。米国でBOPISが伸びた大きな要因として「配送費の節約」「不在時の盗難被害の増加」「時間の削減」の3つが挙げられる。

これらが日本にも当てはまるのかは綿密な考察が必要だろう。なぜならEC企業が確実にBOPISへの対策を取っているためだ。1つ目の配送費の節約では、アマゾンをはじめ従来、配送費無料をうたっていたEC企業が、配送費を追加請求すると市場に大きく影響する。しかし、実はアマゾンはウーバーの物流版といえる個人配送を展開しており、配送網の構築を進めているのをご存じだろうか。
2つ目の不在時対応について、アマゾンは米国でウォルマートとの競争で経験した反省を踏まえ、日本で同じ事が起きぬよう対策を取っているように見てとれる。アマゾンには「置き配指定サービス」という、不在時に指定された場所に届けるサービスがある。家の前に止めている自転車のかごや玄関先、車庫、ガスメーターボックスなど、指定した場所にサイン不要で配達が完了する。
3つ目の時間の削減については、EC企業の方が有利なのは自明のように見える。しかし、店内での買い物時間とレジに並ぶ時間の短縮という2つの取組みが小売りや外食で広がっている。スターバックスコーヒージャパンは2019年6月から、都内の店舗でスマホで事前注文を可能にする「モバイルオーダー&ペイ」を開始した。
百貨店など小売業の売り場を「試着、試飲などコンシェルジュ型の接客で、顧客がアドバイスを受ける場所」、もしくは「商品を引き取りに行く場所」と再定義した場合、従来よりコンパクトな面積で展開が可能となり、来店客の時間の削減につながる。BOPISの考え方は店のあり方に少なからず影響を与えるのだ。

米国で成功する小売業のモデルをそのまま展開すれば成功するほど日本市場は簡単ではない。少なくともアマゾンは1つ目と2つ目では手を打っており、日本の小売業がウォルマートのような優位性を出せるかは不透明だ。むしろ重要なのは、3つ目の観点を充足するプレーヤーが誰になるかだ。日本版BOPISの店舗を持つ企業が具現化するのか、あるいはEC企業が自ら店舗を展開し実現するのか、小売業において最大の注目要素の1つだろう。

 

日経MJ 2019年9月23日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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