IMFの経済予測を読み解く(1/2)- "コロナショック"をどう読むか -

監査先企業の会計上の見積りが合理的であるかを評価するにあたり、コロナ禍で不確実性が高い状況の下では、IMFの世界経済見通しなどが参考になると考えられます。

監査先企業の会計上の見積りが合理的であるかを評価するにあたり、コロナ禍で不確実性が高い状況の下では、IMFの世界経済見通しなどが参考になると考えられます。

1.視界不良の今、何に注目すべきか

経営者は自らが売る商品やサービスが今期どれくらい売れそうか、そのためのコストはどれくらいかかりそうかを判断して商品やサービスの供給体制を調整する。コロナショックに見舞われた今、それらの判断が非常に難しくなっている。視界は悪い。

人が旅行に出発する前に天気予報を見て衣類を選んだり傘の要否を判断したりするのと似ている。この喩えで言うと、今は今日の午後の気温も天気も予想できない(予想できたとしても「良くない」ことしかわからない)状況だと言える。

天気予報は気象庁や民間の気象予報サービス会社が提供してくれる。それと同じように、経済の先行きについては各国政府を含む公的当局や民間の「エコノミスト」「シンクタンク」などが経済予測を提供してくれる。

そうした中で、今回お勧めしたいのは、IMFの世界経済見通しである。

会計士の皆さんが監査先企業の会計上の見積りが合理的であるかを評価するにあたり、コロナ禍で不確実性が高い状況の下では、IMFの世界経済見通しなどが参考になると考えられる。

2.IMF世界経済見通しとは何か

まず、要点だけを押さえておこう。IMFはワシントンに本部を置く国際機関である。IMF世界経済見通しは、IMFが世界及び地域レベルで経済情勢をモニタリングし、3か月ごとに公表するものだ。英語名称はWorld EconomicOutlook: WEOである。厳密には、WEO本体は4月と10月の年2回の公表で、7月、1月はそれらの改定版との位置づけである。

IMF世界経済見通しは、世界経済とその成長見通しに関する詳細な分析を提示する。世界的な金融の混乱のマクロ経済への影響といった問題を扱うとともに、各国の財政政策や金融政策が国境を越えて他国に与える影響にも焦点を当てながら、世界的波及効果を評価する。

G20財務大臣・中央銀行総裁会議やIMF世銀年次総会の前に公表され、その議論のための共通理解のための資料となることが多い。

各国がそれぞれの国自身の経済について見通す場合に比べて、より客観的かつ論理的と評価されることが多い。国でも企業でも人間でも、自分の状況の悪化を適切に評価することは、必ずしも容易でないからである。

3.前回4月のIMF世界経済見通し

前回のIMF世界経済見通しは、4月14日に公表された。
その中で、われわれにとって関心がある部分を表で示すと、次の(図表)の通りである。

(図表)4月公表のIMF世界経済見通しの骨子

  実績値 標準シナリオでの予測値
2019年 2020年 2021年
前年比 前年比 前年比 前々年比
世界全体 +2.9 ▲3.0 +5.8 +2.6
先進国 +1.7 ▲6.1 +4.5 ▲1.9
日本 +0.7 ▲5.2 +3.0 ▲2.4
米国 +2.3 ▲5.9 +4.7 ▲1.5
ユーロ圏 +1.2 ▲7.5 +4.7 ▲3.2
英国 +1.4 ▲6.5 +4.0 ▲2.8
新興・途上国 +3.7 ▲1.0 +6.6 +5.5
中国
+6.1 +1.2 +9.2 +10.5
ロシア +1.3 ▲5.5 +3.5 ▲2.2
ブラジル +1.1 ▲5.3 +2.9 ▲2.6
世界貿易 +0.9
▲11.0 +8.4 ▲3.5

(単位:%)

これはIMFが示した「標準シナリオ」の下での予測値である。

日本に暮らすわれわれにとっては、次の5つのポイントが注目される。

(1) 2020年の日本の実質GDPは、前年比5%強の減少と予想。来年2021年にかけては回復に向かうが、2021年のGDPは前々年(2019年)を2%強下回る。
先進国の中で相対比較をすると、日本の2020年の前年比はややマシ。ただ、2021年の反発は他国比で見劣りする。

(2) 世界全体をまとめると、今年2020年は前年比▲3.0%のマイナス成長となり、来年2021年は+5.8%の回復に転じる。

(3) 世界を先進国と新興・途上国に分けてみると、今年2020年は先進国が▲6.1%とより深刻な景気後退に見舞われるのに対して、新興・途上国は▲1.0%の見通し。ただ、さらに新興・途上国の内訳をみると、相対的に早い段階でコロナショックの影響から脱しつつある(と4月時点で想定されていた)中国のプラス成長維持が目立つ。

(4) 先進国の中では、米国が2020年に約6%と大幅なマイナス成長。
また、ユーロ圏(特に南欧)が深刻なマイナス成長に。

(5) 2020年は世界貿易の縮小が顕著で(前年比▲11%)、輸出依存型企業に厳しい環境となる。世界貿易は、翌2021年は方向としては回復に向かうものの、前々年をなお3.5%も下回る。自動車産業など、輸出の割合が大きい企業が受けるダメージが大きいことは、このことから容易に想像できる。

4.数字だけではなく、「説明」にも注目したい

言うまでもなく、今回の景気後退は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」の影響によるものである。未知の感染症の世界的な大流行(パンデミック)に対して、他国との人の往来を無理やりストップし、各国内においても人命を可能な限り守るために、外出禁止などの措置をとらざるをえなくなったことによるものである。

IMFの調査部門にとって、4月の世界経済見通しの策定作業は、「未曽有の難しさ」だったに違いない。冒頭に述べたような経営者にとって視界不良のときに、IMFにだけ見えることがあるわけではないからである。

とは言うものの、IMFの世界経済見通しは、今回のパンデミックの世界経済への影響について丁寧に「説明」を加えるとともに、標準シナリオとは別に「代替シナリオ」を設けて、それぞれの場合には「こうなると見込まれる」ことを示すアプローチをとっていた。

それらについては、次回解説する。

 

本稿は税務研究会の週刊「経営財務」に掲載されたものであり、税務研究会の許可を得て転載したものです。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
金融アドバイザリー部
ディレクター 水口 毅

参考情報へのリンク(外部サイト)

寄稿の本文はこちらからご覧いただけます。

金融機関に関する最新情報

お問合せ