半導体企業が未開拓のビジネス機会 - 研究開発費および関税緩和によるコスト削減の可能性
KPMGが毎年実施する『グローバル半導体業界調査』の第15回調査結果を取りまとめたレポートのパート1(全3レポート)です。
KPMGが毎年実施する『グローバル半導体業界調査』の第15回調査結果を取りまとめたレポートのパート1(全3レポート)です。
半導体は今日のハイテクかつハイパーコネクティッドな(あらゆるものがつながる)世界の中核的な構成要素であり、ビジネスや社会のほぼすべての側面が半導体のエコシステムに依拠しています。それに伴い、半導体企業はより高いレベルでの研究開発投資が必要になり、世界全体の研究開発費は2018年に640億ドルに達しています。その一方で、これらの投資が期待通りの結果をもたらしていない場合も見られ、研究開発費の効率化にはまだ改善の余地があります。
また、現在の「自国中心主義」の貿易環境による関税コストの増加も半導体産業にとって大きな課題の1つとなっています。国家間の関税紛争に半導体企業も巻き込まれる可能性があり、その影響を緩和するために、半導体企業は、関税軽減戦略の再検討とグローバルサプライチェーンの最適化を実施していかなければなりません。
ポイント
- 41%の研究開発費が、市場にあまり効率的に整合しておらず、10億ドルの研究開発費を削減できる可能性がある。
- 67%の半導体企業が、関税コストの一部またはすべてを顧客に転嫁することを予定している。
- 58%の半導体企業が、関税対策として業務やサプライチェーンの変更を予定している。
- 2020年度における半導体業界信頼指数のスコアは59となっており、半導体業界のリーダーは企業の業績に明るい展望を抱いている。
2019年は市況悪化も半導体業界のリーダーはいまだ楽観的
2019年はメモリの過剰供給により市況が大幅に低迷したものの、半導体メーカーの2020年の収益成見通しは堅調なものとなっています。半導体業界エグゼクティブの89%が来年の企業収益の増加を予想しています。また、回答者の74%が自社の年間収益が6%以上増加すると予想しており、収益成長の程度も大きくなると予想されています。
今年度と比較した場合、来年度はどの程度自社の収益成長が見込まれますか?
出典:KPMGグローバル半導体業界調査結果(2020年)
端数処理のため合計が100%とならない場合があります。
半導体企業のエグゼクティブは、メモリの余剰が解消し、需要が徐々に回復すると予想しており、業界全体が復活すると見込んで、資本を投入しようとしています。ほとんどの企業は、2020年の収益成長を促進するために、機器、ソフトウェア、および従業員に投資する予定です。59%のエグゼクティブが設備投資の増加、73%が従業員規模の拡大を計画しています。
研究開発費の効率化で10億ドルの費用削減機会を創出
今日のハイパーコネクティッドな世界では、研究開発の優先順位がこれまでになく高まっており、費用も増加しています。73%のエグゼクティブが来年度に研究開発費を増強する予定であり、そのうち27%が10%以上の増額を計画しています。
来年度の自社の半導体研究開発費は、今年度と比較してどの程度変化すると予想されますか?
出典:KPMGグローバル半導体業界調査結果(2020年)
端数処理のため合計が100%とならない場合があります。
しかし、研究開発費が増加するほど投資が無駄になるリスクは増大し、その損失金額は数十億ドルに達します。そのため、半導体企業は、研究開発投資の効率を高め、研究開発プロセスをより効率的にする必要があります。
急速に変化を遂げる半導体業界においては、アジャイルなポートフォリオ管理により、研究開発予算を効果的に活用できる可能性があります。変化する市況と顧客の需要に基づいて、プロジェクトを迅速に再評価し、優先順位を付け直すことで、新しいイノベーションを市場の新たなニーズに整合させ、潜在的価値が最も高いプロジェクトにリソースを割り当てることができます。
国際貿易の変化がもたらす機会
世界的な関税と保護貿易主義の高まりは、2020年の期待される収益増加の達成に対して逆風をもたらすと考えられます。最近の米国と中国における関税問題は、半導体のチップ製造コストに直接的な影響を与えています。また、関税によりサプライチェーン全体におけるプロセスも大幅に複雑化しています。リスク軽減のため58%の半導体企業が、サプライチェーンにおいて運営上の対策を実施することを予定しています。
あなたの組織で現在進行中の国際的な関税活動がもたらす主な運営上の影響は何だと思いますか?
出典:KPMGグローバル半導体業界調査結果(2020年)
現在の国際貿易がおかれる環境下で半導体企業が関税コストを削減するためには、例えば、原産地国の調整や、関税の免除、関税払戻しプログラムなどを実施することが可能です。KPMGの調査によると、戦略的な関税軽減計画を実施した企業は、米国への輸入品に対する関税を平均59%節減しました。柔軟なサプライチェーン戦略と強力な貿易インフラに投資し、安定したシナリオ計画に基づいて戦略を策定することで、企業は競争上の優位性を高めることができます。