有報等の提出期限の延長を踏まえて決算・総会日程をどう組み直すか

旬刊経理情報(中央経済社発行)2020年5月10日・20日合併増大号に特集「会社法上の対応が不可欠 有報等の提出期限の延長を踏まえて決算・総会日程をどう組み直すか」にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

旬刊経理情報2020年5月10日・20日合併増大号にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

この記事は、「旬刊経理情報 2020年5月10日・20日合併増大号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

ポイント

  • 決算・監査作業の遅延により、スケジュールの組み直しが余儀なくされているところ、有報等の提出期限の9月末まで一律延長を踏まえ、会社法の決算スケジュールを見直し、定時総会開催日や招集通知の発送期限を調整し、決算・監査期間を確保することが望まれる。
  • 決算・監査期間の確保をしてもなお、定時総会において計算書類等の報告ができない場合に備え、定時総会の延期についても想定しておく必要がある。

はじめに

新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、政府は、2020年4月7日に東京、大阪等の7都府県を対象に緊急事態宣言を発出し、出勤者7割減といった外出自粛等を要請、16日には全国に範囲を拡大した。執筆時点では東京で新型コロナウイルス感染症の潜伏期間の目安である2週間が経過しているが、いまだ感染拡大が収束する目処は立っておらず、5月6日までを期限とする宣言が延長となるのか予断を許さない状況である。こうしたなか、すでにわが国において最も集中する3月期の企業決算・監査の時期に突入しているが、大幅に作業が遅延することが見込まれる。

金融庁は、4月14日に有価証券報告書等の提出期限の9月末までの一律延長を決定、15日には、金融庁が事務局をつとめる「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会」(以下、「連絡協議会」という)※1が「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」と題した声明を公表した。

本稿では、こうした状況下で多くの企業が決算と監査作業の遅延により、スケジュールの組み直しが余儀なくされている状況と考えられることから、スケジュール変更を検討するにあたってのポイントを紹介することとしたい。なお、未曾有の事態でもあり、今後新たな法解釈や実務が形成されていくものと思われ、今後の動向に注視が必要であること、本稿の意見にわたる部分は私見にすぎないことを申し添える。

※1 構成メンバーは日本公認会計士協会、企業会計基準委員会、東京証券取引所、日本経済団体連合会。オブサーバーは全国銀行協会、法務省、経済産業省。2020年4月3日に設置。

有価証券報告書等の一律延長

金融庁は、4月14日に有価証券報告書等の提出期限の9月末までの一律延長を決定したことを公表し、17日に、「公益上、緊急に命令等を定める必要があるため、手続を実施することが困難であるとき」(行政手続法39[4]一)に該当するとして意見公募手続を実施せず、企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令を公布、即日施行した。

改正内容は、2020年4月20日から9月29日までの期間に提出期限が到来する有価証券報告書、四半期報告書、半期報告書、親会社等状況報告書、外国会社報告書等に関し、一律に2020年9月30日まで提出期限を延長するというものである。同年2月10日に金融庁が公表した「新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について」により、財務局長等へ個別に申請を行う形での延長が認められていたが、府令の改正が行われたことにより、こうした個別申請は不要となった(企業内容等の開示に関する内閣府令附則[4])。
 

会社法の決算スケジュール

前述のとおり、有価証券報告書の提出期限が延長になっても、会社法の決算・監査スケジュールが不変であれば、実質的には何ら意味がないことになる。このため、会社法の決算スケジュールもあわせて見直す必要がある。

ここで、ある3月期決算会社の決算・監査スケジュールを示すと、図表1のとおりである。これからわかるように、株主総会の開催日の2週間前に招集通知とともに計算書類や監査報告を発送しなければならないことから(会社法437、会計規133、134)、株主総会の日程から逆算して決算と監査の作業期間が決まる。

なお、連結計算書類の監査報告は招集通知の際に提供しなくてよいことになっているが(会社法444[6]、会計規134[2])、連結計算書類については監査が終了し、取締役会の承認を受けたものを提供しなければならないこと(会社法444[6][5][4])との関係で、監査は終了していなければならない。さもなければ、監査期間の満了によって、監査を受けたものとみなされるという規定(会計規130[3])によらざるを得なくなる。これは連結計算書類に適正意見がないものとして取り扱うことになり、会社や株主にとって望ましいものではないことから、ここでは監査を終了し、監査報告を提供することを前提としている。

図表1 3月期決算会社の決算・監査スケジュール

月・日 項目 内容 関係法令
4月22日(水) 計算書類およびその附属明細書の作成、監査役・会計監査人に提出   会社法435[2]、436[2]一、会計規125
4月28日(火) 連結計算書類の作成、監査役・会計監査人に提出   会社法444[3][4]、会計規125
5月15日(金) 会計監査人から会計監査報告(連結分含む)を特定監査役・特定取締役に提出 計算書類の全部を受領した日から4週間(計算書類の附属明細書は受領した日から1週間)。連結計算書類は、受領した日から4週間注1 注2 会計規130
5月20日(水) 特定監査役から監査役会の監査報告(連結分含む)を特定取締役・会計監査人に提出 会計監査人から会計監査報告を受領した日から1週間注2 会計規132、会施規132
5月21日(木) 決算取締役会   会社法298、436[3]、444[5]、会施規63、93
6月8日(月) 招集通知発送 定時株主総会の会日から2週間前まで 会社法299、301、302、437、会施規65、66、会計規133、134
6月26日(金) 定時株主総会    会社法124、296、309、438、439、444[7]、454

 

注1 特定取締役と特定監査役と会計監査人による合意により、計算書類等については伸長・短縮が可能。連結計算書類については伸長・短縮が可能。

注2 事後的に監査が終了すればその後の手続を前倒して進めることも可能。

(1)定時株主総会の開催日

定時株主総会の開催日については、会社法上は毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないという規定(会社法296[1])があるのみで、事業年度末から3カ月以内に開催しなければならないという規定はない。定時株主総会の招集時期や、株主総会の議決権行使基準日を決めているのは各社の定款である。このため、定款に抵触しない範囲で定時株主総会をできるだけ後ろ倒しにすることが考えられる。

(2)招集通知の発送期限

招集通知の発送期限は株主総会の会日から2週間前(会社法299[1])となっている。ただし最近は、コーポレートガバナンス・コード(以下、「CGコード」という)により招集通知の早期発送が要請されていること(CGコード補充原則1-2[2])もあり、法定よりも早期に発送する企業が増えている。この点に関しては、東京証券取引所より、例年と比較して発送の時期が遅れることがあっても、それ自体をもってCGコードの趣旨に反するものではないとの見解が出されている※2。このため、これまで早期発送していた会社に関しては、法定期限まで決算・監査期間を確保できる余地がある。

※2 東京証券取引所「2020年3月期上場会社の定時株主総会の動向(速報版)」2020年4月7日。

(3)監査期限

計算書類については、会計監査人と監査役等について、それぞれ4週間※3、1週間という監査期間を確保しつつ、合意による伸長ができる形になっており、会計監査人でいえば、特定取締役と特定監査役と会計監査人の三者の合意により伸長が可能となっている(会計規130[1]一)。ここで、監査の起算日は「計算書類の全部を受領した日」※4である。他方、連結計算書類の監査スケジュールは、計算書類とは少し異なる。連結計算書類の監査期間は、計算書類と同様、連結計算書類の全部を受領した日から4週間を経過した日としてもよいし、三者の合意により別の期限としてもよい(短縮しても伸長してもよい)(会計規130[1]三)。論理的には、連結計算書類の作成日は計算書類の作成日以降になり、したがって、連結計算書類の監査期間として計算書類の監査期間と同じ程度の期間を確保しようとすると、招集通知に監査報告を添付することに無理があり得るためである※5

ただし、ここで定められている監査期間はあくまで事前のことであり、事後的に監査が終了すれば、その後の手続を前倒しして進めることができる。とはいえ、今般の事態は決算・監査の作業自体が遅延している状況であることから、前述(1)、(2)の日程調整により監査期間を確保することが望まれる。

※3 計算書類の附属明細書については1週間。

※4 計算書類の附属明細書については受領した日。

※5 始関正光「平成14年改正商法の解説(10)」(『旬刊商事法務』1649号、2002年)。

(4)WEB開示制度の活用

会社法施行規則および会社計算規則には、株主への書面交付等のための印刷代・郵送などの費用負担の増加から開示の充実が妨げられることのないよう、WEB開示を行うことにより株主に提供されたとみなされるという制度がある。この制度を採用するためには、その旨の定款の定めが必要となる(会施規94[1]ただし書き等)。またその範囲は、株主総会参考書類、事業報告、株主資本等変動計算書、個別注記表および連結計算書類(会計監査報告および監査報告を含む)の全部または一部である(会施規94、133[3][4]、会計規133[4][5]、134[4][5])。

実務上は、ほとんどの会社がWEB開示に係る定款規定を置いており、注記表や連結注記表のみを対象としている会社が圧倒的に多い※6。WEB開示制度を採用している会社については、連結計算書類本表についてもその対象に加えることで招集通知に添付する書面の印刷期間を連結計算書類の監査に充てることが可能となる。

図表1のとおり、実務上、計算書類と連結計算書類の作成タイミングは異なるものの、監査や取締役会承認に関しては同時進行で進められ、監査報告も同日付で発行されることが一般的である。しかし、前述(3)のとおり、会社計算規則によれば、計算書類と連結計算書類について監査期限がそれぞれ別に定められていることから、WEB開示制度を活用している会社に関しては、連結計算書類の監査期間を最大限確保する趣旨で、計算書類より後に連結計算書類の監査報告を行うという選択肢も考えられるところである。

※6「株主総会白書(2019年版)」(『旬刊商事法務』2216号、2019年)によれば、WEB開示に係る定款規定を置く会社は、1,694社中1,616社( 95 .4%)。WEB開示の対象について、1,294社の回答中、個別注記表(1,268社、98%)、連結注記表(1,221社、94.4%)、株主資本等変動計算書(614社、47.4%)、事業報告(506社、39.1%)となっている。

定時株主総会の開催時期

現在の感染拡大の状況を踏まえれば、前述「有価証券報告書等の一律延長」のような決算スケジュールの調整によっても、定時株主総会において計算書類等の報告ができないことが想定される。定時株主総会の延期は、配当や役員人事といった重要事項に影響を与えるものであるが、そうした影響を最小限にしつつ、適切に開催できるようマネジメントや法務・総務といった関係部署とできるだけ早期に調整を開始し、延期の事態に備えることが望まれる。

定時株主総会を延期する手法としては、図表2のとおり、3つの方法があるようである。

図表2 定時株主総会の延期方法(3月決算のケース)

方式 6月総会 7月総会
対象 手続 対象
A 単純延期方式  (開催せず)  4月以降の基準日を再設定 計算書類報告議案も含めすべての議案
B 2段階方式 B-1 継続会方式 計算書類等の報告議案を含めすべての議案注   定時株主総会で継続会の決議
(基準日は3月末のまま)
計算書類等の報告議案
B-2 別の株主総会招集方式 計算書類等の報告議案を除く議案  4月以降の基準日を再設定 計算書類等の報告議案

 

 ただし、招集通知のタイミングで計算書類等の書類を株主に提供できないため、決算・監査が終了した後、ただちに計算書類等を株主に提供して株主による検討の機会を確保する。

(1)単純延期方式

法務省が公表した「定時株主総会の開催について」(最終更新2020年4月17日)において示されているのは、図表2のA単純延期方式である。具体的には、次の事項を通知し、個社が所定の手続を経て定時株主総会の延期をすることが可能であることを明らかにしている。

  • 定時株主総会の開催時期を定款に定めていても、その時期に開催できない状況が生じた場合には、その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りる。
  • 定款で定時株主総会の議決権行使基準日を定めている場合に、当該基準日から3カ月以内の定時株主総会を開催できない状況が生じたときは、新たに議決権行使のための基準日を定め、当該基準日の2週間前までに当該基準日および基準日株主が行使できる権利の内容を公告する(会社法124[3]本文)。
  • 特定の日を剰余金の配当基準日とする定款の定めがある場合でも、その特定の日を基準日として剰余金の配当をすることができない状況が生じたときは、定款で定めた基準日の株主に対する配当はせず、別の日を基準日として剰余金配当することも可能である。この場合、当該基準日の2週間前までに公告する必要がある(会社法124[3]本文)。

(2)2段階方式(継続会方式)

他方、剰余金の配当について株主総会決議事項となっている会社においては、株主への影響の大きさから※7、予定どおり議案を決議しておきたいといった事情があると考えられる。また、役員改選を予定している会社もあると思われる。このため、いったんは計算書類の報告議案を含めて定時株主総会を招集し開催するものの、監査済の計算書類等を招集通知の発送に際して株主に提供できない場合には、当初予定されていた定時株主総会において、剰余金の配当や役員選任等の決議を経たうえで、継続会の決議をし(会社法317)、決算・監査業務完了後に、継続会の開催通知とともに計算書類や監査報告等を株主に提供して株主による検討の機会を確保して、継続会において計算書類や監査報告等の報告を行うという方法が考えられる。これが、金融庁の連絡協議会声明で触れられている図表2Bの2段階方式(B - 1継続会方式)である。

ただし、継続会の開催は最初の会日から相当期間内としなければならず、学説は分かれているものの、招集の法定期間である2週間以内とすべきとの解釈が通説となっている※8。今般の事態に関しては、金融庁の連絡協議会が、継続会の開催時期について、「当初の株主総会の後合理的な期間内」に開催するとし、今般の決算・監査の状況に応じ、少し幅をもって捉えることができることを明らかにしている。

※7 配当基準日を変更してしまうと権利落ちしてしまうため、東京証券取引所は投資家に対し警鐘を鳴らしている

※8 倉橋雄作「新型コロナウイルス感染症と総会開催・運営方針の考え方」(『旬刊商事法務』2227号、2020年)。

(3)2段階方式(別の株主総会招集方式)

とはいえ、継続会は当初の定時株主総会と同一の会議であり、議決権行使可能な株主も変更されない。このため、定時株主総会を開催するタイミングでも決算・監査業務の完了目処が立っておらず、継続会の開催が相当後にずれこむことが見込まれる場合には、開催時期の点で継続会の適法性に疑義が生じかねない※9

この場合には、あらためて基準日を設定して、招集手続を経て別個の株主総会※10を招集するほうが望ましく、これが図表2Bの2段階方式(B-2別の株主総会招集方式)となる。この別の株主総会の開催は、有価証券報告書の提出期限が9月末までであることを考えると、9月末までというのが現時点におけるいったんの目安になるものと思われる。

※9 濱口耕輔「株主総会当日の議事運営と想定問答の準備」(『旬刊商事法務』2228号、2020年)。

※10 この場合、厳密には別個の株主総会が定時株主総会(会社法438)、当初想定された時期に開催する株主総会が臨時株主総会という位置づけになるとの見解がある(濱口・前掲※9)。

定時株主総会の開催方法

次に、株主総会を開催するということになれば、どのように開催するかが問題となる。議決権の行使に関しては、書面または電磁的方法により行うことが可能であるが(会社法298[1]三・四)、株主総会を電子的に開催すること(バーチャルオンリー総会)は認められないと解されている(会社法298[1]一)。このため、ハイブリッド型バーチャル総会が注目されている。

こうした手段によることも一案であるが、経済産業省と法務省の連名で、感染拡大防止策の一環として、「株主総会運営に係るQ&A」(2020年4月14日更新)が公表されている。これによれば、物理的に開催する総会において、合理的な範囲内において、自社会議室を活用するなど、例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも可能であること、現下の状況においては、結果として、会場に事実上株主が出席していなかったとしても、株主総会を開催することは可能であることが示されており※11、事実上バーチャルオンリー総会が可能となっている。

※11 経済産業省・法務省「株主総会運営に係るQ&A」2020年4月2日(2020年4月14日更新)。

おわりに

未曾有の事態であり、今般の3月期決算・監査は手探りで進めざるを得ないであろう。繰り返しになるが、特に株主総会運営に関して新たな法解釈や実務が形成されていくであろうことから、今後の動向には引き続き注視する必要があると思われる。

筆者も、監査人のひとりとして、厳しい制約下ではあるが、会社の経理担当者をはじめとする皆様とともに、この困難な状況を乗り越えられることを切に願うものである。本稿が少しでも皆様の実務の参考になれば幸いである。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
パートナー 公認会計士 和久 友子

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