【第13回~TCFDを旅する~】COVID-19と責任投資原則

国連の責任投資原則が公表した「責任投資家のCOVID-19(コロナ危機)への対処方法」をご紹介します。

国連の責任投資原則が公表した「責任投資家のCOVID-19(コロナ危機)への対処方法」をご紹介します。

今回は、国連の責任投資原則(PRI : Principles for Responsible Investment)※1が公表した「責任投資家のCOVID-19(コロナ危機)への対処方法」(“HOW RESPONSIBLE INVESTORS SHOULD RESPOND TO THE COVID-19 CORONAVIRUS CRISIS”※2)をご紹介します。

副題のサステナビリティの観点からは、TCFDによる開示とESG投資とは表裏であるとともに親和性の高いテーマとなります。

※1 PRIは2006年に責任投資原則(Principles for Responsible Investment)を公表し、ESG投資を呼びかけた国際連合の機関です。

※2 How responsible investors should respond to the COVID-19 coronavirus crisis(PRI)

1. はじめに

PRIは2020年3月27日に「責任投資家のCOVID-19(コロナ危機)への対処方法」(“HOW RESPONSIBLE INVESTORS SHOULD RESPOND TO THE COVID-19 CORONAVIRUS CRISIS”)を公表しました。

その趣旨は、国連責任投資原則に署名した機関(機関投資家、資産運用会社、アセットオーナーなど)は、新型コロナ危機を通じて短期的なリターンに制約が生じたとしても公衆衛生と長期的な経済成長を守る観点から企業のサステナビリティをサポートする必要があるという考えにあります。
この趣旨に基づいて投資家に対して7つのアクションを求めています。

2. 投資家に求める7つのアクション

(1)アクション1
投資家はリスク管理に成功しなかった企業と対話をする必要があるとしています。
昨今株主至上主義の修正に関する議論が盛んですが、人的資本の管理は企業のサステナビリティの基本であり、実際に従業員、契約先、サプライヤー、地域社会などのステークホルダーの利益を短期的利益に拘泥する株主よりも重視しているかが問われています。
そこで、従業員の職場環境の安全性、その経済的安全性などを経営者報酬や自社株買いなどによる株主の短期的利益よりも重視していたかが重要になります。

(2)アクション2
新型コロナ危機対応のために別の危機が生じたり、既存の危機が悪化したりしていないかに関して、投資家は企業と対話する必要があるとしています。
例えば、新型コロナ危機対応のために加工食品・加工肉に対する需要が増大したためにパームオイル・牛・大豆などのサプライチェーンに負荷がかかり森林破壊につながるリスクが生じたり、デリバリーサービスへの需要が急拡大したりしたために倉庫で働く労働者の職場環境が悪化するリスクがないかなど、新型コロナ危機対応によるリスクの発生・拡大に関する対話を求めています。

(3)アクション3
投資家は、新型コロナ危機対応を考慮して企業との対話の優先順位を見直すように求めています。

(4)アクション4
投資家は、政府・企業などが新型コロナ危機対応への対処方法を推進しやすいように、その活動を支持する声明を公表するように求めています。

(5)アクション5
投資家は、定時株主総会を利用して被投資会社に対する適切な監視活動を続けるべきであるとしています。
具体的には、定時株主総会において配当及び自社株買いなどではなく人的資本の管理、長期的な財務管理に関する質問をしたりすること、新型コロナ危機対応以外の例えば気候変動リスクなどの経営課題に継続して対応する必要性を強調するべきと考えています。
また、バーチャル(オンライン)定時株主総会に関して懸念があることは確かだが、この環境下では参加出席型の通常の総会に代えてバーチャル総会とすることも考慮されるべきであるとしています。

(6)アクション6
資金調達懸念などがある企業等から財務的サポートを依頼されたら、実現可能な場合には投資家に応じるように要請しています。
ケースバイケースではあるものの企業等を支えることが経済全体を支持し再生することにつながるとの認識です。

(7)アクション7
投資活動が継続して長期的視点からの投資となっているか、加えて現況において経済的に必要とされる対応に沿っているかをレビューするように求めています。
新型コロナ危機対応下においても長期投資のスタンスを維持することが重要との認識です。

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KPMGジャパンでは、GSDアプローチによるTCFDアドバイザリーサービスを提供しています。
また、EUタクソノミーに関するご相談を受け付けています。
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※ GSDアプローチとは、Gap analysis(TCFD最終提言とのギャップ分析)、Scenario analysis(シナリオ分析)、Disclosure analysis(開示内容・手法の妥当性分析)を指します。

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執筆者

KPMGジャパン
コーポレートガバナンスCoE/TCFDグループ
テクニカルディレクター 公認会計士 加藤 俊治

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