「IoT」と「5G」の技術で、リアルな街がゲーム機に

ブロックチェーン及びIoTや5G等の技術がゲーム産業に与える影響について、スクウェア・エニックスの三宅陽一郎氏にお話を伺いました。

ブロックチェーン及びIoTや5G等の技術がゲーム産業に与える影響について、スクウェア・エニックスの三宅陽一郎氏にお話を伺いました。

三宅 陽一郎 氏

「ブロックチェーン」導入で変わるゲーム業界

ゲーム産業でも、フランス企業のUbisoftを中心に「ブロックチェーン」を導入する動きが出てきています。現在のゲーム産業は、「ユニティ」や「アンリアルエンジン」と呼ばれるゲームを作る仕組みを、一定程度儲かるまでは無料で使えるようになっており、小さなゲームであれば多くの人が誰でも作れる環境です。これがブロックチェーン技術によりさらに進み、「ユーザーがデジタル上で作ったゲームは誰のものか」という議論がされているのです。
たとえば、UbisoftのHashCraftという製作中のゲームがあります。島の中でいろいろなアイテムが生成されるのですが、そのアイテムは、作った時点でブロックチェーン認証がされてユーザーのものになり、他のユーザーと交換できるようになります。
一般にこのようなブロックチェーンを使ったゲームでは、ユーザーの中心にサーバーがあるわけではありません。ブロックチェーン技術により、ユーザーのネットワーク上にすべての取引記録が残っているのです。突然、運営側が「このゲームを終了する」と言っても、ゲームそのものは一定のユーザーが活動する限りは残っていくのです。
ユーザーの1人が「アイテムを作りました」あるいは「アイテムを買いました」としたら、それが周りのノードから認証されるのがブロックチェーンです。それにより、中心のサーバーが終わったとしても、ユーザーがゲームをやり続ける限り、そのアイテムは認証され続け、すべてが公式の記録としてノードの中に残っていく仕組みです。ユーザーが手に入れたものはずっとユーザーのものであり続けます。まさに「ゲームの民主化」です。

「IoT」と「5G」の技術により現実世界でゲームを展開する

今後のゲーム産業は、ますます「現実世界」へとゲームが展開していくでしょう。それには「IoT」と「5G」の技術が必要になります。
まず「IoT」技術についてですが、実は、人工知能(AI)は「現実を認識する力」がほとんどありません。人間はこの世界で生まれましたが、AIはソフトウェアで生まれたために、3次元空間や自然物がよくわからないのです。ですから、「ここが渋谷の交差点です」というのを、渋谷の交差点そのものから電波や信号でもらうことで認識するしかありません。それが「AIにとってのIoT」です。渋谷の交差点自身がAIに教えてくれる、端末に教えてくれるという仕組み、つまり、IoT技術が必要になるということです。
次に「5G」の技術についてです。現実世界にゲームを展開するには、中央コンピュータで計算したいろいろなゲームの展開をそれぞれの端末に届けなければいけませんし、また端末側からは今どういう状況にあるかという情報をサーバー側にアップしなければなりません。そのためには高速回線の同期が必要です。しかし、現在はそれができないので、1つの場所でみんなが違うコンテンツを見ているようなゲームになっているのです。将来的には、たとえば(仮想的な)怪獣が神奈川県の海岸から陸に上がってきている状況をみんなで共有するとか、たとえば「今は町田にいるよ」とか、そういう1つのコンテンツに対してみんなが攻撃するなどの、現実空間で大きなコンテンツを同期しながらプレイするゲームが出てくるでしょう。
今のゲームのプラットフォームは、モバイルゲーム、PCゲーム、ゲーム専用機に分かれていますが、2030年には、そもそもゲームはクラウドになるという意見もあります。VR(Virtual Reality:仮想現実)かもしれないし、AR(Augmented Reality:拡張現実)かもしれません。あるいは、街全体がゲーム機になっているかもしれません。

「AI」は現実を認識し、街はスマートシティになる

AIは、先ほど申し上げたように、現実空間の把握が弱いので、現実を先にスキャンしておこうという発想があります。スキャンしたデータをもってリアルな空間と同期したそっくりのデジタル空間を作るという発想です。つまり、机は物理的な机ですが、デジタル的なスキャニングがされれば、この机の形状は完全に把握できます。同様に、東京都全体をスキャンしたデータがあれば、AIはスキャンしたデータを使って現実を認識するのです。そこに、今通っている車や人のデータをリアルタイムにデジタル空間へ投影すると、AIは現実を認識します。AIの一番苦手な部分をスキャニングによって補完するのです。
なぜGoogleがグーグルカー(ストリートビュー撮影車)を使ってあそこまで現実世界のスキャニングにこだわるのか、まさに人工知能にとって世界の認識が弱点だとわかっているからです。自動運転もそうで、街全体をスキャンしてAIの認識能力を高めようとしています。
現実空間からデジタル空間に情報を転写するという意味では、スキャニングのほかにIoT技術が考えられます。街中にカメラとセンシングデバイスが張り巡らされて、常に現実世界からデジタル空間に情報を吸収し続けることで、AIがリアルタイムに現実を把握できるようになります。そのデジタル空間を使って、今度は現実空間にアクションを施す。たとえば、ある場所で事故が起こる、ある場所では異常を検知する、そこからAIの場合は過去10年間の街のデータにより次にどうなるかを予測することが可能です。そこに何かが起こる予兆があれば、街全体を把握しているAI(メタAI)がドローンなりロボットなり、あるいは人間に命令して、「ここが怪しいからちょっと見回りに行ってきて」というように、街の状態を常に監視しながら、かつロボットや人間を活用し、保守し続けるという世界になるでしょう。これがまさにスマートシティ構想と呼ばれているものです。

その人に必要な体験を届けられる自動生成の仕組みづくり

AIの進化で何が起こっているのか。実はゲームのコンテンツが自動的に生成される仕組みになりつつあるのです。これまでのゲームは、「モンスターはここから出てきて、こういうシナリオで流れます」と固定化していました。いわば数百万人が1つの同じ体験をしていたといえます。
ところが、AIを活用することで、たとえば「このユーザーは下手なのでダンジョンをちょっと小さくする」とか、「物語をスキップする」とか、その人のためだけのストーリーが作れます。メインのシナリオは人間が書きますが、街を出て洞窟まで行く途中は、何も起こらなくてもいいし、村人が「困っているので助けてください」というのがあってもいい。そのプレーヤー用のストーリーを生成するのです。
現代では数百万人に1つのストーリーしかないと、リリース直後に動画共有サイトにゲームプレイ映像などがアップされるため、その動画を見てプレイした気になる。それでは困ります。個々が違うストーリーであれば、動画共有サイトにアップされても再現性がないので一向に構わなくなります。
「お前のダンジョンは1階しかなかったけど、俺のダンジョンは地下3階まであったよ」となる。ダンジョン生成は難しくありません。さらにその先には、AIがゲームの中だけではなく、SNSのログを見ていて、昨日は渋谷に行ったのだったらちょっと森を多めにしてあげようとか、友だちと喧嘩したらしいから友情めいた物語をゲームの中で展開してあげようとか、その人に本当に必要な体験を届けられるようになるでしょう。

日本の強みは「自動生成技術」

デジタルゲームのヒット作の分岐は1,000万本と言われています。その1,000万本を超えるゲームのほとんどは、北米で人気のオープンワールド型のゲームです。一方で、日本ではオープンワールド型だけを求めているわけではありません。物語を追体験したいという欲求が根源にあって、現実からできるだけ遠い場所へ行きたいと願っています。他方、アメリカのゲームは、やたらとリアルなシカゴの街とかを再現して、ゲーム機の中までもが現実です。国内と海外のゲームへの嗜好で大きな隔たりがあり、その点では日本のゲーム開発は苦しんでいます。技術的にも先行されていて、キャッチアップに必死です。
ゲームAI技術の中でもコンテンツ自動生成技術は日本の切り札でもあり、それをうまくゲームデザインに組み込むのは、日本の方が優れていると考えています。世界で勝つのはそこだと思っています。

※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。

三宅 陽一郎 氏

株式会社スクウェア・エニックス
テクノロジー推進部
リードAIリサーチャー

ゲームAI開発者として、デジタルゲームにおける人工知能技術の発展に従事。理化学研究所客員研究員、東京大学客員研究員、九州大学客員教授。国際ゲーム開発者協会日本ゲームAI専門部会チェア、日本デジタルゲーム学会理事、芸術科学会理事、人工知能学会編集委員。『人工知能のための哲学塾』、『人工知能の作り方』等著書多数。

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