“元祖ビッグデータ企業”としてInsurTechを推進

CXを向上させる保険版フィンテック「InsurTech」について、第一生命ホールディングス株式会社の市川陽一氏にお話を伺いました。

CXを向上させる保険版フィンテック「InsurTech」について、第一生命ホールディングス株式会社の市川陽一氏にお話を伺いました。

市川 陽一 氏

2030年に向けての展望

2030年の世界は、少子高齢化が進むことで約900万人(東北6県分)の生産年齢人口が減り、後期高齢者(75歳以上)の方々が大幅に増え、さらに、50歳未満は全員デジタルネイティブの世代となります。その状況において、我々は伝統的な死亡保険から第三分野(医療保険・介護保険など)にシフトし、貯蓄マーケットもしっかりとカバーする戦略を採ってきました。
また海外に関しては、すぐに収益貢献できるアメリカやオーストラリアでの企業買収や、将来の成長ということでアジアマーケットへの進出も進めています。
技術動向でいうと、日々の活動データやバイタルデータはクラウド上に吸い上げられ、ログが取れる状態になっているでしょう。それがリアルタイムで反映され、医療現場も遠隔診療が進んでいるでしょう。
保険の営業は、人を介するスタイルは変わらないにしろ、対面かどうかはわかりません。もっと手軽にビデオ通話などが使われているでしょう。社内的には、AIやRPAが進んでくると、生命保険契約の引受や保全、支払いなどの事務は自動化されていくでしょう。

「プロテクション」から「プリベンション」へ

医療技術やビッグデータの解析技術が進化していくと、保険そのものの形が変わっていくでしょう。そうした流れの中、我々は「プロテクションからプリベンションへ」という戦略の方向性を見出しています。
「プロテクション」とは、万が一があったときに保険金・給付金をお支払いする、つまり「守る」という従来型の保険です。それに加え「プリベンション」、いわゆる「予防」の領域に足を踏み入れていこうと考えています。
我々のグループ会社のネオファースト生命が、健康年齢に基づく保険を出しました。普通の生命保険は実年齢、たとえば「40歳男性」で保険料が決まります。ところがネオファースト生命の保険は、健康診断の結果で、「あなたの実年齢は40歳ですが健康年齢は35歳です」となったら「35歳の保険料を適用する」という特徴的な保険です。
我々は100年以上にわたって積み重ねてきたデータを持っています。これに外部のデータを合わせたビッグデータを解析した結果、生み出された商品です。この商品などは、かなり特徴的なInsurTechの商品といえます。

ビッグデータ解析で新商品の開発を

ビッグデータ解析技術を使って、保険の引受を拡大していくことも行なっています。毎年100万件ぐらいの新契約の件数があるのですが、そのうち7%ぐらいの契約が、医的な理由でお断りしたり条件付でお引受けしたりすることになっています。しかし、ビッグデータ解析技術を使うことで、「ここまでは大丈夫」「ここまでだったら十分にリスクの範囲内でリスクテイクできる」と、引受基準を変えて範囲を拡大することが可能になります。以前の基準に比べれば、年間3.8万件の引受拡大が見られるようになってきています。これも典型的なビッグデータ解析、InsurTechの成果だと思っています。また、商品の小口化も進んでいくでしょう。
これまで「レジャー保険」といえば、1年間の傷害保険のような感じでした。しかしアメリカでは、たとえばスキーやスノーボードに行ったときに、ゲレンデに着いてリフトに乗る瞬間にスマートフォンで画面をスライドさせてONにすると保険が開始され、ザーッと滑って終わって帰るときにオフにするとそこで保険が終わる、そういう保険が出てきています。今後は「1Day保険」などのように、小口化された保険がおそらく増えてくるでしょう。
GAFAに代表されるITの巨人たちがマーケティングデータに相当強いので、脅威ではあります。ただ、我々保険業は「元祖ビッグデータ企業」です。負けてはいられません。今後はそこに日々の活動データ、バイタルデータが入ってくると、今とは違う保険を生み出せるでしょう。そういうところにもやはりチャレンジしていきたいと思っています。

「B to B to C」から「C to B」のモデルへ

伝統的な営業職員チャネルは、なくならないでしょう。これからもそこはメインだと思います。しかし、そこでカバーしきれない層があります。我々はアフィニティ・マーケティング(Affinity:類似性を持つ人たち)と呼んでいますが、特定の集団やコミュニティー、こういったところを抱えている企業や団体がいっぱいあります。
我々は日本調剤さんと提携させていただいていますが、日本調剤さんのお客さまは服薬をされていて、ある程度、病気をコントロールされている方々です。我々のグループ会社のネオファースト生命が出している緩和型の保険は持病があっても入れます。「一律の商品ラインナップではなく、集団を構成する人たちとマッチングのいい商品を提供していく」というB to B to Cのモデルです。そうやって、今まではカバーしきれなかったお客さまを今後はカバーしていきたいと考えています。
さらに、Techの世界で言われているCX(カスタマー・エクスペリエンス)をどんどん向上させていかなければなりません。今までの保険会社ではなかったような体験を提供していかなければならないというのはあります。「C to B」の視点です。

渋谷とシリコンバレーに「Innovation Lab」を開設

InsurTechの取組みで言うと、日本でFintechが囁かれ始めた2015年に第一生命ではいち早く「InsTech」と銘打って部門横断的なプロジェクトチーム、バーチャル組織をつくり、ヘルスケアとアンダーライティングとマーケティングという3つの領域で進めてきました。それから1年ちょっと経ったところの2017年4月、私がいるInsTech 推進室という先端組織をつくりました。ここでさまざまな戦略策定を行ない、今度は試行する段階に入ってきたということで、2018年4月、渋谷とシリコンバレーにInnovation Labを開設しました。そこではさまざまなPOC(Proof of Concept:概念実証)を行ない、ビジネス実装に向かっていこうとしています。
さらに2019年4月、データサイエンティストが集まる先端組織をつくりました。なお、当初のバーチャル組織は、ずっとプロジェクトチームやワーキンググループ形態で同時並行で機能しています。
我々はトラディショナルな会社で育った人間ですので、知らず知らずのうちにウォーターフォール型の思考になってしまいます。もっとアジャイルに進めていく必要がある。そこが課題でしょうか。我々プロパーの人材と中途採用の人材、あとはIT系のグループ会社のDLSからも人を送り込んでもらって運営しています。外部環境の変化のほうが激しいので、もう必死に付いていかなきゃいけないという感じですね。

市川 陽一 氏

第一生命ホールディングス株式会社
国内営業企画ユニット InsTech推進グループ 部長

1997年第一生命保険入社。2012年に経営企画部マネジャー、2014年に広報部マネジャーを務め、2017年から第一生命ホールディングス国内営業企画ユニットInsTech推進グループマネジャーに就任。2018年に同グループ部長。

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