プロフェッショナルの「できない」を「できる」に変える~ KPMG Ignition Tokyo 始動

プロフェッショナルの「できない」を「できる」に変える~ KPMG Ignition Tokyo 始動

本稿は、KPMGジャパンの新会社として監査・税務・アドバイザリーのプロのデジタルトランスフォーメーションを推進する株式会社 KPMG Ignition Tokyoについて解説します。

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AIを始めとしたコンピューティングとデータを活用したデジタル技術は、企業内のさまざまな定型作業・意思決定作業・協同作業を実時間化・自動化・集約化・精緻化していきます。これにより、人材はより非定型的・戦略的・創造的な業務に集中することになります。このデジタル技術によるワークシフトの結果、企業はより経営的重要性を持つ領域に時間的資源・人的資源を投下でき、結果、企業の業績的発展とイノベーションに繋がると想定しています。
本稿は、昨今注目度が高まっている企業のデジタル変革に関連し、KPMGジャパンの新会社として監査・税務・アドバイザリーのプロフェッショナルのデジタルトランスフォーメーションを推進する株式会社 KPMG Ignition Tokyoのアプローチについて解説します。

Point1~4

I. KPMG Ignition Tokyoの概要

昨年7月よりKPMGコンサルティングの一部門として多様な経験・背景を持つデジタル人材を集結したKPMGイグニション東京は、2019年7月より株式会社 KPMG Ignition Tokyo(以下「KIT」という)として大手町ビルヂングにて業務を開始しました。
東京大手町という地の利を生かし、世界各地からデジタル人材を採用し、2019年10月現在で約20ヵ国の出身者から構成されています。人材の経歴も多岐にわたっており、IT・航空・エレクトロニクス・エンタテインメント・保険・金融・広告宣伝・通信・モバイル・コンサルティングといった産業界からの出身者で構成されています。チーム構成としては、クラウド・DevOps・セキュリティ・ソフトウェア開発・AI/Data・ブロックチェーンなどの技術領域をカバーするデジタル人材と監査・税務・アドバイザリー領域のソリューションをドライブするデジタル人材を中心としたワールドクラスのテクノロジストチームを構築し、さらなる拡大を計画しています。
集結したテクノロジストがさらに高い目標に向かって挑戦できる環境を作るべく、会社設立に伴いKITのミッションを新たに「Make the Impossible Possible(「できない」を「できる」に)としました。テクノロジストの創造性や探求心を駆り立てる難しいテーマへの挑戦を奨励し、企業において進化を妨げるさまざまな技術負債を積み上げないように留意し、開発環境やクラウド環境に先端ソリューションの積極導入を実施しています。

II. AI監査を加速・進化させる注力すべき技術領域

1. 監査領域における不連続な3つの変化

KITでは、監査・税務・アドバイザリー領域のデジタル変革および企業への支援を行っています。特にKPMGジャパンの主要事業である監査領域については、あずさ監査法人のDigital Innovation部・デジタル企画部と共同で、今後の監査の変化を明確化するとともに、監査におけるイノベーションの実現を加速させるべく、密な議論とアクションプランの策定を行い、デジタルプラットフォームとソリューションの構築を開始しています。
KPMGジャパンでは、今後監査において少なくとも3つの大きな変化があると見ています。これらの変化は、現在のプロセスや常識からは不連続な変化を起こしていくと考えています。

  • コンピューティングの積極的な活用による監査の実時間化
  • 財務データと非財務データの結合による監査の高度化
  • 全取引データの全数検定による監査の精緻化

これらの実現のために、KITではプラットフォームアプローチを採ることにしました。このアプローチとKITがKPMGジャパンの各事業へ成果を提供する横断的な役割を担う立場にいることから、1つの事業向けソリューションからの技術成果を他の事業向けのソリューションに活用することで、より高度なソリューションを短期間に開発していくことが可能になりました。
さらに、そのプラットフォームアプローチの基礎となる革新的なデジタルプラットフォームとソリューション構築のために、KITでは注力すべき技術領域を6つに絞っています。ここでは、これらの6つを簡単に解説します(図表1参照)。

図表1 6つの注力技術領域

Secure Computing 秘密計算
Knowledge Processing 知識処理
Intelligent Agent 知的対話型エージェント
Smart Transaction スマートトランザクション
Scientific Visualization 科学的可視化
Edge Computing & IoT エッジ・コンピューティングとIoT

2. 6つの注力技術領域

(1)秘密計算(Secure Computing)

まず、セキュアコンピューティング(秘密計算)領域ではKPMGオーストラリアと協業し、ブロックチェーンを活用した分散型台帳技術をフードトレーサビリティ用途に適用しました。これにより、コンプライアンス機能を提供するプラットフォームを実現したほか、暗号化した状態で四則演算が可能になりました。また、多くの秘密計算処理に寄与する準同型暗号技術や、将来量子コンピュータが実現された際にも耐え得る抗量子コンピュータ暗号技術などに注目するとともに、暗号資産の監査技術にも取り組んでいます。
その1つがあずさ監査法人 IT監査部とともに進めているCAPP2(Cripto Audit Platform Phase 2)のプロジェクトです。このCAPP2は現時点で9種類の仮想通貨を使うことができ、今まで仮想通貨の監査において1週間かかっていた作業をたった7分で終えるなど、300倍以上の作業効率を図ることができます。しかもこれらの作業はKPMGジャパンのプラットフォームを使うことによってセキュアな環境で安心して利用することができます(図表2参照)。

図表2 CAPP2:暗号資産監査プラットフォーム

図表2 CAPP2:暗号資産監査プラットフォーム

(2)知識処理(Knowledge Processing)

ナレッジプロセッシング(知識処理)領域では、監査・税務などで必要とされるプロフェッショナルな知識のデジタル化を目論んでいます。アドバイザリー向けにも、たとえば契約書などの文書から契約書内容の把握といった知識処理の開発を進めています。
また、画像認識や文字認識などの技術により、在庫状況・建築進捗・契約書など、これまで非財務データとして扱われていたものからの情報抽出・知識抽出が容易となることから、財務データと非財務データの突合といったことがコンピュータ上で可能になります。これにより、監査の精度向上に貢献します(図表3参照)。

図表3 AIと画像/文字認識を用いた契約書の情報抽出

図表3 AIと画像/文字認識を用いた契約書の情報抽出

(3)知的対話型エージェント(Intelligent Agent)

インテリジェントエージェント(知的対話型エージェント)領域とは、たとえばチャットボットのような対話型の仕組みを可能にする技術のことです。検索のような一度きりの入力で情報の探索を行うアプローチではなく、漸次的に所望の情報へ到達するのに適しています。もちろん、テキスト情報での入出力に留まらず、音声などでの入出力も進めており、先のナレッジプロセッシングでの開発成果と組み合わせ、処理を分散させることで、機密保持が要求される監査・税務プロフェッショナルのデジタル知識を対話型で柔軟に引き出して活用します(図表4参照)。

図表4 セキュアな環境を実現するチャットボット

図表4 セキュアな環境を実現するチャットボット

(4)スマートトランザクション(Smart Transaction)

スマートトランザクション領域は監査・税務で取り扱う多くの取引において、リアルタイム取引における異常や不正を検知しようとするものです。現在はデータを収集したうえで統計的手法・機械学習的手法で異常や不正を見つけるアプローチが主流となっていますが、今後は非財務データの活用も視野に入れ、よりリアルタイム性を高くしながらも、網羅的で精緻な異常や不正の検出を実現していきます。また、予測的関係性も取り入れた検知技術や判定技術を取り入れたトランザクション機能を実現すべく開発を進めています。

 

(5)科学的可視化(Scientific Visualization)

サイエンティフィックビジュアライゼーション(科学的可視化)領域は、経営データ・財務データなど膨大なデータとその分析結果を経営者の方々に理解しやすい形で提示する技術です。加えて、経営的に必要とされる多角的な情報を対話的に可視化します。たとえば、デジタルツインのような実在するモノや仕組みをデジタルドメイン内に仮想的に実現し、シミュレーションにより起こり得る変化や挙動を可視化するといった技術もこの領域に含まれます(図表5参照)。

図表5 膨大なデータから需要予測を行い可視化

図表5 膨大なデータから需要予測を行い可視化

出典:KPMG Ignition New York

(6)エッジ・コンピューティングとIoT(Edge Computing & IoT)

6つの技術領域の最後は、エッジ・コンピューティングとIoTです。エッジ・コンピューティングは5Gモバイル通信ネットワークの導入で注目されはじめた概念です。クラウドより手前のユーザーデバイスに近い領域をエッジネットワークと呼び、このエッジネットワークにサーバなどの計算資源やハードディスクなどの記憶資源を置くことでよりリアルタイム性の高いアプリケーションを実現しようとするものです。
エッジ・コンピューティングといわゆるIoTは相性が良く、KITではエッジ・コンピューティングとIoT領域を重要と見ています。IoTとしては、たとえばドローンなどが挙げられますが、ナレッジプロセッシング領域の技術である画像認識と組み合わせることで、在庫の実在性確認といった監査業務の一部を自動化・簡略化することが可能となります。

III. おわりに

KITではこれらの6つの技術領域の基礎となるクラウドプラットフォームも構築・運営しています。監査・税務・アドバイザリーに必要となる各種セキュリティ要件などをクリアし、顧客企業のデータを保管・処理可能なクラウド時代の要請に対応したクラウドプラットフォームの仕組みを含めて、構築・運営開始しております。
加えて、海外KPMGで開発・提案されたプラットフォームやソリューションを積極的に日本市場に導入し、言語的・機能的・ワークフロー的ローカライゼーションを実施しています。また、日本固有のニーズへの対応や、さらにはKIT開発ソリューションの海外KPMGおよびそのクライアント企業への提供も行う予定になっております。それにより、KITが持つ多様な人材が大きく活きる領域となるとともに、さまざまなデジタル変革へのニーズに応えられる状況となりつつあります。
KITでは、先に述べた各種先端のデジタルソリューションを商用導入すべく活動しており、監査・税務・アドバイザリー領域のデジタル変革と各クライアント企業のデジタル変革支援を推進してまいります。

執筆者

株式会社 KPMG Ignition Tokyo
代表取締役社長 兼 CEO
KPMGジャパン チーフ・デジタル・オフィサー
パートナー 茶谷 公之

※記事中の所属・役職などは、記事公開当時のものです。

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