コーポレートガバナンスOverview2019 - 有価証券報告書開示充実の本質と社外取締役から見たガバナンス改革の課題 -

KPMGジャパンが実施した社外取締役向け意識調査に基づき、コーポレートガバナンスの実質的な改革へと歩みを進めつつある企業の現状および課題について解説します。

KPMGジャパンが実施した社外取締役向け意識調査に基づき、コーポレートガバナンスの実質的な改革へと歩みを進めつつある企業の現状および課題について解説します。

2018年のコーポレートガバナンス・コードの改訂から1年が経過しましたが、今もなおコーポレートガバナンス改革を形式的なものから実質的なものへと深化させる取組みは継続しています。2019年1月には、有価証券報告書における情報開示の充実を図るために、「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(以下「開示府令」)が公布され、同年3月に、「記述情報の開示に関する原則」および「記述情報の開示好事例集」が公表されました。また、2019年6月には子会社ガバナンスの強化といった守りの側面のみならず、事業ポートフォリオの見直しなど経営資源の適切な配分等、グループとしての企業価値向上につながる攻めのガバナンスの構築を促す目的で「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」が公表されています。加えて、スチュワードシップ・コードの改訂も2020年を目途に行われる予定となっています。東証の市場区分の見直しの議論も進んでおり、日本のコーポレートガバナンス改革は第3、第4フェーズへとつながっていくと考えられます。

コーポレートガバナンスOverview2019(PDF:1.9MB)」では、こうしたここ1年のコーポレートガバナンス改革の動向についてフォローするとともに、トピックスとして有価証券報告書における情報開示の充実への取組みを取り上げています。昨年に続き社外取締役の視点から見た日本企業の課題を明らかにすべく、「開示府令」が提示する各論点について意識調査を実施の上、当該アンケート結果の分析に基づく提言を述べるとともに、「開示府令」が求めるコーポレートガバナンス改革の本質について解説しています。

内容

1.概説
2.重要性(マテリアリティ)の考え方と評価軸
3.事業リスクの特定と取締役会における議論のあり方
4.MD&A - 財務戦略とキャッシュフローアロケーション方針の策定
<コラム>KPIに関する論点

  • 社外取締役向け意識調査結果
  • 付録

1.企業の持続的成長に向けたガバナンス改革および関連動向
2.日本再興戦略・未来投資戦略・成長戦略まとめ

Key FindingsおよびKPMGからの提言

有価証券報告書の開示充実の本質は情報開示の強化を契機としてコーポレートガバナンスの実効性を高めることにあると考えます。開示府令が対応を求める主要なポイントについて、社外取締役向けに実施した調査結果等のKey FindingsおよびKPMGからの提言は下記のとおりです。

1.経営方針や対処すべき課題

Key Findings

  • 経営方針や対処すべき課題について、十分に議論ができていると回答した社外取締役は2割にとどまりました。特に規模が小さい企業ほど、これらの議論が不足していると感じる社外取締役が多くなっています。
  • 議論が不足する要因として、経営方針策定の前提となる中長期的な事業環境の変化について十分な情報がないことや、短期的に対処すべき課題が多く、長期の経営方針策定まで議論が及ばないといった指摘がなされています。

KPMGからの提言

  • 経営方針や対処すべき課題の検討にあたり、自社にとっての重要性(マテリアリティ)の評価軸をもち、短期・中期・長期の経営課題を明らかにする必要があります。マテリアリティは経営方針の検討や中期経営計画の立案の土台となるため、その特定に当たっては中長期的な事業環境の変化について取締役会で十分に議論を重ねる必要があります。取締役会ではそれらの議論を踏まえたうえで自社の経営課題を明らかにし、経営方針の議論を深めていくことが求められていると考えます。

2.事業等のリスク

Key Findings

  • 事業等のリスクについて、十分に議論ができていると回答した社外取締役は2割弱にとどまりました。また、社外取締役の2割はあまり議論ができていないと回答しています。
  • 議論を深めていくうえでの課題として、発生したリスク事案の報告が中心となっており将来発生し得るリスクの予測や予防の議論が不足している点や、現状の事業環境を前提とした議論にとどまり事業環境の変化を踏まえた議論が不足している点が指摘されています。

KPMGからの提言

  • 事業等のリスクについて取締役会で議論を深化させていくためには、事業単位の主要なリスクや当該リスクの事業への影響等の情報をボトムアップで収集することに加えて、トップダウンによるリスクシナリオをベースに将来の環境変化が自社の事業にどのような影響を及ぼし得るのかを把握したうえで、自社にとって主要なリスクを絞り込むことが必要となります。そのためにはリスク管理の中核に取締役会を据えた体制を構築することが必要不可欠であると考えます。

3.財務戦略とキャッシュフローアロケーション方針

Key Findings

  • 2割の社外取締役が財務戦略について十分に議論ができていると考えているものの、企業規模が小さくなるほど議論が不足していると感じる社外取締役が多くなっています。
  • 企業規模の大小にかかわらず、多くの社外取締役が資本コストを意識した業績管理の展開が課題であると感じています。また、投資や株主還元の優先順位を定めるキャッシュフローアロケーションの方針や余剰現預金の活用、最適資本構成の方針策定についても議論が不足しているといった指摘がなされています。

KPMGからの提言

  • 資本コストを意識した経営を展開するにはROICやROE目標、株主還元方針を散発的に掲げるだけでは不十分であり、キャッシュリターン、利益の「質」(キャッシュコンバージョン)、最適資本構成、キャッシュフローアロケーションを「財務フレームワーク」として一体的に捉え、その方針を十分に取締役会で議論する必要があります。そのためには取締役会における財務リテラシーを高めていくことが必要であると考えます。

4.役員報酬

Key Findings

  • 役員報酬制度については約3割の社外取締役があまり議論できていないと回答しています。特に規模が小さい企業ほどその傾向は顕著になっています。
  • 役員報酬に関しては社長一任となっており、取締役会に十分情報が共有されていないといった指摘もなされています。

KPMGからの提言

  • コーポレートガバナンス・コードにおいて、経営者報酬の決定(補充原則4-2(1))や任意の指名・報酬委員会など独立した諮問委員会の設置(補充原則4-10(1))のコンプライ率が低下している現状において、独立社外取締役を中心とした任意の報酬委員会を積極的に活用していくことが重要と考えます。また、すでに委員会を設置した企業においては委員長の独立性が確保されているかなど、実質面で機能しているかを評価していくことが肝要です。

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