【第1回~TCFDを旅する~】TCFDコンソーシアムがグリーン投資ガイダンスを公表

グリーン投資ガイダンスの背景や概要を解説するとともに、投資家等が開示情報を読み解く際の視点も付け加えます。

グリーン投資ガイダンスの背景や概要を解説するとともに、投資家等が開示情報を読み解く際の視点も付け加えます。

1.グリーン投資ガイダンスの背景

今回公表された「グリーン投資の促進に向けた気候関連情報活用ガイダンス」(グリーン投資ガイダンス 2019年10月8日)はTCFDコンソーシアム(2019年5月設立)での議論を通じて作成されたものですが、両者とも「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(以下、パリ協定長期戦略 2019年6月11日閣議決定)に定められたグリーンファイナンスの推進に関する施策による動きになります。

パリ協定は世界全体の平均気温の上昇を産業革命以前と比べて2度高い水準を十分に下回る水準に抑えるとともに1.5度高い水準までに制限する努力を追及するものであり、TCFD提言の前提となっているものです。

パリ協定長期戦略においては、我が国の最終到達点として「脱炭素社会」を掲げています。そのためには非連続はイノベーションを通じた「環境と成長の好循環」を実現することが必要と考えられており、イノベーションを生み出すための資金を確保するためにグリーンファイナンスの推進を行うとされています。それを支える一つの柱がTCFD等による開示や対話を通じた資金循環の構築であると位置づけられています。

グリーン投資ガイダンスはパリ協定長期戦略において、気候変動関連情報を投資家や格付・評価機関等が活用するためのものとされています。

グリーン投資の促進に向けた気候関連情報活用ガイダンス(グリーン投資ガイダンス)」を公表しました。

2.グリーン投資ガイダンスの概要

(1)ガイダンスの位置づけ

グリーン投資ガイダンスでは、アセットオーナー、アセットマネジャー、銀行、保険会社及びその他の情報利用者を「投資家等」と定義して、投資家等がTCFD提言に基づく開示情報を適切に評価・利活用して投資判断を行うことを目指しています。

読者の皆様に馴染み深いものとして、「気候関連財務情報開示に関するガイダンス」(以下、TCFDガイダンス 2018年12月経済産業省)があると思いますが、TCFDガイダンスは気候関連財務情報を開示する企業のためのものである一方で、グリーン投資ガイダンスは企業の開示情報を利用する投資家等のためのものであり、両者は相互補完の関係(図表1)にあるとされています。

図表1 TCFDガイダンスとグリーン投資ガイダンス

図表1 TCFDガイダンスとグリーン投資ガイダンス

筆者作成

(2)ガイダンスの基本的考え方

「環境と成長の好循環」を実現するために、以下の3点が基本的考え方として提示されています。

  • 企業価値向上につながる建設的な対話(エンゲージメント)の促進
  • 気候変動に関するリスクと機会の把握及び評価
  • 脱炭素化に向けたイノベーションの促進と適切な資金循環の仕組みの構築

(3)TCFD提言との関係

TCFD提言では、以下の4分類11項目についての開示を促しています(図表2)。

図表2 TCFD提言の概要

  ガバナンス 戦略(重要な場合) リスク管理 指標と目標(重要性な場合)
リスク
機会 ×
a 取締役会の監視体制 短中長期のリスクと機会 識別・評価プロセス 評価指標
b 評価等の経営陣の役割 戦略・財務計画への影響 管理プロセス スコープ1,2,3排出量(注)と関連リスク
c 該当なし シナリオ分析とレジリエンス 全社的リスク管理との統合 目標と達成度


(注)スコープ1はGHG(温室効果ガス)のその企業による直接的排出量、スコープ2はその企業が購入した電力、熱等の消費による間接的なGHG排出量、スコープ3は企業のバリューチェーンの中で生じる間接的GHG排出量であってスコープ2を除いたものを指す。

(出典)2019 Status Report “Task Force on Climate-related Financial Disclosures : Status Report”を参考に筆者作成

グリーン投資ガイダンスでは、I.ガバナンス、II.戦略とビジネスモデル、III.リスクと機会、IV.成果と重要な成果指標(KPI)の4分類としており、TCFD提言とは多少異なる構成となっています。II.戦略とビジネスを独立した項目としたのは、TCFD提言による戦略に関するシナリオ分析の理解を深め、それを適切に評価することが戦略の前提になるビジネスモデルの理解と評価につながると考えられているからです。またIII.リスクと機会は、投資家等が企業のリスク認識の妥当性を判断する際の視点の一つと位置付けられています。

(4)投資家等が開示情報を読み解く際の視点

グリーン投資ガイダンスが提示する開示情報を投資家等が読み解く際の視点は以下のとおりです(図表3)。
このうち戦略とビジネスモデルのうちシナリオ分析に関する開示内容について、それを将来予測に基づくコミットメントでなくストーリーとして捉えるべきであること、どのシナリオを利用したかよりも説得的なストーリーとなっているかを重視するべきと指摘していることは重要です。

図表3

  項目 視点
I. ガバナンス
  • 気候変動対応のガバナンスに係る組織体制、機能、実効性の確認
II. 戦略とビジネスモデル
  • 戦略に至った意思決定プロセスとシナリオの整合性、業種に照らした妥当性、戦略に沿った対応を確認・評価
III. リスクと機会
  • 気候変動リスクへの取組を理解し、機会獲得の可能性を評価し、リスクと機会のバランスを取った企業評価を実施
  • 気候変動対策へのイノベーションの重要性を認識し、イノベーションと長期戦略の関係性、体制等を積極的に評価
IV. 成果とKPI
  • KPIの設定根拠を把握し、戦略との整合性を確認
  • KPIを比較評価する際に業種特性を考慮
  • バリューチェーン全体のGHG排出量、サービス利用時等の削減貢献量を考慮して評価

筆者作成

グリーン投資ガイダンスは、今後のTCFD提言に基づく開示状況、グリーン投資の進展に伴い改定等が予定されています。

ご紹介:TCFD及びEUタクソノミーに関するKPMGジャパンのサービス等

KPMGジャパンでは、GSDアプローチによるTCFDアドバイザリーサービスを提供しています。
また、EUタクソノミーに関するご相談を受け付けています。
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GSDアプローチとは、Gap analysis(TCFD最終提言とのギャップ分析)、Scenario analysis(シナリオ分析)、Disclosure analysis(開示内容・手法の妥当性分析)を指します。

執筆者

KPMGジャパン
コーポレートガバナンスCoE/TCFDグループ
テクニカルディレクター 加藤 俊治

TCFDを旅する ~サステナビリティを目指して~