未来の小売りがもたらす顧客体験の最大化とは

「小売りの明日」第5回 - 顧客体験を7つの要素に分類し、Zappos、Bass Pro Shopsなどアメリカの事例を挙げながら顧客体験の最大化について解説する。

顧客体験を7つの要素に分類し、Zappos、Bass Pro Shopsなどアメリカの事例を挙げながら顧客体験の最大化について解説する。

「キャッシュレス」「アプリ」「AI(人工知能)」「RFID(無線自動識別)」「MR(複合現実)」「顔認証システム」など、未来の小売りを表現するキーワードは数限りないが、あくまで顧客体験の最大化につなげるための手段だ。顧客体験の最大化は、流通企業が事業を展開するにあたって前提とするべき大切な概念である。では、顧客体験の最大化とは一体何を指すのか。顧客体験において必要な要素は、「時間」「商品」「価格」「量」「サービス」「場所」「販促」の7つに分類できる。それぞれにどのような顧客体験があるか、自社の店舗や日頃から利用している店舗に照らし合わせてみるとわかりやすい。

エイチ・アイ・エス(HIS)グループが全国に展開する「変なホテル」では、ロボットが接客する。アマゾンやアリババが積極的に展開する無人店舗は、有人接客をせずデジタル化することで、顧客に驚きを与えている一例と言える。
靴のネット通販をアメリカで展開するザッポス(Zappos)という企業をご存じだろうか。24時間365日対応のコールセンターを持ち、送料・返品が無料であり、かつ返品は何回でも、何足でも受け付け、翌日に配送する。カスタマーサービスの神対応が顧客との様々な感動ストーリーを生み出している。
ザッポスはネット通販企業や小売り企業のサービスに変革を起こした。客は気に入るまで何度でも靴を試し、満足のいく商品を購入する。また、コールセンターの職員が手書きした御礼の手紙まで添える。効率化や採算以上に顧客満足を最前面に据え、顧客の期待値を超えるサービスを実現している。もちろん、在庫管理やサイト運営の効率化を緻密に行うことで利益を確保している。ザッポスが掲げる10のコアバリュー(中核的な価値)の1つ目に挙げられているのが「サービスを通して、WOW(驚嘆)を届けよ」。顧客体験の最大化に関する大きなヒントがここにある。

このサービスの部分を前述した7つの分類に当てはめてみる。顧客が驚くような新たな体験を提供した際、その顧客はその企業や店舗のファンになっていくのである。ザッポスは新規顧客の43%が口コミを通じて顧客になり、顧客リピート率は75%に達する。
アメリカのアウトドアスポーツ専門店であるバスプロショップ(Bass Pro Shops)では店内に滝が流れ、巨大な水槽にはアロワナが泳ぎ、通路には動物の剥製が多数設置されている。大人も子供もワクワクする自然の臨場感という体験を提供することで、ミズーリ州の本店は観光地の1つとなり、年間400万組もの家族が訪れている。これは販促における驚きの提供だと言える。

7つの分類に顧客が驚くような利便性や楽しさが備わっているかどうかが顧客体験の最大化の鍵を握る。そして、データやテクノロジーを活用し在庫や人員の最適化により、収益性を向上させることを両立しなくてはならないことは言うまでもないだろう。

日経MJ 2018年11月26日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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