記述情報充実の開示ポイント1月改正開示府令の早期適用が可能

旬刊経理情報(中央経済社発行)2019年6月20日号の令和元年6月第1四半期決算の直前対策にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

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この記事は、「旬刊経理情報2019年6月20日号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

  • 平成31(2019)年4月1日以後に開始する事業年度に係る四半期報告書に、記述情報の充実を図る「事業等のリスク」、「経営者による財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況の分析」に係る新開示府令の規定を早期適用することが可能である。
  • 「記述情報の開示に関する原則」を踏まえたより実効的な開示も期待される。
  • 新開示府令の規定を早期適用しない企業においても、令和2(2020)年3月期に向け開示充実のための体制の見直しを図る必要がある。

はじめに

平成31(2019)年1月31日に公布された「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、「開示府令」という)改正により、有価証券報告書等における建設的な対話の促進に向けた情報の提供等に関する開示が平成31(2019)年3月期から拡充されており、このほかの財務情報および記述情報の充実、情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組みに関する開示が、令和2(2020)年3月期の有価証券報告書等において求められることとなる(いずれも平成31(2019)年3月期から早期適用可)。また、平成31(2019)年3月19日には、「記述情報の開示に関する原則」および「記述情報の開示の好事例集」が公表されている。
本稿では、このような開示充実に向けた動向を踏まえ、令和2(2020)年3月期の第1四半期の四半期報告書等に関する改正点および影響を中心に解説する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。

開示府令改正による四半期報告書への影響

(1)新開示府令の規定の適用時期

四半期報告書に係る新開示府令の規定の適用時期については、附則において「事業等のリスク」、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(以下、「MD&A」)」の規定を除き、平成31(2019)年4月1日以後に開始する事業年度に係る四半期報告書から適用されると定められている。なお、「事業等のリスク」、「MD&A」の規定を平成31(2019)年4月1日以後に開始する事業年度に係る四半期報告書から早期適用することが可能である。

附則 適用する規定 適用時期
第10項 新開示府令第四号の三様式および第九号の三様式(注)の規定(附則第11項の規定を除く) 平成31(2019)年4月1日以後に開始する事業年度に係る四半期報告書について適用
第11項 新開示府令第四号の三様式記載上の注意(7)(事業等のリスク)および(8)(MD&A)の規定 令和2(2020)年4月1日以後に開始する事業年度に係る四半期報告書について適用
ただし、平成31(2019)年4月1日以後に開始する事業年度に係る四半期報告書について適用可


(注)外国会社の場合は第九号の三様式の規定による。

(2)平成31(2019)年4月1日以後に開始する事業年度に係る四半期報告書に関する改正点

指定国際会計基準(連結財務諸表規則第93条に規定する指定国際会計基準)により四半期連結財務諸表を作成した場合において、記載事項のうち金額に関する事項について、本邦通貨以外の通貨建ての金額により表示している場合には、主要な事項について本邦通貨に換算した金額を併記することとする規定が追加された(第四号の三様式 記載上の注意(1)b)。当該規定により本邦通貨以外の通貨建ての金額を本邦通貨に換算する場合には、一定の日における為替相場により換算することとし、換算にあたって採用した換算の基準として当該日、換算率、為替相場の種類その他必要な事項を注記することとされる(第四号の三様式記載上の注意(1)c)。
なお、平成31(2019)年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等についても、開示府令の改正により、前記に相当する規定(第三号様式 記載上の注意(1)b、c)が定められている。

(3)平成31(2019)年4月1日以後に開始する事業年度に係る四半期報告書における早期適用

前述(1)に記載のとおり、投資家が経営者の視点から企業を理解できるように記述情報の充実を図ることとなる、「事業等のリスク」、ならびに「MD&A」について、改正後の規定(第四号の三様式記載上の注意(7)、(8))を平成31(2019)年4月1日以後に開始する事業年度に係る四半期報告書に早期適用することが可能とされる。
各規程を早期適用する場合に求められる記載は次のとおりである。

1.事業等のリスク(第四号の三様式 記載上の注意(7))
当四半期連結累計期間において、四半期報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社(四半期連結財務諸表を作成していない場合には提出会社。以下同じ)の経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスク(連結会社の経営成績等の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項)が発生した場合、または前事業年度の有価証券報告書に記載した「事業等のリスク」について重要な変更があった場合には、その旨および具体的な内容をわかりやすく、かつ、簡潔に記載することとされる。
また、提出会社が将来にわたって事業活動を継続するとの前提に重要な疑義を生じさせるような事象等(以下、「重要事象等」という)が存在する場合に、その旨およびその具体的な内容の記載に加え、当該重要事象等についての分析・検討内容および当該重要事象等を解消し、または改善するための対応策を具体的に、かつ、わかりやすく「事業等のリスク」に記載することとされた(改正前開示府令では、「事業等のリスク」において重要事象等が存在する旨およびその内容を記載した場合、当該事象等についての分析・検討内容および対応策は「MD&A」に記載することとされていた)。

2.MD&A(第四号の三様式 記載上の注意(8))
当四半期連結累計期間において、前事業年度の有価証券報告書に記載した「MD&A」中の会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定の記載(前事業年度が平成31(2019)年3月期の場合、平成31(2019)年3月期の有価証券報告書に「第三号様式 記載上の注意(12)」の規定を早期適用した場合に記載される)について重要な変更があった場合には、その旨およびその具体的な内容をわかりやすく、かつ、簡潔に記載することとされる。
また、当四半期連結累計期間において、連結会社が「優先的に」対処すべき事業上および財務上の課題について、重要な変更があった場合や新たに課題が生じた場合におけるその内容、対処方針等の記載が求められ、課題の優先度に関する経営者の視点が反映されることとなる。そのほか、財務および事業の方針の決定を支配する者のあり方に関する基本方針を定めている会社において、当四半期連結累計期間に当該基本方針に重要な変更があった場合にはその内容、また、新たに基本方針を定めた場合には、基本方針の内容の概要等、会社法施行規則第118条第3号に掲げる事項の記載が求められることとなる。

四半期報告書における記載は、前期末の有価証券報告書に記載した内容からの変更点の記載が基本となることから、前期末の有価証券報告書において、新開示府令の事業等のリスク(第三号様式記載上の注意(11))またはMD&A(第三号様式 記載上の注意(12))の規定を早期適用した場合は、通常、四半期報告書において前記1、2の規定を早期適用するものと思われる。ただし、前期末の有価証券報告書においてこれらの規定を早期適用していなかった場合においても、当第一四半期の四半期報告書から前記1、2の規定を早期適用することは否定されないものと考えられる。その場合、投資者にとっての有用な開示のために早期適用を行う観点からは、前期末の有価証券報告書において新開示府令の規定を早期適用していたならば記載していたと考えられる事項も含めて記載する必要があるものと思われる。

記述情報の開示に関する原則との関係

「記述情報の開示に関する原則」は、主として、有価証券報告書を念頭に置いているとされるが、その他の開示においても、この原則を踏まえた、より実効的な開示をすることが期待されるとされている。また、「記述情報の開示の好事例集」に掲載されている事例は、有価証券報告書や、有価証券報告書における開示の参考となり得る任意の開示書類(統合報告書等)の開示例である。四半期報告書の事例は含まれていないものの、それぞれの開示例において、好事例として着目されたポイントが記載されている。
記述情報の「財務情報を補完し、投資家による適切な投資判断を可能とする」役割を踏まえると、記述情報の開示充実のポイントは、主に次のような点と考えられる。

  • 経営者目線の議論の適切な反映
    投資家が取締役会や経営会議における企業の現況の認識や、企業の経営方針・経営戦略等の内容の理解に必要な情報を得ることができるよう、取締役会や経営会議における議論を反映した開示を行う。
  • 重要な情報の開示
    各企業において、個々の課題、事象等が自らの企業価値や業績等に与える重要性に応じて、各課題、事象等についての説明の順序、濃淡等を判断して開示を行う。
  • セグメントごとの情報の開示
    経営管理の実態などに応じ、事業セグメントを適切に区分して、それぞれの区分ごとに深度ある情報を記載して開示を行う。
  • わかりやすい開示
    わかりやすい記載により、その意味内容を容易に、より深く理解することができるような開示を行う。図表、グラフ、写真等の補足的なツールを用いることや、前年からの変化を明確に表示すること、適切な見出しや表題を付すこと、関連性のある記述情報について記載を相互に関連づけること等により、わかりやすく記載する。

期末に向けた開示充実のための体制の見直し

新開示府令の規定を早期適用しない企業においても、令和2(2020)年3月期の新開示府令の適用に向けて、開示充実のための体制の見直しを図る必要がある。
記述情報の開示に関する原則では、記述情報に取締役会や経営会議の議論を反映するため、開示書類作成の早期から、経営者が開示内容の検討に積極的に関与し、開示についての方針を社内に示すことが期待されるとされている。
投資家が、財務情報だけでは判断できない経営の方向性を理解できるよう、取締役会や経営会議において、企業の経営資源の最大限の活用に向け、成長投資・手元資金・株主還元や資本コストに関し、どのような議論が行われているか、またこれらの議論を踏まえて、どのような今後の経営の方向性が示されているかを適切に開示に反映するため、経営者が開示内容検討に早期から関与することが望まれる。
また、開示について、経営企画、財務、法務等の複数の部署が関与する企業では、各部署において取締役会や経営会議の議論に基づく一貫した開示資料の作成を可能とするため、担当役員が各部署を統括するなどして、関係部署が適切に連携し得る体制の構築が望ましいとされる。
経営者がトップダウンで社内に開示方針を示し、担当役員を定めたうえで社内の関係部署における連携体制を構築し、経営者の視点を反映した開示となるよう積極的に開示内容検討に関与することが期待される。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
マネジャー 公認会計士
飯嶋 めぐみ(いいじま めぐみ)

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