リース期間及び賃借設備改良部分の耐用年数(IFRS第16号及びIAS第16号に関連) - IFRICニュース2019年11月 - アジェンダ却下確定
IFRS解釈指針委員会ニュース(2019年11月) - 「 リース期間及び賃借設備改良部分の耐用年数(IFRS第16号及びIAS第16号に関連)」については、2019年11月のIFRC-IC会議で審議された内容を更新しています。
「 リース期間及び賃借設備改良部分の耐用年数(IFRS第16号及びIAS第16号に関連)」については、2019年11月のIFRC-IC会議で審議された内容を更新しています。
関連IFRS
IFRS第16号「リース」
概要
解約可能なリース、及び、更新可能なリースにおいて
1. リース期間をどのように決定するか。
IFRS第16号B34項はリース期間の決定にあたり、契約に強制力がある期間を決定しなければいけないと述べたうえで、「借手と貸手のそれぞれがリースを他方の承諾なしに多額ではないペナルティで解約する権利を有している場合には、リースにはもはや強制力がない」としている。ここで、「多額ではないペナルティ」を評価する際、契約上の解約損害金の支払だけでなく、契約のより幅広い経済実態(例 賃借設備改良部分の放棄又は撤去コストの発生)を考慮するのかどうか。
2. 移動不能な賃借設備改良部分の耐用年数は、関連するリースのリース期間に制限されるのか。
移動不能な賃借設備改良部分とは、例えば、リース対象である原資産の上に借手が建設した設備等であり、当該部分から借手が便益を受けるのは、原資産を使用する期間についてのみとなる。
なお、本件検討において、
- 解約可能なリースとは、特定の契約期間が定められておらず、契約のいずれかの当事者が解約通知を行うまで、無期限で継続するものを指す。同契約には、解約通知を行うに際しての、例えば、12ヶ月未満の通知期間が含まれているが、いずれの当事者も解約時の支払いは不要である。
- 更新可能なリースとは、当初の期間が定められており、いずれかの当事者が解約しない限りは当初の期間経過後、無期限で更新されるものを指す。
ステータス
IFRS-ICの決定
1. リース期間
- リース期間とは、解約不能期間に、延長オプションを行使することにより、もしくは解約オプションを行使しないことにより、リースの継続が合理的に確実である期間を含めた期間である(IFRS第16号第18項)。
- IASBの考えでは「リース期間は原資産が使用される期間についての企業の合理的な見積りを反映すべき」であり、その理由は「当該アプローチが最も有用な情報を提供するから」とされている(IFRS第16号BC156項)。
- IFRS-ICは、2019年11月のIFRS-IC会議で、IFRS第16号B34項の「リースの強制力がある期間」を決定するにあたり企業は次のことを考慮する必要があると考えた。
a)契約上の解約支払だけでなく、契約のより幅広い経済実態
例えば、いずれかの当事者がリースを解約しないという経済的インセンティブを有していて、解約時に僅少とはいえないペナルティが生じる場合、当該契約は、解約可能日の後も強制力がある。
b)当事者の各々が相手方の承諾なしに多額ではないペナルティでリースを解約する権利を有しているかどうか
リースに強制力がなくなるのは、両方の当事者が多額ではないペナルティでリースを解約する権利を有している場合のみである(IFRS第16号B34項)。よって、いずれかの当事者のみが相手方の承諾なしに多額ではないペナルティでリースを解約する権利を有している場合、当該契約は、解約され得る日の後も強制力がある。 - 企業が、解約可能リースの事前通知期間(又は更新可能なリースの当初期間)の後もリースが強制可能であると結論付けた場合には、次に、IFRS第16号第19項及びB37項~B40項を適用して、当該オプション期間における借手のリース解約の蓋然性につき「合理的に確実」の条件を満たすかどうかを評価してリース期間を決定することになる。
2. 移動不能な賃借設備改良部分の耐用年数
- 資産の耐用年数は、「資産が企業によって利用可能であると見込まれる期間、又は企業が当該資産から得ると見込まれる生産高又はこれに類似する単位数」と定義されている(IAS第16号第6項)。
- 資産の耐用年数を決定するにあたり、企業は関連するリースの満了日など、当該資産の使用に対する法的制約又は類似の制約を考慮すると定められている(IAS第16号第56項(d))。また、IAS第16号第57項では、資産の耐用年数は企業にとっての当該資産の期待効用の観点から定義され、経済的耐用年数(注:経済的な観点で資産の利用が物理的に可能な期間)よりも短い場合があると定められている。
- 関連するリースのリース期間が当該賃借設備改良部分の経済的耐用年数よりも短い場合には、企業は、当該賃借設備改良部分をリース期間よりも長い期間にわたって使用すると見込んでいるかどうかを考慮する。リース期間よりも長い期間にわたって、当該資産を使用しないと見込んでいる場合には、当該賃借設備改良部分の耐用年数はリース期間と同じであると結論付けられる。IFRS-ICは、2019年11月のIFRS-IC会議で、移動不能な賃借設備改良部分については、上記整理に基づき、多くの場合、その耐用年数(つまり、資産の使用を「見込む」期間)はリース期間(つまり、当該資産に関連するリースの継続が「合理的に確実な」期間)と一致するとの結論に至る可能性があると考えた。
- なお、オプション期間をリース期間に含めるかどうかの「合理的に確実」の判断においては、借手に経済的なインセンティブを発生させるすべての関連する事実と状況を勘案しなければならない。その一例として、オプションの行使時点において借手に重要な経済的便益をもたらすような賃借設備の大幅な改良が挙げられる。
- また、移動不能な賃借設備改良部分を除去・廃棄するコストはIFRS第16号B34項の「ペナルティ」を生じさせ、1. で検討した「リースの強制力」に影響を与えることになる。リース契約が解約可能な時点を超えて、それより長い期間にわたって移動不能な賃借設備改良部分を使い続けると企業が見込んでいるのであれば、そのような賃借設備改良部分の存在は、「解約時に僅少とはいえないペナルティ」を発生させる可能性がある。すなわち、移動不能な賃借設備改良部分を利用することに効用が期待される期間について、企業はリース契約の強制力を考慮する必要がある。
IFRS-ICは、2019年11月のIFRS-IC会議で、現状のIFRS基準書の原則及び要求事項が十分な判断の基礎を示していると判断し、アジェンダに追加しないことを決定した。
本論点の決定に関する動き
本論点は2019年9月のIFRS-IC会議において検討が行われたものであるが、そのアジェンダ暫定決定に対して多くの反響があったことから、11月のIFRS-IC会議では、この論点についてアジェンダに追加しないことを最終決定するか、会計基準の限定的改訂を行うかについて議論された。IFRS-ICの委員による投票の結果、僅差でアジェンダには追加しないことが決定された(13名の委員のうち7名が賛成)。特に、リース期間の判断にあたり、契約上に定められた解約料の支払いだけでなく経済的なインセンティブを考慮してリースの強制力を決定するのかどうかについては、暫定決定に寄せられた31通のコメントレターのうち、22通が反対意見を述べていた。このように、多くの反対意見が表明された論点につき、IFRS-IC委員の単純な多数決によってアジェンダ決定が最終化された点が一部の利害関係者からは問題視され、デュー・プロセス監視委員会(DPOC)に、1. 多数の利害関係者からコメントが寄せられており実務に多様性が生じていることが明らかな事項についてアジェンダ決定という方式で論点の整理を図ることに問題がなかったか、2. 実務に重要な影響を及ぼす可能性がある論点について、単純多数決での決定によるとするデュープロセスのデザインは適切か、等について指摘するコメントレターが2通提出された。これを受けて、11月のIFRIC Updateの公表が延期されていたが、12月に開催されたDPOC会議でアジェンダ決定に至るプロセスには問題がなかったとして、本件に係るアジェンダ決定を公表することが承認された。
本論点の実務への影響
IASBは2019年3月にメッセージを発信し、IFRS-ICのアジェンダ決定は既存の会計基準の適用にあたり手助けとなる新たな情報を提供するものであること、そのためアジェンダ決定と異なる会計処理を行っていることが直ちに誤謬とはならないものの、基準書の均一な適用を支援するため、アジェンダ決定の公表により会計方針の変更が必要となる場合には、相応の期間内での対応が望まれると指摘した。本論点については既に実務の多様性が認められており、本決定により会計処理の再検討が必要な会社も少なくない可能性がある。