事実に基づいた真の業務の流れの把握を実現

プロセスマイニング----。聞き慣れない言葉かもしれませんが、最近、業務改革や業務改善まわりのホットワードとして注目されている手法です。
プロセスマイニングとは、ごく簡単に言えば「業務の流れの真の姿を、システムに記録されたデータという事実に基づいて把握できるようにする手法」のこと。従来の可視化手法との最大の違いは、基幹システムや業務システムなどに蓄積されたデータである“事実”から生成した『イベントログ』を元に、業務の流れのすべてをデジタル上に再現することにあります。

これまで業務の流れの把握は、担当者へのヒアリングや立ち会い調査などに頼らざるを得ませんでした。しかし、すべてのケースを調査することはほぼ不可能で、どうしてもサンプリング調査にならざるをえません。対象部署や対象者が多くなれば、なおさらです。また、ヒアリングにはどうしても担当者の主観が入りがちなため、業務の実態をどれだけ正しくつかめるのかという問題もあります。

つまり、従来の業務の流れの可視化は、業務の実態を100%再現するものではなかったのです。したがって、その業務の流れに基づく業務改革のKPIについても、実態を正しく表すものではなく、机上の空論あるいは希望的観測、場合によっては体よく加工されたものになる可能性さえあると言えます。そこで、注目されているのがプロセスマイニングなのです。

プロセスマイニングは、日々入力される業務データを元に作成されるイベントログという事実に基づいて、一連の業務におけるすべての流れを再現します。例えば、ある販売プロセスで「受注登録」に始まり、「請求登録/売上計上」で終わる一連の業務があったとします。「出荷指示」や「出庫」など、途中のプロセスごとに、システム上にはデータが残ります。プロセスマイニングは、そうしたデータ(実際に起きた出来事)から作成したイベントログに基づいて、業務プロセスのモデルをデジタルで再現し、業務の一連の流れを可視化します。

日々蓄積されるデータから『イベントログ』を作成

まず、基幹システムや業務システムを運用しているからと言って、そこに蓄積されているデータを、そのままイベントログとして利用できるわけではありません。ここは重要なポイントです。

では、イベントログとは何でしょうか? それは、次の三つの要素で構成されるデータです。一つ目は、業務を案件(ケース)ごとに特定するための「取引ID」。二つ目は、どの業務プロセス(アクティビティ)なのかを示す「処理ステップ」。そして三つ目が、いつ処理を行ったかを表す「処理順序」、簡単に言えばタイムスタンプです。

この三つの要素は、業務の結果として各種システムに蓄積されるデータの中に含まれています。例えば、基幹業務を総合的に管理するため、ERP(Enterprise Resource Planning)を導入している企業も多いことと思います。そうした基幹システムはもちろん、例えば物流を統合的に管理するSCM(Supply Chain Management)などの業務システムや、果ては電子メールやタイムレコーダまで、業務の真の姿を現すデータは、オフィスのそこかしこに蓄積されています。しかし、それぞれのデータのフォーマットや所在は、システムごとに千差万別です。イベントログを作成するためには、それらのデータから取引ID、処理ステップ、処理順序に関するデータを抽出し、再構成する必要があるのです。

イベントログ

イベントログの作成には、システムからデータを抽出する工程と、そのデータを成形加工する工程の二つがあります。それぞれの作業は、データベース言語であるSQLで自動化できます。しかし、例えば処理順序の元になるタイムスタンプにしても、ミリ秒まで記録するシステムもあれば、日付だけしか記録しないシステムもあります。SQLのプログラムを書くためには、プロセスマイニングシステムに関する知識はもちろんのこと、元になるシステムのデータ構造に精通し、業務要件に基づいて分析できることや、どの箇所をどのように抽出すればいいのかなど、高度なスキルやさまざまなノウハウが不可欠です。かなり“泥臭い”作業にはなりますが、プロセスマイニングを進めていく上でとても重要なポイントとなります。

イベントログ作成の作業工程

ともあれ、イベントログが完成すれば、業務の流れのすべてを可視化できます。可視化ができれば、業務の流れの例外的なパターンを見つけたり(発見)、そのパターンがどの程度起こっているかをチェックし(適合性チェック)、より理想的な業務の流れに変更したり(強化)することが可能になります。本シリーズ第2回では、こうしたプロセスマイニングの活用方法について紹介します。

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