プロセスマイニングとは、業務プロセスの処理パターンをイベントログデータの蓄積により可視化し、改善ポイントを具体的に特定することで業務効率化を支援する手法です。

昨今、業務プロセスの自動化や効率化に取り組む企業が増えてきています。これをより効果的に進めるためのソリューションとして、プロセスマイニングが注目されています。プロセスマイニングでは、蓄積された業務データをもとに業務の可視化を行うため、業務実態の全貌把握や改善ポイントの特定を迅速に行うことが可能となります。

ここでは、プロセスマイニング導入による業務効率の課題解決を紹介します。まずは業務プロセス革新の手段として、プロセスマイニングとは何かを知っておきましょう。

プロセスマイニングとは?

プロセスマイニングは、プロセスマイニングのツールを使うことで、さまざまなシステムやアプリケーションを通じて生成されるイベントログを、時系列でパターン別につなぎ合わせて可視化します。これにより、修正対応の負担が生じる例外処理、不十分な職務分掌やルール逸脱、非効率な業務処理、ボトルネック等の問題とその原因の所在を特定することができるため、業務改善を有効かつスピーディに行うことができます。

プロセスマイニングの基本領域
  1. プロセス可視化
    業務プロセスのありのままの姿を自動的に可視化
  2. プロセス工数算出
    プロセスのパターンやタスク別に時間や件数を量的に把握
  3. 例外プロセス抽出
    原則的な処理方法と異なる例外処理を明確化
  4. ボトルネック抽出
    業務を非効率にしているボトルネックを抽出
プロセスマイニングの基本領域

また、業務プロセスのベストプラクティスをベンチマークとして問題の有無を評価する機能を利用すれば、適切な業務プロセス像の検討も容易になります。さらには、取り込むデータを更新して継続的にモニタリングを行うことで、業務品質のパフォーマンス、変化点や異常点をタイムリーに認識し、改善につなげることも可能です。

プロセスマイニングが注目される背景

では、なぜいまプロセスマイニングが注目されているのでしょうか。

現在、日本の労働人口は減少期に入り、持続的な労働力の確保が社会課題となっています。この課題にテクノロジーやデジタルレイバー(仮想知的労働者)の活用が一手段として注目され、これらの活用が業務を大きく変える時代がすでに始まっています。

その一環として、RPA(Robotic Process Automation)の導入による定型業務の自動化に代表されるように業務プロセス改革が急速に進んでいます。業務プロセス改革の取り組みの中では、従来から改善すべき非効率な業務を識別するために、業務プロセスの可視化や評価が行われてきました。しかし、その手法は業務担当者にヒアリングを行う、正確性や網羅性を欠いた業務マニュアルをひもときその内容を手作業で業務フローに書き起こす、業務に関わる様々な関係者に書き起こした内容を確認し修正を繰り返すなど、多大な時間と労力を要していました。さらに、ヒアリング対象者の業務理解度やリスク感度によっては、頻度の低い例外処理やいわゆるローカルルールなどは見過ごされることもありました。

しかし、革新的とも言えるプロセスマイニングツールの登場により、時間や労力をかけずに、頻度の低い例外取引などを含む網羅的な業務プロセスの可視化が可能になり、最も効率的・効果的なアプローチができるようになりました。このような背景により、プロセスマイニングへの注目度が高まっているのです。

プロセスマイニング導入による業務プロセスの課題解決

では、実際にプロセスマイニングを導入することで、どのような課題が解決されるのでしょうか。一例を見ていきましょう。

1.非効率な業務処理の検出
導入前 人手による正確な業務実態の把握には、ヒアリングや専門的な分析等の調査が必要となり、時間とコストの大きな負担が強いられ、全貌の把握は事実上困難。負担の大きさから継続的な実施も困難。
導入後 実態のデータログからツールを用いて全パターンを可視化するため、時間とコストの負担が容易化。
その経過観察も容易になる。

例:営業部におけるプロセス

例:営業部におけるプロセス
2.ボトルネックの探知
導入前 ボトルネックの探知を人の主観で行うため、それが実態と異なる場合には不適切な対策が選択されたり手戻りが生じる。
導入後 要した時間を含めてプロセスを評価する機能を活用することで、ボトルネックの探知が容易に。

例:営業部におけるプロセス

例:営業部におけるプロセス
3.不十分な職務分掌、ルール逸脱
導入前 不適切な例外処理やローカルルールによるオペレーションの把握は困難。
導入後 システム上の作業であれば、抜けのない抽出が可能。

例:サービス提供業務のプロセス

例:サービス提供業務のプロセス
4.修正対応の負担が生じる例外処理
導入前 リスクが高い例外処理は、改善すべき原因所在の特定が難しく、特に属人化している場合は完全にブラックボックス化し、判明するまで気づかない。
導入後 例外処理の全パターンやバラツキを把握できるため、システム上での作業であれば、抜けなく抽出が可能。

例:サービス提供業務のプロセス

例:サービス提供業務のプロセス
5.ベストプラクティスの探索
導入前 システムとの連携を表計算ソフトで代用しているため、検証できるのはサンプリングした一部だけで、共通オペレーションが見えづらく、横展開に進展しない。
導入後 共通オペレーションを見つけることが容易になり、RPA等のテクノロジーとの連携により、スピーディな対応が可能。

例:営業部におけるプロセス

例:営業部におけるプロセス

プロセスマイニングの導入手段

プロセスマイニングを導入するには、どのような手段があるのでしょうか。導入するうえでは、コンサルティング支援を受けることも必要です。KPMGではこれまでも最新テクノロジーを活用し、BPR(Business Process Re-engineering)やRPA導入、不正・不祥事等の業務リスク対応強化などを多数支援してきました。プロセスマイニングを加えることで、クライアントのビジネストランスフォーメーションとリスク対応力強化の両面を追求した業務改革を、従来よりも力強く支援することが可能になりました。

さらに、KPMGでは、グローバル市場においてすでにプロセスマイニングを活用した支援サービスを開始しており、支援実績が爆発的なスピードで増加しています。その一環として、プロセスマイニングと組み合わせたデータ分析の活用も進んでいます。これらの実績も活かし、日本においても効率的な展開を推進しています。

また、合わせてツール導入をする一例として、Celonis SE(Co-CEO:Bastian Nominacher、Alexander Rinke、以下Celonis社)の活用が挙げられます。Celonis SEは、2011年にドイツ・ミュンヘンに設立された、プロセスマイニング技術を活用したSoftware as a service(SaaS)の提供および不随するサービスを提供するソフトウェアベンダーです。Celonis社のIBC(Intelligent Business Cloud)は、

  • イベントログの収集、既存システム連携
  • 業務プロセス-ディスカバリ
  • 業務プロセス分析
  • 《AIを活用し業務改善を促す》アクションエンジン
  • 《様々な分析ツールや分析テンプレートがリスト化された》アプス・ストア

の5つのコンポーネントで構成されています。IBCは、内部監査、シェアードサービス(BPO)、ビジネスプロセスデューデリジェンス、RPAの推進、ERPシステム移行、オペレーショナルエクセレンスなど、さまざまなビジネスシーンでの活用が可能です。

将来への広がり - Digital Twin of Organization

プロセスマイニングの活用と合わせ、RPA、BPM(Business Process Management)、AIなどのプロセスコントロール系プロダクトとのコラボレーションにより、単体活用以上の効果を発揮し、デジタルトランスフォーメーションが加速していきます。デジタルトランスフォーメーションの推進は、最終形を模索しながら、小さなIA(Intelligent Automation)の成功事例を積み重ねていくことが近道です。プロセスマイニングは、その第一歩目を担う重要なポイントに位置しています。

デジタルトランスフォーメーションを推進し、その先へと強化する概念の1つに、「Digital Twin of Organization(DTO:組織のデジタルツイン)」があります。プロセスマイニングで可視化された組織の姿を、DTOのコンセプトに基づき、仮想モデルで確認することによって、さまざまなシミュレーションが可能になります。DTOは、動的な組織モデルであるため、業務プロセスがリアルタイムで理解、管理しやすくなり、将来的な組織計画の策定も可能になるでしょう。

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