業務改革へのプロセスマイニングの活用~RPAの次にくるトレンド、インテリジェントな業務改革手法

本稿では、世界中で爆発的に普及している業務プロセスのソリューションであるプロセスマイニングの動向、ツールおよび活用法の概要などについて解説します。

本稿では、世界中で爆発的に普及している業務プロセスのソリューションであるプロセスマイニングの動向、ツールおよび活用法の概要などについて解説します。

ハイライト

昨今、急速に関心を高めている「プロセスマイニング」は、既に世界中で爆発的に普及している業務プロセスの革新的なソリューションです。
近年、働き方改革等を契機としたRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入が進められるなど、多くの企業にとって、業務プロセス改革は重要な経営課題の1つであり、その良否は企業の競争力を左右する重要な要素となっています。そして、テクノロジーの進化により、業務プロセスの可視化/分析さらに運用管理は、従来型のヒト依存の手法から、プロセスマイニングツールを活用した業務実態の全貌を迅速に掴むインテリジェントな手法へと進化しています。インテリジェント・オートメーションをはじめとした業務の遂行と管理の自動化は、今後さらに加速することが予想されます。
本稿では、プロセスマイニングの動向、ツールおよび活用法の概要などについて解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

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I.プロセスマイニングとは

プロセスマイニングとは、企業で利用されるさまざまなシステムやアプリケーションを通じて日々生み出される「イベントログ」を時系列でパターン別に繋ぎ合わせ、可視化し、改善ポイントを具体的に特定するソリューションのことです。全貌の可視化により、例外処理やローカルルール、違反処理、ボトルネック等の業務プロセスの摩擦や不適切な問題処理と原因を特定することができ、業務のムダやリスクに繋がる課題の発見に寄与します。
2018年から世界中の企業で爆発的に導入が進み、日本でも2019年になりツールの導入が始まっています。KPMGコンサルティングでは、独Celonis社の「IBC(Intelligent Business Cloud)」などを活用したサービスの提供を2019年4月より開始しています。
本稿では、Celonis社のプロセスマイニングツールを中心にプロセスマイニングの概要やポイント、活用方法等を解説します。

II.企業に対する業務改革へのプレッシャーとその実行の難しさ

1.企業に対する業務プロセス改革のプレッシャー

多くの企業は、業務プロセスの改革プレッシャーを多方面から感じています。具体的には、1.新たなテクノジーやビジネスモデルが次々と生まれるなかで、自社の業務プロセスのスピードや品質の競争優位性を強化しなくてはならない、2.労働人口の減少や働き方改革への対応成否が企業の競争力に直結するようになった、3.企業不祥事に対する社会の責任追及の厳しさは増す一方であり、業務プロセスを適切に構築・監視するガバナンスがより強く問われている、などです。より効率的で高品質でありながら不祥事等のリスクに対応するという、両立が難しい命題に応える業務プロセス改革が求められているのです。

2.業務プロセスの改革は容易ではない

業務プロセスの改革では、まず業務実態を可視化し、その有効性や課題を分析することから始まります。その結果をもって改善すべき所在を特定し、対策を検討・実行するため「可視化」と「分析」の適切さが業務改革の最大の肝であると言えます。しかし、この可視化と分析は容易ではありません。


(1)業務実態は思っているよりも複雑

一般的に、プロジェクト化された業務プロセスの改革は複数の組織を横断し、関係者も多数となります。業務マニュアルがなく、現場固有のルールや原則と異なる例外処理が許容されていることも珍しくありません。
購買プロセスの原則的な流れを例に、プロセスマイニングツールにより業務プロセスのパターンを網羅的に可視化したイメージを見てみます(図表1参照)。

図表1 業務プロセスの原則処理と実施イメージ

図表1 業務プロセスの原則処理と実施イメージ

業務マニュアルに規定された原則的な処理にしたがって、シンプルかつ標準的な業務が行われていると多くの方が思い込んでいたものの、プロセスマイニングツールで実態を可視化してみると、数多くのパターンが存在していることがわかります。これら多くのパターンを潜在的に許容しながらの業務管理には、想定外の負担が生じていると予想できます。

(2)ヒト依存の手法は、不十分な手法と言われる時代へ

従来の業務改革の取組みでは、ヒトがマニュアルの閲覧や関係者へのヒアリングにより業務プロセスを可視化し、改善機会を分析する手法が採用されていました。この手法は、可視化と分析の多くをヒトに依存するため、以下の限界を抱えてきました。

  • そのヒトが持つスキルに成果が左右される
  • 予算等からスコープを絞らざるを得ず、全貌は掴めない
  • 属人的で限定的な可視化分析では、関係者の納得感や協力が得られない、不適切な対策を講じてしまう
  • 取組みの負担が大きく何度も繰り返せない、対策の効果を見届けにくい

これまでは、やむを得ない限界と許容されてきましたが、プロセスマイニングが浸透することで、ヒト依存の従来手法は、時代遅れで不十分な手法と評価されるようになるでしょう。

III.プロセスマイニングの凄さ

1.加速度的に普及していくプロセスマイニング

プロセスマイニングの取組みは、学術研究としては2000年代前半から始まっていました。実務での活用は、2015年前後に欧州の企業で導入されるようになり、少しずつ関心を高めていきました。やがて米国企業にも広がり、2018年から世界中に爆発的に拡大してきました。KPMGでも、本稿の執筆時点において、17ヵ国でサービス展開しており、急速に普及が進んでいます。これらの背景には、1.業務におけるITシステムの利用増加によるさまざまなデータの蓄積、2.テクノロジーの進化による実用性ある処理能力を備えたツールの登場、の2点が挙げられます。この状況は、今後もさらに進むと考えられています。それに伴い、プロセスマイニングも加速度的に普及していくと予想されています。

2.プロセスマイニングの革新性

プロセスマイニングツールによる業務プロセスの可視化/分析は、ヒトによる手法と比較してスピードも情報量も圧倒的に優れています。また、実際のデータに基づき、件数、金額、要した時間、担当組織等の客観的な情報を加えて可視化/分析できるため、問題の種類や所在、必要な変革手法について関係者の納得も得やすくなります。
網羅的な情報に基づく対策は、業務プロセスそのものを直接改善することに繋がりやすく、管理者を教育し指導監視させるといった従来の間接的な対策よりも効果が期待できます。さらに、投入データを更新するだけで何度でも繰り返すことができ、継続的に業務プロセスのパフォーマンスを評価し、問題があれば即時に手を打つことも可能です(図表2参照)。

図表2 プロセスマイニングの革新性

図表2 プロセスマイニングの革新性

3.プロセスマイニングの適用場面

分析対象の業務のデータがツールに投入できさえすれば、調達から製造、品質管理や販売のほか、経理財務や人事など、あらゆる業務に適用することができます。また、工程が長く関係者が多く、さまざまな処理バリエーションが存在する複雑な業務ほど大きな効果が期待できます。
基本的な活用法は、業務プロセスにおける1.効率性を阻害するボトルネックの解消、2.リスク対策の充実の2つです。1.では、負荷が高い工程や手戻りが生じている工程とその原因箇所を特定し、自動化や標準化等の対策を講じることで業務効率を向上させることができます。2.では、リスクの対応状況をあるべき統制との比較で可視化することにより、違反処理の場所と原因を特定し、原因解消を容易にします。
他にも、複数拠点等のパフォーマンスを比較してベストプラクティスを探索する、不正兆候のある業務処理を特定する、業務システム刷新やシェアードサービス化前の現状(AS-IS)分析、買収した子会社の業務プロセスを可視化してグループガバナンスを強化する、継続的モニタリングや内部監査に活用するなど、さまざまな目的で利用することができます。

4.KPMGによる支援事例

KPMGによるプロセスマイニングツールを活用したサービス事例の一部をご紹介します(図表3参照)。

図表3 プロセスマイニングを活用したKPMG支援事例

図表3 プロセスマイニングを活用したKPMG支援事例

5.業務効率の改善とリスク対応力強化の同時追求

これまでの業務プロセス改革のケースでは、業務の効率化を目的とする取組みと、リスク対応や内部統制の強化を目的とする取組みは、別々に行われてきました。これは、前述のとおり、ヒトに依存した手法では業務プロセスの全貌を把握することは難しく、これら2つの目的を同時に検討することが困難だったからです。これにより、業務の効率化の検討では、リスク管理や内部統制活動で設定されている統制には触れず、逆にリスク管理や内部統制の高度化では業務効率に影響しない範囲で検討する、といった限定的な検討にとどまっていました。このような取組みでは、効率が良くリスクにも強い業務プロセスを求める現在の経営層の期待には応えられません。しかし、プロセスマイニングを活用し、業務プロセスの全貌をスピーディに可視化することができるようになれば、2つの目的のプロジェクトを同時に推進することも可能になるでしょう。

IV.可視化を超えた発展的活用

1.複数の業務プロセス改革手法を組み合わせた相乗効果

プロセスマイニングを可視化ツールとして単独で利用するだけでなく、業務プロセス改革の目的の下、最適な手法を選択し組み合わせて活用することで、相乗効果を発揮しさらに大きな効果を得ることができます。

2.RPA化推進との一体的な取組み

働き方改革の一環として、多くの企業でRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入が急速に進んでいます。しかし、例外処理を把握しきれずに、その効果が期待値に達しないケースも多数見られます。Celonis社のツールを活用することで、例外処理を含む業務プロセスの全貌を把握するだけでなく、業務プロセス全体を俯瞰して、各タスクの負荷や自動化率を可視化し、RPA化した場合の投資対効果を試算することができます。このように、プロセスマイニングによる可視化/分析結果を踏まえ、RPA化の対象業務を判断しRPAを導入する組み合わせは有効なアプローチと言えます。

3.AIも活用したリアルタイムでの先進的な利用法

プロセスマイニングは、AI(人工知能)とも親和性があります。Celonis社によるクラウド版のプロセスマイニングツール「IBC(Intelligent Business Cloud)」では、AIが注意すべき兆候を示してくれる機能を有しています。たとえば、取引先Aとの商品aの取引については、毎年7月頃に価格変更の要求を受けその交渉や価格訂正が業務効率を悪くしている、といった業務の特徴をAIが覚え、その兆候が発生した際には、あらかじめ登録した関係者に即時に注意を促すアラートを送ってくれるといったものです。
リアルタイムに業務プロセスの状況を捕捉し管理するレベルまで活用が進むと、さまざまな部門の関係者が、タイムリーに問題の兆候を共有して解決にあたるような機動力も獲得することができるようになります。

4.デジタルツイン バーチャルに改善策を試行する時代へ

業務プロセスの改善策実行を阻害する要因の1つは、改善策には副作用があるのではないか、部分的な改善では効果がないかもしれない、といった不安にあります。その背景には、業務プロセスにかかわる人数が多いほど、現実世界ではトライ&エラーの失敗に対して、さほど寛容ではないことがあると考えられます。
近年では、最先端の戦略的テクノロジーとして「デジタルツイン(Digital Twin)」への関心が高まっています。これは現実世界のデータを基にデジタルな仮想世界のなかでシミュレーション等を行うもので、プロセスマイニングとも親和性があります。プロセスマイニングツールを利用して、改善策と実行した場合の影響をシミュレーションすることで、さまざまな改善策を失敗を恐れずに試行することが可能となります。

V.最後に

プロセスマイニングは、世界中で、そして日本で大きく注目されているソリューションです。これまで述べてきたように、プロセスマイニングは従来手法の限界をテクノロジーで克服し、大きな成果を得ると期待されています。
一方で、より高い効果を得るためには、ツールに投入するデータの品質が求められることから、カスタマイズされた業務システムや、データ分析の視点でのIT環境が構築されていないケースでの導入は難しいかもしれません。しかし、その難易度もプロセスマイニングの普及、発展に伴って低くなっていくでしょう。KPMGでは、企業のデジタルトランスフォーメーションにおけるプロセスマイニングツール活用の研究と実践を続けていきます。

執筆者

KPMGコンサルティング株式会社
リスクコンサルティング
ディレクター 山口 隆二

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