改正の有無も踏まえて整理 役員をめぐる開示事項の留意ポイント
旬刊経理情報(中央経済社発行)2019年3月20日特別特大号の改正事項と実務論点を総点検!3月総特集にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。
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この記事は、「旬刊経理情報2019年3月20日特別特大号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。
本稿では、有価証券報告書において開示対象となる役員報酬の範囲や、関連当事者情報といった留意が必要と考えられる役員関連事項を中心に解説する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。
有価証券報告書における役員報酬の開示
役員報酬については、2019年1月31日に金融庁から公布された「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、「開示府令」という)改正により、2019年3月期から有価証券報告書等における開示が拡充されることとなった。
2018年6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告においてなされた、「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」に向けた適切な制度整備を行うべきとの提言を踏まえ、役員報酬については、有価証券報告書等において、報酬プログラムの説明(業績連動報酬に関する情報や役職ごとの方針等)、プログラムに基づく報酬実績等の記載を求めることとされたものである。
開示対象となる役員報酬
有価証券報告書等において開示が求められる「提出会社の役員の報酬等」について、開示対象となる提出会社の役員の範囲と役員の報酬等の定義(開示府令 第三号様式 記載上の注意(38))は、開示府令改正後も変更はない。
開示対象者 | 提出会社の役員(取締役、監査役及び執行役をいい、当事業年度の末日までに退任した者を含む) |
---|---|
役員の報酬等 | (1)報酬、賞与その他その職務執行の対価としてその会社から受ける財産上の利益であって、(2)当事業年度に係るもの及び当事業年度において受け、又は受ける見込みの額が明らかとなったもの(当事業年度前のいずれかの事業年度に係る有価証券報告書に記載したものを除く) |
(1)職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益
役員がその職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益は、その名称にかかわらず「報酬等」の定義にあてはまり、開示の対象となるとされ(「企業内容等の開示に関する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方(2010年3月31日金融庁公表)(以下、「金融庁の考え方(2010/3/31)」84)、役員がその職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益に該当する場合には、金銭であるか否かやその名称にかかわらず、役員報酬に含まれることとなる点、留意が必要である。
(2)報酬等の額が明らかであるもの
役員が受ける財産上の利益が「報酬等」に該当する場合に、特定の事業年度に係るものとして額を明らかにできないときは、他の特定の事業年度において受け、または受ける見込みの額が明らかになったときに、当該他の特定の事業年度に係る有価証券報告書で開示することになると考えられるとされていた(金融庁の考え方(2010/3/31)93)。
この点、金額が確定していない役員の報酬等については、報酬プログラムの開示において記載することが求められているとされる(「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方(2019年1月31日金融庁公表)(以下「金融庁の考え方(2019/1/31)」56)。詳細については、後記「役員の報酬等について記載が求められる事項」(1)(2)を参照。
役員の報酬等について記載が求められる事項
本改正に基づき、役員の報酬等について有価証券報告書等に記載が求められる事項の概要は図表のとおりである。
改正後の開示府令は、役員報酬等の開示については、2019年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用される。
(図表)役員の報酬等について有価証券報告書等に記載が求められる事項の概要
(1)役員報酬の決定方針
項目 | 記載が求められる内容 | 開示府令第三号様式 記載上の注意(38) | 開示府令改正による追加 |
---|---|---|---|
額・算定方法の決定に関する方針等 | 報告書提出日現在における、提出会社の役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針の内容及び決定方法 (当該方針を定めていない場合、その旨) |
a | - |
役職ごとの方針 |
|
a | 〇 |
方針の決定権限者、委員会等 |
|
c | 〇 |
本改正前から開示が義務付けられていた、提出会社の役員報酬の額またはその算定方法の決定に関する方針の内容・決定方法に加え、本改正により、報酬額・算定方法の決定に関する役職ごとの方針(定めている場合)、報酬額・算定方法の決定に関する方針の決定権限者、その権限の内容および裁量の範囲や、決定に関与する委員会等に関する情報についても記載が求められることとなり、報酬決定プロセスの客観性・透明性の向上が図られている。
(2)業績連動報酬
項目 | 記載が求められる内容 | 開示府令第三号様式 記載上の注意(38) | 開示府令改正による追加 |
---|---|---|---|
支給割合の決定方針、指標等 | 提出会社の役員の報酬等に業績連動報酬が含まれる場合において、
|
a | 〇 |
指標の目標・実績 |
|
b | 〇 |
本改正により新たに記載が求められることとなった項目であり、実際の報酬が報酬プログラムに沿ったものになっているかや、経営陣のインセンティブとして実際に機能しているかどうかを確認できるよう、役員の報酬等に業績連動報酬(利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の提出会社またはその関連会社の業績を示す指標を基礎として算定される報酬等)が含まれる場合、支給割合の決定に関する方針の内容(定めている場合)、業績連動報酬に係る指標とその選択理由、業績連動報酬額の決定方法や、指標の目標・実績について開示することとされている。
(3)役員報酬に関する株主総会の決議
記載が求められる内容 | 開示府令第三号様式 記載上の注意(38) | 開示府令改正による追加 |
---|---|---|
|
a | 〇 |
本改正により、提出会社が指名委員会等設置会社以外の会社である場合、役員の報酬総額等を決議した株主総会の決議年月日や決議内容等についても記載することとされている。
(4)役員区分ごとの報酬等
記載が求められる内容 |
開示府令第三号様式 記載上の注意(38) | 開示府令改正による追加 |
---|---|---|
|
b | 〇(一部) |
役員区分は取締役(監査等委員及び社外取締役を除く)、監査等委員(社外取締役を除く)、監査役(社外監査役を除く)、執行役および社外役員の区分であり、本改正前から変更はない。
なお、本改正により報酬等の種類別の例示が変更され、固定報酬、業績連動報酬および退職慰労金等の区分とされている。
(5)役員ごとの報酬等
記載が求められる内容 | 開示府令第三号様式 記載上の注意(38) | 開示府令改正による追加 |
---|---|---|
|
b | - |
本改正前から記載が求められていた項目であり、提出会社の役員としての報酬等(主要な連結子会社の役員としての報酬等がある場合には、当該報酬等を含む(以下、「連結報酬等」という))の総額等を記載することが求められる。ただし、当該個別開示は連結報酬等の総額が1億円以上である者に限ることができる。
連結子会社ではない非連結子会社からの報酬等は、「主要な連結子会社の役員としての報酬等」に該当しないため、連結報酬等には含まれないと考えられる。
(6)使用人兼務役員の使用人給与
記載が求められる内容 | 開示府令第三号様式 記載上の注意(38) | 開示府令改正による追加 |
---|---|---|
|
b | - |
本改正による変更はない。役員の報酬等として開示された内容だけでは会社の取締役に対する職務執行の対価として交付されている財産上の利益の額が適切に判断できないような場合であれば、使用人給与分に重要性があると考えられるとされている(金融庁の考え方(2010/3/31)97)。
有価証券報告書と事業報告における一体的開示
有価証券報告書における「役員の報酬等」と、事業報告における「会社役員の報酬等」の記載に関しては、取締役および監査役の報酬総額について、有価証券報告書の記載を基礎として、社外役員の報酬総額を社外取締役の報酬総額と社外監査役の報酬総額に区分して記載することにより、記載を共通化することができると考えられるとされる(財務会計基準機構「有価証券報告書の開示に関する事項)。また、経済産業省等から公表された「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組の支援について」においても、記載を共通化する場合の開示例が示されている。
なお、公開会社における事業報告における役員報酬に関する情報開示についても、「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱」により、今後の拡充が予定されている。
役員等に係る関連当事者との取引
「関連当事者との取引」とは、会社と関連当事者との取引をいい、対価の有無にかかわらず、資源もしくは債務の移転、または役務の提供をいう。また、関連当事者が第三者のために会社との間で行う取引や、会社と第三者との間の取引で関連当事者が当該取引に関して会社に重要な影響を及ぼしているものを含む(関連当事者の開示に関する会計基準(以下、「会計基準」という)5項(1))。役員等に係る関連当事者取引については以下に留意する必要がある。
関連当事者の範囲に含まれる役員等
「関連当事者」とは、ある当事者が他の当事者を支配しているか、または、他の当事者の財務上及び業務上の意思決定に対して重要な影響力を有している場合の当事者等をいい、役員関連では次に掲げる者が含まれる(会計基準5項(3))。
- 財務諸表作成会社の役員及びその近親者
- 親会社の役員及びその近親者
- 重要な子会社の役員及びその近親者
- 上記に掲げる者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社及びその子会社
また、「役員」とは、取締役、会計参与、監査役、執行役またはこれらに準ずる者をいい(会計基準5項(7))、「これらに準ずる者」は、例えば、相談役、顧問、執行役員その他これらに類する者であって、その会社内における地位や職務等からみて実質的に会社の経営に強い影響を及ぼしていると認められる者をいい、創業者等で役員を退任した者についても、役員の定義に該当するかどうかを実質的に判定する(企業会計基準適用指針13号「関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針(以下、「適用指針」という)4項)こととされている。
開示対象となる取引
前記「関連当事者の範囲に含まれる役員等」で挙げた関連当事者は個人グループに区分され(適用指針14項)、その場合、関連当事者との取引が、連結損益計算書項目および連結貸借対照表項目等のいずれに係る取引についても、1,000万円を超える取引についてはすべて開示対象となる(適用指針16項)。ただし、他の法人の代表者との兼務者が、その法人の代表者として会社と取引を行うような場合は、法人間における商取引に該当すると考えられるため、法人グループの場合の取引に属するものとしての開示が必要となり(適用指針16項)、重要性の判断基準も異なる。
なお、取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引や、役員に対する報酬、賞与および退職慰労金の支払いは開示対象外となる(会計基準9項)。
開示対象となる関連当事者取引がある場合、原則として個々の関連当事者ごとに、関連当事者の概要や、会社と関連当事者との関係、取引の内容、取引の種類ごとの取引金額、取引条件および取引条件の決定方針、取引により発生した債権債務に係る主な科目別の期末残高等の事項を開示する(会計基準10項)。
取締役会における手続及び監視
関連当事者取引が、取締役が自己または第三者のために会社と行う、または会社と取締役との利益が相反する利益相反取引(会社法356(1)二・三)に該当する場合には、株主総会または取締役会の承認(会社法356(1)、365(1))を要し、取締役会設置会社においては取引を行った取締役の報告義務の定めがある(会社法365(2))。
しかし、会社に不利益が生じず利益相反取引に該当しない場合であっても、関連当事者取引を適切に監視するしくみの整備が望ましい。コーポレートガバナンス・コード(以下、「CGコード」という)においても、上場会社が関連当事者取引を行う場合、取締役会は、あらかじめ、取引の重要性やその性質に応じた適切な手続を定めてその枠組みを開示するとともに、その手続を踏まえた監視を行うべきとされており(CGコード原則1-7.)、取引開始前に関連当事者との取引を網羅的に把握し、取引に際して取引の合理性や取引条件の妥当性について取締役会による確認を行う等の体制を整備し、実効的な監視を行うことが望ましいと考えられる。
執筆者
有限責任 あずさ監査法人
マネジャー 公認会計士
飯嶋 めぐみ(いいじま めぐみ)