退職給付会計基準と年金財政基準の違い
年金財政運営基準と退職給付会計基準の相違点をまとめ、解説します。
年金財政運営基準と退職給付会計基準の相違点をまとめ、解説します。
Question
企業年金には「財政運営基準」があるが、これと退職給付会計とはどう異なるのか?
Answer
「財政運営基準」は、企業年金法令で定められた、年金の掛金積立のための基準であり、退職給付会計基準と似た点もあるが、相違する点も多い。
解説
1.財政運営基準とは
確定給付企業年金では、将来の給付が確実に行われるように、財政計画を立案し、実行していくことが求められている。具体的には、適正な年金数理に基づいて、掛金を計算し、一定期間ごとに積立状況を検証し、必要額に不足を生じている場合は掛金の見直しをすることが求められる。
こうした財政計画の立案・実施・検証等に関するルールのことを「財政運営基準」といい、わが国では、年金法令等に一定のルールが定められている。
例えば、積立水準の検証に関しては、年1回実施することと、「継続基準」と「非継続基準」の2つの視点から検証を行うこと等が定められている。「継続基準の財政検証」では、「責任準備金」が、「非継続基準の財政検証」では「最低積立基準額」が、検証の際の基準額とされている。毎年の積立水準の検証では、それぞれを実際の積立金と比較して、一定以上の不足があれば、掛金の引き上げ等を検討しなければならない。
なお、責任準備金とは、「現在の掛金水準を変えずに制度を継続する前提で考えたときに現時点で用意しておくべき金額」であり、将来の給付見込額の現在価値(給付現価)から将来の掛金収入見込額の現在価値(掛金収入現価)を控除して計算される。これに対し、最低積立基準額とは、「現時点で制度を廃止したと仮定した場合に、廃止時点の加入期間に応じた給付を加入者や受給者に支払うための必要額」であり、両者は相違する。
2.財政運営基準と退職給付会計基準の相違
いずれも、年金数理計算によって債務を計算し、これを年金資産と対比すること等から、似ている面も多いが、実際には、両者の目的は以下の通り相違しているため、債務の計算方法や積立不足の処理方法も相違する。
年金財政上の債務 | 退職給付債務 | |
---|---|---|
目的 | 企業年金制度において、将来の給付支払い原資を平準的に事前積立する(継続基準)ことに加え、仮に制度を終了した時の必要額が確保されているかを確認する(非継続基準)。 | 企業が負っている退職給付の支給義務(未払額)を企業の負債に計上する。 |
債務額 | 責任準備金、および最低積立基準額 | 退職給付債務 |
債務の評価基準 | (1)責任準備金 (2)最低積立基準額 |
将来の総給付予測額のうち、現時点までに発生しているとみなされる額を求め、この額を割引計算した現在価値を債務とする。 |
費用の認識 | 退職までの期間で平準的に掛金を徴収する。 | 当期に発生していると認められる額を認識(必ずしも平準的でない) なお、費用配分方法として、期間定額基準、給付算定式基準がある。 |
計算基礎率の設定 | 最善の見積もりを基礎としつつ、年金財政の安定性に配慮して保守的に設定されることもある。 | 期間損益を適切に測定する最善の見積もりを行なうことを前提として設定する。 |
サイクル | 年1回、財政検証を実施し、健全性を把握する。また、少なくとも5年ごとに財政再計算を行い、計画の見直しを行う。 | 年1回、資産負債を評価し、退職給付引当金を計上する。 |
執筆者
有限責任 あずさ監査法人
金融アドバイザリー部
パートナー 枇杷 高志
※本ページは、書籍『Q&A 退職給付会計の実務ガイド(第2版)』(2013年12月発行)から一部の内容を取り上げてウェブ版としてアップデートしたもので、記載内容はページ公開(2019年4月)時点の情報です。