年金資産の返還

退職給付信託の返還要件や、返還に際しての留意点を解説します。

退職給付信託の返還要件や、返還に際しての留意点を解説します。

Question

年金資産を事業主へ返還するケースはどのような場合に可能とされているか? また、返還に際して何か制約があるか?

Answer

1.退職給付信託の事業主返還は、実務上、年金資産が退職給付債務を超過し、かつ一定の要件を満たした場合に限定される。

2.確定給付企業年金制度の年金資産については、原則として年金資産を事業主に返還することが認められていない。

解説

1.退職給付信託の返還

退職給付信託は、一定の要件を満たすことを条件に退職給付会計上の年金資産として取り扱うことが認められているが、退職給付の支払いまたは他の年金制度への拠出を行うことを目的として設定される他益信託であり、企業年金制度にもとづく年金資産のように年金関係法令にもとづくものではない。このため、退職給付信託の返還等は、退職給付信託の契約の定めに従って行われることになると考えられる。

一方、適用指針106項においては、年金資産の一部返還について、次のような規定がされているため、当該事項に留意する必要がある。

(1)退職給付に使用される見込みがないこと
将来の予測できる一定期間においても積立超過(退職給付債務<年金資産)の状態が継続し、当該積立超過分について退職給付に使用される見込みのないことを合理的に予測できることが必要とされている。

(2)返還の要件
適用指針18項では、退職給付信託の要件として、「事業主への返還、事業主からの解約・目的外の払出し等の禁止」、あるいは「信託財産の事業主への返還等、事業主の受益者に対する詐害的な行為の禁止」が挙げられている。そのため、返還にあたってはこれらに反しないことが必要である。
なお、適用指針106項によれば、事業主の意思等により積立超過額の返還が行われた場合には、返還されなかった信託財産は、退職給付会計上の年金資産の要件を満たさないことになるため、返還後は、返還されなかった信託財産も事業主の資産として会計処理することになるとされているので、注意が必要である。

2.確定給付企業年金制度の年金資産の取扱い

適用指針44項においては、「年金資産が退職給付債務を超過した場合、その制度上、年金財政計算による年金掛金の減少又は剰余金として企業に返還される場合がある」とされているが、確定給付企業年金制度において、原則として剰余金の企業への返還は認められていない。

確定給付企業年金は厚生労働省が所管する制度であり、確定給付企業年金法にもとづいて運営されているが、これらの法律には年金資産を事業主に返還する規定は、特殊なケースを除いて設けられていない。

確定給付企業年金制度は高齢期の国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することが目的とされており、いったん年金制度に拠出した掛金は加入員に帰属されるべきものであること、また、超長期にわたって運営される年金制度において短期的な経済変動に備えるためのバッファが必要と考えられることなどから、年金資産の事業主への返還を認めていないものと考えられる。なお、大幅な積立超過が生じた場合については、掛金額の引下げや停止をするルールが設けられている。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
金融アドバイザリー部
マネージャー 渡部 直樹

※本ページは、書籍『Q&A 退職給付会計の実務ガイド(第2版)』(2013年12月発行)から一部の内容を取り上げてウェブ版としてアップデートしたもので、記載内容はページ公開(2019年4月)時点の情報です。

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