ブロックチェーンの信用創生とコンプライアンスの自動化
ブロックチェーンの信用創生とコンプライアンスの自動化
昨今、食品安全や環境保全などへ関心が高まっている中、実際には生産者が規定に沿った業務管理をしているかを常に把握するようなコンプライアンスは管理対象が広大なため実現の難しい課題となっています。そこで今回は、サプライチェーンを例に、改ざん防止に効果の高いブロックチェーンを利用してコンプライアンス対応の自動化が期待できる仕組みとメリットを紹介します。
履歴追跡性
ブロックチェーンは今や仮想通貨の領域をはるかに超え、AIと共に次世代を代表する技術として様々な分野で研究開発が行われています。
その中で特に注目されている事例の一つがブロックチェーンの生産履歴追跡技術であることは、過去の連載記事(農業分野におけるブロックチェーンの活用事例)で伝えた通りです。
履歴追跡はサプライチェーンに携わるあらゆる業者を横断的に移動する生産物の履歴を正確に記録することが可能になる技術です。この技術で個別アイテムの履歴追跡が可能になり生産地、生産者、加工プロセス等の信憑性が確認できるようになります。
今回はこの技術を応用してコンプライアンスの自動化が期待されている事例を紹介します。
コンプライアンスは日本語で言うと会社や企業が法令や業界の規定を遵守することはもちろんですが、消費者や社会からの信頼に応えて誠実に業務を行うことです。その中で企業倫理等、主に企業内部を対象にしたコンプライアンスがある一方、サプライチェーンのように多数の直接管理下にない生産者を対象にしたコンプライアンスがあります。しかしながら各生産者が規定に沿った業務管理をしているかどうかを随時把握するのは望ましいのですが、それを実現するにはコストが高すぎたり技術的な問題があったりと容易ではありません。
しかし、消費者は食品安全や環境保全に関する情報を重視する傾向にあり、生産者、特に有名ブランドを持つOEMとしてのコンプライアンス確認は全行程に携わる様々なサプライヤーを対象に随時把握する必要性が増していると思います。
ブロックチェーンの信用創生を使って自動化につなげる
サプライチェーンのように多数の生産者を対象にしたコンプライアンスを実現するためには、モニタリングの自動化が必要になると思いますが、その自動化で重要になるのはデータの仲介をする者のバイアス(偏り)を取り除くことです。
例えば下請けサプライヤーにコンプライアンスの調査を依頼したとします。その報告書はサプライヤー自身がデータの仲介者であるためそのバイアスがあることを考慮しなければなりません。また自身が調査した場合にも自身の仲介バイアスがあることを考慮すべきです。
コンプライアンスの自動化をするには単なる能率向上の自動化よりも、信用創生の自動化、そして今までにない信用創生のコストパフォーマンスを確立しなければなりません。ここでブロックチェーン技術の特徴の一つである仲介者を省く機能が役立ちます。仲介者を省けばコンプライアンスの規定と個々の生産物だけを比較してバイアスのないモニタリングが行えます。また仲介者へのクレームや紛争に費やす時間とコストも省けます。しかし既存のITシステムは中央主権型です。自動化を中央集権型でするとどうしてもサプライヤーのITシステム(現場データ管理者)を仲介してモニタリングをするので当然バイアスがあります。
データ仲介のバイアスが報告書に与える影響
一方、ブロックチェーン技術は分散型です。分散型は中央集権と異なりデータ管理者のバイアスを省いて、P2P、いわゆる当事者同士のみでモニタリング調査を完結することができる長所があります。このケースで言うと規定ルールと生産物だけで調査結果をだすことができることになります。更に調査結果はどのような第三者を介すことなくレギュレーターや消費者にダイレクトに共有することもできます。
では具体的にブロックチェーンを使ってどのように自動化が可能になるのか、その仕組みを解説します。
サプライチェーンのコンプライアンスを横断的にモニタリング
例えとして、「生産者が原材料を納品、下請けが製造プロセス・梱包し、運送業者が小売店に届る」というケースと仮定します。
サプライチェーンのコンプライアンス
先ずは原材料が下請けに納入される時、下請けのデータベースに記録する前に原材料が規定に準じるかどうかを自動で調べ確認し、ブロックチェーンに記録します。そして下請けが原材料を加工し梱包した生産物一つ一つがセンサーを介して規定と比較され規定に準ずることが確認された結果をブロックチェーンに記録します。最後に運送業者が電気トラックで小売店に配達し、環境保全の規定を満たす証明をブロックチェーンに記録します。
改ざんが不可能でバイアスの無いブロックチェーンに記録されたコンプライアンスデータは、履歴追跡データと共に、信頼できるデータとしてレギュレーターや消費者に随時共有することが可能になります。つまり実際に含まれている原材料はどこからきているのか、一定の品質基準を満たしているのか、表記されている原材料と実際の原材料は一致しているのか、又は生産工程は環境保全の基準を満たしているのか等、このような消費者の生産情報への期待をかなえるシステムを構築できます。これからは様々な食品や、医薬品または電気製品のコンプライアンスを消費者にリアルタイムで解りやすく開示できるシステムが差別化につながるのではないかと思います。
また規制や規制ルールは更新されることが度々あります。そのたびに新しいプロセスを導入したり、従業員のトレーニングを行わなければならなかったり、当該者には相当な負担がかかってしまいます。ブロックチェーンによって信憑性の高い横断的なモニタリングとRegTechのようなコンプライアンスの自動化技術と組み合わせることで、規制ルール更新によるコストの軽減も期待できます。
執筆者
KPMG Ignition Tokyo
ディレクター 豊田 雅丈
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