米国新リース会計基準の日本企業への影響

本稿では、米国新リース会計基準の概要や導入に向けた課題についてIFRSと比較しながら解説します。(※)

本稿では、米国新リース会計基準の概要や導入に向けた課題についてIFRSと比較しながら解説します。(※)

当記事の執筆時点は2018年10月です。2020年3月現在、米国の非上場企業等における適用開始年度が1年間延期されることが決定しています。
更新内容は、KPMG Insight2020年3月号「米国新リース会計基準:組込リースの網羅性」をご参照ください。
このほか新型コロナウイルス(COVID 19)に関連する考慮事項など、本基準に関する最新の情報についてはLeases: Hot Topics(英文)をご参照ください。(2020年3月23日更新)

米国における上場企業は2018年12月15日より後に開始する事業年度の四半期決算より、また非上場企業は2019年12月15日より後に開始する事業年度の年度末より、それぞれ新たなリース会計基準を適用する必要があります。新基準は米国に子会社等を有する多くの日本企業に影響を与える可能性があり、また米国企業の先行事例から適用上の課題も見え始めていますので、今後検討に着手すると思われる多くの日本企業にとっては留意が必要です。
本稿では、米国新リース会計基準の概要や導入に向けた課題について解説します。なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 借手企業の会計処理を中心に、リース取引に係る現行の会計処理が様々な点で変更となる。
  • 米国会計基準の適用企業のみならず、米国会計基準に準拠した在外子会社等の財務情報を利用して日本基準の連結決算を行っている企業の連結財務諸表にも影響を与える可能性がある。
  • IFRS第16号「リース」との完全なコンバージェンスが達成されていないことから、IFRS適用企業であっても在外子会社等が米国会計基準により個別決算を行っている場合、連結決算にあたり会計基準間の調整が必要になる場合がある。
  • 適用にあたり、いわゆる組込リースを含むリース取引の全体を網羅的に把握するための検討作業に手間を要するケースが多いと考えられる。

I.影響は米国基準の採用企業にとどまらない

米国における新リース会計基準(FASB ASC Topic 842。以下、「新リース会計基準」又は「Topic 842」という)により、現行のリース会計基準(FASB ASC Topic 840。以下、「現行リース会計基準」という)に基づく会計上の取扱いが大きく変更されます。
例えば以下のような日本企業の連結財務諸表には、当該会計基準の変更による影響が生じる可能性があります(図表1参照)。

図表1 財務指標に与える一般的影響(IFRSは参考)

図表1 財務指標に与える一般的影響(IFRSは参考)
  • 連結財務諸表を米国会計基準により作成している会社。
  • 連結財務諸表を日本基準により作成しており、「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告18号)により、米国会計基準に準拠した在外子会社の財務諸表を連結決算手続上利用している会社。

また、新リース会計基準とIFRS第16号「リース」との間では完全なコンバージェンスは達成されておらず、後述のとおり両基準には差異が存在します。したがって、連結財務諸表をIFRSにより作成している日本企業であって在外子会社等が米国会計基準により個別決算を行っている場合には、連結決算手続にあたりリース取引に係る会計基準の差の調整が必要となる可能性もあります。このような日本企業にとっても、新リース会計基準について留意が必要となります。

II.米国新リース会計基準の概要

1.リース要素と非リース要素への対価の配分

新リース会計基準は、リース取引に係る会計処理のみを取り扱った基準です。したがって、ある契約がリース要素と非リース要素(その他の役務提供など)の両方を含む場合、企業はリース要素についてのみ当該会計基準を適用し、非リース要素については関連する他の米国会計基準により会計処理することが必要となります。
こうした複合的な契約における対価について、企業は観察可能な情報を最大限利用して、リース要素と非リース要素とに配分します。具体的には、借手企業はそれぞれの要素の独立価格に基づき対価を配分し、貸手企業は「顧客との契約から生じる収益」(FASB ASC Topic 606。以下、「新収益認識基準」という)の取引価格の配分に関するガイダンスに従って配分を行います。
なお、借手企業は実務上の便法として、非リース要素について契約から区分せず、関連するリース要素の一部として会計処理することもできます。当該実務上の便法は、原資産の種類(例えば事務用設備、車輛、オフィス・スペース等)ごとに適用する必要があります。
また貸手企業は一定の要件を満たす場合に限り、リース要素と非リース要素とを区分せずに単一のリース取引として処理する(ただし非リース要素が契約の支配的な要素である場合には、新収益認識基準に準拠すべき収益として処理する)という会計方針を選択することが可能です。

2.借手企業の会計処理

新リース会計基準の下で、借手企業はリース期間が12ヵ月以内であるものを除き、オペレーティング・リースを含む全てのリース取引についてリース負債と使用権資産を認識します。その結果、借手企業の(連結)貸借対照表上、資産・負債の計上額が大きく増加する場合もあると考えられます。
具体的にはまず、リース取引をオペレーティング・リースとファイナンス・リースのいずれかに分類します。分類方法自体は現行リース会計基準と大枠で共通していますが、これまではこの分類がリース取引をオンバランスするか否かを右するものであったのに対し、新リース会計基準の下では前述のとおり分類を問わず原則としてオンバランス処理が必要です。新基準下での分類が影響するのは、主にリースに係る費用の測定と表示の方法ということになります。
また借手企業はリース負債について、まだ支払っていないリース料の現在価値により測定し、その後関連する利息費用の計上を行います。割引率には、借手企業にとっての計算利子率が容易に算定できる場合には当該計算利子率を用います。もし計算利子率を容易に算定できない場合には、借手企業の追加借入利子率を用います。
さらに、借手企業はすべてのリース取引について、リース負債の当初測定額に当初直接コストと開始日以前に支払ったリース料を加えたものからリース・インセンティブを控除した額により、使用権資産を当初測定します。原状回復コストについてはFASB ASC Subtopic 410-20に基づき資産除去債務として会計処理します。
使用権資産はその後、以下のように償却するとともに、FASB ASC Topic 360に基づき減損テストの対象とします。
 

  • ファイナンス・リースの使用権資産については、リース期間にわたり一般的に定額法により償却する。
  • 過去に減損損失を認識していないオペレーティング・リースの使用権資産については、各会計期間に定額的に配分された「単一のリース費用※1」(当初直接コストの償却額を含む)とリース負債につき発生する利息費用の差額を償却費とする※2
  • 過去に減損済みのオペレーティング・リースの使用権資産については、ファイナンス・リースの使用権資産と同様の方法(一般的には定額法)により償却する。


また新リース会計基準は、オーダーメイド建築と呼称されることもあるBuild-to-suit取引について、現行のガイダンスを廃止し、代わって借手企業がリース開始日以前に当該資産を支配しているか否かにより借手企業が会計上の所有者に該当するか(したがってリース開始後にセール・アンド・リースバック取引として取り扱うべきか)判定することを求めています。
この判定基準の変更により、建設期間中に借手企業が原資産の会計上の所有者とされるようなケース、すなわちセール・アンド・リースバックの取扱いが適用されるようなBuild-to-suit取引は、一般的に現行制度下と比較して減少するものと思われます。さらに、借手企業が現行基準に基づき計上していたBuild-to-suit取引に関する資産及び負債の多くは、新リース会計基準が定める移行措置により、移行時にオフバランス処理することになるものと考えられ
ます。


※1
減損未実施のオペレーティング・リースについては、リース料総額と当初直接コストの合計から既計上の費用を控除した額を残存リース期間にわたり配分した額(通常は定額配分)を「単一のリース費用」として期間費用とします(毎期定額の期間費用が発生するような仕組み)。

※2 Topic 842は使用権資産の事後測定の方法として異なる方法を記述しています。得られる計算結果は上記と同一であり、各企業はいずれの計算方法を採用することも可能です。

3.貸手企業の会計処理

新リース会計基準において貸手企業に適用される会計処理のモデルは、現行リース会計基準を大枠で踏襲したものとなります。したがって貸手企業はリースを販売型リース、直接金融リース又はオペレーティング・リースに分類し、前二者に該当する場合には原資産の認識を中止し、その際に売却損益を認識します(直接金融リースの場合には売却益はリース期間にわたり認識する)。一方、オペレーティング・リースの場合には原資産を引き続き認識し、リースに係る収益を通常は定額的に計上します。
なお、リース料総額について回収可能性が高いとは言えないリース取引の取扱いに変更が加えられています。たとえば、こうしたリースであっても現行リース会計基準と異なり販売型リースに該当する場合がありますが、通常は回収可能性が高まるまで原資産の認識は中止できず、受領したリース料も収益ではなく負債として認識することが必要です。また通常は直接金融リースに該当するようなリースについても、回収可能性が高いと言えなければオペレーティング・リースに分類され、さらにオペレーティング・リースに係るリース料収入は回収可能性が高まるまで現金受領額までしか収益計上できません。
このほか、リース料の大部分が変動リース料に該当するようなリース取引についての分類に変更が加えられるなど、貸手企業の会計処理についても細かな点で取扱いが変更されていますので、留意が必要です。

4.セール・アンド・リースバック

新リース会計基準下では、セール・アンド・リースバック取引によって資産を完全にオフバランス化するという会計的効果を得ることは原則としてできません。なぜなら、売手である借手企業は、短期リースに該当する場合を除き、原資産を使用権資産に置き換えて資産として認識しつづけることになるからです。
売手である借手企業と買い手である貸手企業はともに新収益認識基準に従い資産の譲渡が売却に該当するか否かを判断します。基本的に、買戻オプションが存在する場合には売却に該当しませんが、(1)買戻価格がその実行日の公正価値であって、かつ(2) 原資産と実質上同一である資産が市場で容易に手に入る場合は、その限りではありません。
現行リース会計基準と異なり、不動産のセール・アンド・リースバックにおける売却の判定は設備等の他の資産と同基準で行われますが、買戻オプション付きの不動産のセール・アンド・リースバック取引については特に(2)の要件を満たすことができないため、売却として取り扱われないものと考えられます。
セール・アンド・リースバック取引における資産の譲渡が売却として認められない場合には、売手である借手企業と買手である貸手企業はともに当該取引を金融取引として会計処理する必要があります。すなわち、売手である借手企業は金融負債を認識するとともに対象資産を認識し続けることとなります。一方買手である貸手企業は、金融資産(債権)を認識します。
これに対して、セール・アンド・リースバック取引における原資産の譲渡が売却に該当する場合、売手である借手企業は売却時に(売却価額やリースバック賃料が市場における相場と異なる場合には、その差分を前払リース料又は追加融資として調整した後)売却益の全額を認識します。これは、実務上売却による利得をリースバック期間にわたり徐々に認識していくケースが多い現行リース会計基準の取扱いと対照的です。また買手である貸手企業は、他の通常の非金融資産を購入した場合と同様に、原資産の購入取引の会計処理を行います(ただし借手企業の場合と同様、市場と異なる条件について購入価額を調整することが必要です)。

5.発効日

米国の非上場企業は2019年12月15日より後に開始する事業年度の年度末から新リース会計基準を適用し、四半期決算にはその翌年度(2020年12月15日より後に開始する事業年度の四半期決算)から本基準を適用します。
なお、米国の上場企業の適用年度はそれより早く、2018年12月15日より後に開始する事業年度及びその四半期決算より新リース会計基準を適用します。
いずれの企業であっても、本基準を早期適用することが可能です。

6.移行措置

原則として修正遡及適用アプローチと呼ばれる方法により、適用初年度の比較年度として表示されるすべての会計期間に遡って適用することが求められますが、本基準の発行日を適用開始日とする緩和措置を選択適用することも可能です。当該緩和措置を利用する場合の具体的な対応は以下のとおりです。

  • 適用初年度の比較情報について修正再表示を行わない。
  • 適用初年度の比較情報について新リース会計基準が求める開示を行わない。
  • 移行にともなう累積的影響を適用開始日(3月決算の米国非上場会社であれば2020年4月1日)に認識する

また、新リース会計基準は図表2のような実務上の便法の採用を認めています。

図表2 実務上の便法

一括適用の実務上の便法
(適用する場合は全てを一括して適用)
事後判明事実の利用
(左記の便法とともに適用するか否かは企業が選択可能)
  • 既存契約又は終了している契約について、リースが含まれているか否か判断し直さない。
  • 既存契約又は終了している契約について、リースの分類を判断し直さない。
  • 既存契約について、当初直接コストの判定をし直さない。
  • リース期間や購入オプションの行使可能性の判断にあたり、契約締結後に判明した事実を利用することができる。
  • (借手企業のみ)使用権資産の減損テストにあたり、契約締結後に判明した事実を利用することができる。

※上記のほか、地役権についても実務上の便法が設けられている。

7.IFRS第16号「リース」との主な差異(借手企業)

新リース会計基準(Topic 842)と異なり、IFRS第16号「リース」はIFRSの現行基準(IAS第17号「リース」)におけるファイナンス・リースや米国の現行リース会計基準におけるキャピタル・リースに類似した単一のモデルを借手企業の会計処理として導入しています。
図表3はTopic 842とIFRS第16号との借手企業の会計処理(表示や開示を除く)の差異の一例を示しています。

図表3 借手企業の会計処理に関する米国会計基準とIFRSとの差異例

  米国会計基準 Topic842
「リース」
IFRS第16号
「リース」
実務上の
便法及び
簡素化を
意図した
措置
  • 短期リースについては、使用権資産・リース負債を計上しないことができる。ただし、借手企業が行使することが合理的に確実な購入オプションを含んだリースは、短期リースの対象とならない。
  • 原資産が少額であるリースについての免除規定はなく、一般的な重要性基準が適用される。
  • 短期リースについては、使用権資産・リース負債を計上しないことができる。ただし、購入オプションを含んだリースは、短期リースの対象とならない。
  • 原資産が少額であるリース(例えば新品価値がUSD 5,000以下程度)については、仮にそれらを合計した場合に重要性があったとしても、使用権資産・リース負債を計上しないことができる。
借手企業の
原則的な
会計処理
モデル
  • デュアルモデルを採用する。すなわち、リースをファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類する。
  • 現行リース会計基準の判断基準を大枠で踏襲する。
  • 全てのリースをオンバランス処理(使用権資産とリース負債を認識)する。
  • シングルモデルを採用する。すなわち、リースの分類は行わなず、単一の会計処理モデルにより会計処理を行う。
  • 全てのリースをオンバランス処理(使用権資産とリース負債を認識)する。
オペレー
ティング・
リースの
期間費用
  • リース料総額と当初直接コストの合計から既計上の費用を控除した額を、残存リース期間にわたり(通常は定額的に)配分した額を「単一のリース費用」として期間費用とする(毎期定額の期間費用が発生するような仕組み)。
  • ただし原資産を減損した場合、その後はリース負債について発生する利息費用と使用権資産の償却費(一般的に定額法により計算)を期間費用とする。
  • リースの分類を行わないため、左記のような取扱いはない。
割引率
  • 非上場企業の借手企業は、リスクフリー・レートを割引率とする旨、会計方針として選択することができる。
  • 該当なし。
変動
リース料
  • 借手企業はリース期間の変更など他の理由でリース料が再測定された場合に限り、指標又はレートに基づく変動リース料を見直す。
  • 借手企業は以下の場合に指標又はレートに基づく変動リース料を見直す。
    • リース期間の変更など他の理由でリース料が再測定された場合。
    • 指標又はレートの変動の結果として、契約上のキャッシュ・フローに変更が生じた場合。
セール・
アンド・
リースバック
 
  • リースバックがファイナンス・リースに該当する場合、資産の譲渡は売却にはあたらない。
  • 売手である借手企業が買戻オプションを有する場合、以下2つの要件がともに満されなければ、資産の譲渡は売却にあたらない。
    • 買戻価格が買戻時の公正価値である。
    • 原資産と実質上同一である資産を市場で容易に調達可能。
  • 他の通常の資産を売却した場合と同様に売却益を計上する。すなわち、売却価額(市場と異なる条件があれば調整後)と資産の従前の帳簿価額の差が利得の額となる。
  • 該当なし(リースの分類は行わないため、左記のような取扱いはない)。
  • 売手である借手企業が実質的な買戻オプションを有する場合、資産の譲渡は売却にあたらない。
  • 売却益の計上額は、売却価額(市場と異なる条件があれば調整後)と資産の従前の帳簿価額の差のうち、買手である貸手企業に移転された権利に係る部分に限定される。
移行措置
  • 以下の便法を採用可能。採用する場合には全ての便法を、貸手側である契約も含めた全リースについて一括して適用しなければならない。
    • 既存契約又は終了している契約について、リースが含まれているか否か判断し直さない。
    • 既存契約又は終了している契約について、リースの分類を判断し直さない。
    • 既存契約について、当初直接コストの判定をし直さない。
  • リース期間や購入オプションの行使可能性の判断及び使用権資産の減損テストにあたり、締結後に判明した事実を利用することができる。当該便法はそれ単独で適用してもよいし、前項の便法とともに適用してもよい。
  • 地役権についても一定の実務上の便法が認められている。
  • 契約がリースを含むか否かに関して企業がIAS第17号のもとで行った判断を引き継ぐ。この場合、全ての既存取引に一律に適用しなければならない。
  • 借手企業は、修正遡及アプローチを採用する場合、旧オペレーティング・リースのリース単位ごとに、以下の実務上の便法のうち1つ又は複数を選択適用することができる。
    • リース契約締結後に判明した事実を利用する(たとえばリース期間の算定)。
    • 適用開始日の使用権資産の測定に際し、減損会計を適用する代わりにIAS第37号における不利なリースか否かに関する従前の評価に依拠する。
    • 特性が合理的に類似したリースをポートフォリオとして取り纏め、ポートフォリオ単位で単一の割引率を適用する。
    • 適用開始日から12ヵ月以内に終了するリースについてリース負債・使用権資産の認識を除外する。
    • 適用開始日における使用権資産の測定において、当初直接コストを測定額から除外する。

前述のとおり、連結財務諸表にIFRSを適用している日本企業は、米国子会社が米国基準を適用している場合、連結決算作業にあたって会計基準差の調整が必要となる場合もありますので、留意が必要です。
なお貸手企業を含むその他の会計処理に関する差異やIFRS第16号の詳細については、KPMG Insight Vol.18 及びKPMG/あずさ監査法人ウェブサイトを適宜ご参照ください。

III.一般的課題とアプローチ

1.米国企業が直面している課題

KPMG米国法人は2018年7月付で新リース会計基準の適用状況に係る調査結果を公表しています。当該調査によると、多くの米国企業にとっての課題のひとつとして、リース契約をいかに網羅的に把握するかという点が挙げられています。特に、各種のサービス契約や供給契約に内包されているリース要素(本稿では「組込リース」という)をどのように漏れなく識別するかについて、大きな課題として捉えている企業が多くみられます(図表4参照)。

図表4 新リース会計基準の適用上の課題(複数回答可)

組込リースを適切に識別するために、多くの時間と人的資源の投入が必要となる場合が少なくないと考えられます。またリース取引を把握した次の段階として、契約の中からリース要素に係る情報を抽出し、会計上の分析を行った上で、場合によってリース契約の管理システムに登録するといった、より手間暇のかかる後続作業が必要となる場合もあります。

2.非上場企業も適用準備を開始

非上場企業は上場企業に比べ、新リース会計基準の適用までに時間的な猶予を有しています。ただ、調査結果が示すところによると、非上場企業は同じ時期にあった当時の上場企業と比較し、より早めに検討作業を進めているようです。
たとえば、非上場企業の28%はすでにリース会計適用のためのソフトウェアを選択済みであり(一年前の上場企業の同比率は17%)、30%はリース契約の識別調査を終えています(同27%)。また11%を占める非上場企業が関連する業務システムやプロセスの業務要件の整理を終えており(同6%)、9%の非上場企業はデータ収集と各種検証を実施済み(同3%)です。

3.導入に向けたアプローチ

新リース会計基準の導入に向けてどのような検討作業を行うべきかについては、個々の企業のおかれている状況により異なるものと想定されますが、初期的な検討作業の一例として、例えば以下のようなステップなどが考えられます。
 

  • 新旧の会計基準の要求事項を整理・分析し、大まかな影響分析を実施する。
  • 自社が有するリース契約(組込リースを含む)を漏れなく把握し、リスト化する。
  • 自社が有するリース契約について、現状の会計処理及び税務上の取扱いを整理する。
  • 上記に関する業務プロセスと関連する内部統制を把握する。
  • 資産の種類ごとに実際の契約書をレビューし、新基準に基づく具体的な会計処理を検討する。
  • 適用にあたっての実務上の便法の内容及び仮に選択した場合の影響を理解・分析する。
  • システム対応や業務プロセス・内部統制の変更要否を含めた、具体的な適用計画を策定する


前述のとおり、米国に関係会社を有している日本企業の多くは、その影響の多寡はあるにせよ、新リース会計基準の適用により何らかのインパクトを受ける可能性があるものと考えられます。各企業にはその状況に応じ、適切なタイミングで当該会計基準の適用に向けた検討作業を開始することが推奨されます。

執筆者

KPMG 米国
アカウンティングアドバイザリーサービス
ディレクター 高津 陽介

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