【開催報告】東北大学星陵キャンパスでのヘルスケア・スタートアップエコシステム構築へ

2022年2月9日、地域医療の中核を担う東北大学星陵キャンパスより、「東北大学星陵キャンパスでのヘルスケア・スタートアップエコシステム構築へ Featured by KPMG」のライブ配信を行いました。

2022年2月9日、「東北大学星陵キャンパスでのヘルスケア・スタートアップエコシステム構築へ Featured by KPMG」のライブ配信を行いました。

2022年2月9日17〜19時、地域医療の中核を担う東北大学星陵キャンパスより、「東北大学星陵キャンパスでのヘルスケア・スタートアップエコシステム構築へ Featured by KPMG」のライブ配信を行いました。

第1部では、「スタートアップの経験から」と題し、医療系スタートアップを設立され、社会課題の解決に取り組まれている株式会社エピグノ 取締役最高医療責任者 CMOの志賀卓弥氏、慶應義塾大学 医学部 眼科学教室特任講師兼株式会社OUI 代表取締役の清水映輔氏、サスメド株式会社 代表取締役医師の上野太郎氏にご登壇いただきました。モデレーターは、東北大学病院 EDAS-TUSデザインヘッドの中川淳寛氏です。

第2部は「スタートアップ支援の経験から」と題し、日本におけるスタートアップ支援体制について、SMBC日興証券株式会社 企業公開本部長執行役員の佐藤友治氏、Arthur D Little Japanの小野伊織氏にお話を伺いました。モデレーターは、Stanford Byers Center for Biodesign 東北大学病院 臨床研究推進センター客員教授の池野文昭氏です。また、KPMGジャパンより阿部博が大学発スタートアップの創出に向けた取組みについてお話いたしました。

お問合せ

スタートアップの経験から

モデレーター:中川 敦寛氏
東北大学病院 Alliance and Experience Design Section(EDAS-TUH)デザインヘッド

スタートアップ講演1:株式会社エピグノの取組み

株式会社エピグノ 取締役最高医療責任者 CMO 志賀 卓弥氏

株式会社エピグノは、「全ては、未来の患者と家族のために。」との目標を掲げ、病院・施設のマネジメントに関連するサービスを提供している。デジタルトランスフォーメーションが遅れる医療・介護の現場では、命と隣り合う緊張感が高い環境にも関わらず、非効率な業務により、慢性的に人手不足が生じています。取締役最高医療責任者(CMO)であり、東北大学病院集中治療部講師でもある志賀卓弥氏は、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)を修了したことをきっかけに、医療者が本来の業務に時間を捻出できるよう、エピグノを起業しました。

医療・介護現場では、人が最も重要な経営資源であることは言うに及びません。しかし、現状、病院内の約70%の情報は紙で管理されているともいわれ、属人的な業務が多い状況です。例えば手術スケジュールに応じて、どの看護師が担当するかは、ベテラン看護師が手作業で作成しています。しかし、過去のデータを使えば、かなりの精度でシフト表を作成することは可能です。これは在宅診療のシフト表にも応用が可能です。

同氏は、自身も臨床医として活動する中で、医療従事者の高い退職率を改善し、モチベーションの最大化や組織への再配置を通じて、医療の品質向上と経営改善を達成できると考えています。

スタートアップ講演2:慶應義塾大学スタートアップOUI Inc.(ウイインク)の挑戦

慶應義塾大学 医学部 眼科学教室特任講師 株式会社OUI 代表取締役 清水 映輔氏

眼科医3人が立ち上げた慶應義塾大学発ベンチャーである株式会社OUIは、「2025年までに世界全体での失明者を半数にする」との目標を掲げ、スマホに取り付けるアタッチメントタイプの眼科診察機器「スマートアイカメラ」の開発に取り組んでいます。同社代表取締役の清水映輔氏は「白内障の手術をするために訪れたベトナムで、起業のきっかけとなる社会的課題を発見」しました。

ベトナムの地方部には、日本のような高性能な眼科診察機器がありません。その代わりに使っていたのがペンライトですが、何百人も診察する状況では、ペンライトはすぐに役に立たなくなってしまいます。そんなとき現場の医師たちは、代替としてスマホのライトを用いていました。とはいえ、スマホのライトは眼科診察に適しません。そこで同氏が思いついたのが、スマホに取り付ける医療機器です。

現在、スマートアイカメラは日本、欧州、ケニア、ベトナムで医療機器として登録されており、世界20ヵ国で100台以上が導入されています。ただ、同氏らが目指すのは単なる医療機器の開発ではありません。遠隔診療はもちろんのこと、教育現場や患者への治療方針の説明の場面などでの活用も視野に入れた「スマートアイカメラを使用した新しい診療スタイルを作る」ことです。

同氏によれば、医療が未発達の地域では、眼科の診療自体がなかったり、そもそも眼を治すという発想がない人も多いのだそうです。そうした地域にスマートアイカメラを導入することで、患者を眼科医に送患するというモデルを作れるのではないか。「日本と世界でポータブルな眼科の診療が行えるようにしたい」と、同氏は考えています。その夢を実現するために、同社では世界初となるAI(人工知能)を用いた前眼部診断医療機器の開発に挑戦しています。これが導入されれば、眼科医がいない地域でも、他科の医師が眼科の診察をしたり、専門医が遠隔診療で困難な症例や手術をカバーするといった体制づくりも可能となり、「世界全体での失明者を半数にする」という目標に近づきます。

スタートアップ講演3:デジタル技術を活用した持続可能な医療の実現

サスメド株式会社 代表取締役医師 上野 太郎氏

一方、サスメド株式会社は不眠症の治療やがん患者、慢性腎臓病患者向けの治療アプリの開発、製薬企業向けの臨床試験を効率化するためのデジタル医療プラットフォームの開発など、デジタル技術を活用した持続可能な医療の実現を目指すスタートアップです。2021年には、ブロックチェーン技術を活用することで、人の手を介さずとも治験データの真正性を担保する治験効率化システムを開発、行政の承認を得て実用化しました。2021年12月には東証マザーズへ新規上場も果たしています。

同社代表取締役社長である同氏は、精神医学神経科学分野のなかでも睡眠障害を専門とする医師です。日本における不眠症の治療は、一般的に睡眠薬の投与です。しかし、睡眠薬による治療は副作用の観点から問題があり、減薬や処方期間の短縮といった対策が打ち出されています。「実は認知行動療法が、睡眠薬に変わる治療法としてガイドラインでも推奨されている」そうです。しかし、多忙な現場の医師は、認知行動療法のような時間のかかる治療法にリソースを割けません。そこで、上野氏らが開発したのが治療アプリです。「治療アプリを使えば、先生方の時間を使わずに非薬物療法を患者に届けられる」と考えたそうです。

治療アプリは医療機器ですから、従来の医薬品同様、医師が不眠症と診断した患者に治療アプリのアカウントを処方するという流れになります。患者は自身のスマホから治療アプリにログインすることで、アルゴリズム化された認知行動療法を自宅にいながら受けるのです。また、これまでの投薬頼みの治療では、薬が適切に使用されているかがわからないという課題がありましたが、治療アプリならばログ解析によって、その課題も解決することができます。

同社では不眠症の治療アプリの開発で得たノウハウや特許技術をプラットフォーム化し、他の疾患の治療に活用する取組みを始めています。その1つが、東北大学病院と共同で開発を進めている慢性腎臓病患者向けのリハビリアプリです。このリハビリアプリは、透析移行を抑制し、腎機能改善効果が示されたことから保険収載されました。また、同社が開発した機械学習自動分析システムは、東北大学と脊椎損傷患者における予後予測モデルの構築、名古屋大学と妊産婦うつの早期診断アルゴリズムの構築の共同研究に活用されています。

スタートアップ支援の経験から

モデレーター:池野 文昭氏
Stanford Byers Center for Biodesign 東北大学病院 臨床研究推進センター客員教授

講演1:SMBC日興証券のスタートアップに対する取組み

SMBC日興証券株式会社 企業公開本部長執行役員 佐藤 友治氏

スタートアップの資金調達を支えるIPO市場は、日本国内において2021年に新規株式公開した企業は125社となり、15年ぶりの高水準でした。また、コロナ禍で乱高下した日経平均株価もおおむね6%の上昇となり、「相対的に悪くない年でした」とSMBC日興証券株式会社 企業公開本部長の同氏は分析しています。

同氏によれば、2021年のIPO市場のトレンドは(1)ユニコーン企業の増加、(2)赤字企業の増加、(3)コーナーストーン投資の活用の3つあったそうです。(1)のユニコーン企業とは、評価額が1,000億円以上のスタートアップ企業のことです。日本は欧米に比べてユニコーン企業が生まれにくい風土とされていますが、昨年は一気に4社がユニコーン企業となり、同氏は「おそらく今後も出てくる」と予測しています。(2)について、昨年は10社の赤字のディープテック企業が上場しました。通常であれば、赤字企業の上場は困難ですが、東京証券取引所の構造改革に伴い上場企業に求められる条件が見直された結果、事業計画が合理的であれば赤字でも上場できるようになったのです。(3)のコーナーストーン投資とは、機関投資家が上場前に一定の割合で株式を引き受けることを指します。これにより個人投資家を呼び込み、需要の拡大が見込めます。日本におけるコーナーストーン投資は増加傾向にあります。

講演2:Arthur D Littleのスタートアップに対する取組み

Arthur D Little Japan 小野 伊織氏

オープンイノベーションをテーマに講演した欧州系戦略コンサルティングファーム、Arthur D Little Japanの同氏は、「最近、イノベーション創出が大きく変わってきた」と語り、医療系にもバリュー・べース・ヘルスケアという考え方が浸透し、その実現にはデジタル化が重要であるとの認識を示しました。予防、診断、治療、予後の管理までのすべてのペイシェント・ジャーニーをつなげるようなソリューションの開発がすでに進んでいるおり、同氏によると「非常に今、ヘルスケアが面白い時代になっている」ということです。

従来、イノベーションは企業側が商品を開発する技術本位が当然とされてきました。しかし、昨今では顧客と共同開発したり、製品自体をパッケージ化したシステムを提供したりと、顧客の価値提供に重きが置かれるようになっています。そのため、イノベーション創出にも利用者や競合他社、パートナー、サプライヤーなど幅広い層との協業が重要になるのです。こうした環境の変化をとらえ、最近では大企業がスタートアップと協業する場面も増えてきました。しかし、意思決定のスピードや開発の考え方の違いなど組織・文化的な要因から、事業化につながらないという問題も多く見られます。同氏は、エコシステム構築型イノベーションを実現するには、大企業側もスタートアップ側に歩み寄る必要があると言います。具体的には、スタートアップの特性を「理解する」、スキームを「広げる」、目線を合わせて「共創する」ことを意識することです。「組織・文化的な違いを認識し、目線を合わせることが重要」と言います。

講演3:大学発スタートアップの創出に向けた取組み

有限責任 あずさ監査法人 常務執行理事 企業成長支援本部インキュベーション部長 パートナー/
KPMGジャパン プライベートエンタープライズセクター スタートアップ統轄パートナー 阿部 博

あずさ監査法人KPMGジャパンでスタートアップ支援を手掛ける同氏は「ディープテック系とバイオ・ヘルスケア、この2つが世界と戦える技術を持っている。この2つを、世界で活躍できるベンチャーに育てていくことが大事」だと言います。そのためには、「起業しやすい環境作り」「地方からの創業」」「創業支援」「外部からの支援を得るための情報発信」の4点が重要だと指摘します。

これまで、大学は研究成果を社会実装していくことに対して十分に検討してきませんでした。しかし、現在ではJ-Startup、SCORE、STARTなど、公的な支援が充実しつつあります。同氏は、研究成果の事業化には、これら制度を有効に活用することが大事だと言います。「大学の基礎研究からベンチャーができ、その株を大学が所有し、M&Aや株式上場によって資金が大学に戻り、再度基礎研究に使われて発展する。これが、私が考える一番いい循環で、そういう好循環が広がることを期待したい」と述べます。

執筆者

あずさ監査法人
企業成長支援本部 インキュベーション部