2008年の金融危機の教訓を踏まえて、G-SIBs等の大手金融機関は破綻処理可能性(Resolvability)を高めるために、再建・破綻処理計画(RRP)の策定、態勢の整備・高度化を進めてきました。態勢整備にメドが付いた2020年頃からは、当局や金融機関の間で「訓練」の実施が重視されるようになりました。2023年には複数の米国地銀の破綻や欧州G-SIBs間の救済合併などもあり、足もとでRRPや訓練に対する注目度が高まっています。KPMGジャパンでは、本邦大手金融機関に対してRRP全般に係るアドバイザリーサービスを提供していますので、その内容をご紹介します。

再建・破綻処理計画(RRP)

2008年の金融危機以降、グローバルな金融システム上重要な銀行(G-SIBs)の秩序立った破綻処理を進めるべく、各国当局は再建・破綻処理計画(Recovery and Resolution Plan=RRP)の態勢整備を求めてきました。公的資金を使わずに破綻処理を行うことが狙いであり、国際的な枠組みとしては、FSB(金融安定理事会)が「Key Attributes」(主要な特性)を公表しています。
本邦では、G-SIBs等の大手金融機関にRRPの策定が求められています。

危機・破綻処理の流れ

金融機関は、平常時において貸出や有価証券投資といった業務を行います。景気後退期などのストレスが掛かった状況では、ストレステストを実施し、資本や流動性がこの先どの程度悪化するのかを予測しながら業務を行います。

資本や流動性の状況が悪化すると、金融機関はコンティンジェンシー・ファンディング・プラン(CFP)等に沿って、保守的な流動性運営を行い、危機がさらに深刻化すれば、予め策定していた再建計画(Recovery Plan)を発動させ、資本や流動性の回復を試みます。

再建計画の発動によって、資本や流動性が回復すればよいですが、再建計画が不発に終わり、破綻が避けられない状況になれば、破綻処理準備に入り、予め策定していた破綻処理計画(Resolution Plan)に沿って、当局主導で秩序だった破綻処理が行われることになります(=”Resolvable”な状況)。

RRPの重要領域

金融機関はResolvableな状況を確保するため、さまざまな領域における態勢を整備する必要があります。

例えば、TLAC債を発行し、損失の吸収・資本再構築可能な債務を調達(ベイルイン実施への備え)したり、破綻前後で必要な流動性額を把握(破綻時の流動性管理)することや破綻処理局面における資産・負債の評価や譲渡対価算定(バリュエーションの実施)等の態勢整備が求められます。これらのほかにも、業務継続の観点も重要です。

訓練実施の重要性

以上の領域の態勢整備に目途が付いた2020年ごろからは、当局や金融機関の間でRRPフェーズにおける訓練の実施が重視されるようになりました。実効性向上の観点から、整備した態勢がワークするか、実務部署のオペレーションが可能か、マネジメントが適切な判断を行うことができるかなどの検証が重要になっています。

訓練については、米欧当局や金融機関では早くは2017~18年ごろから注目されていました。その後、2020年以降のコロナ禍や2022年のロシアのウクライナ侵攻、2023年の米国地銀の破綻・欧州G-SIBs間の救済合併といった大きなイベントの発生を受けて、ますます訓練実施の要請が高まっています。さまざまなシナリオを想定の上、訓練を実施して危機・破綻時の態勢に係る課題を特定し、リスク管理態勢全般を改善することが重要になっています。

本邦での取組み

本邦においては、金融庁が米欧の当局や金融機関の動向を参考にしながら、訓練の実施をG-SIBs等の大手金融機関に対して求めてきたと思われます。

そうしたなかで、金融庁は2024年4月に監督指針を改正し、G-SIBs等の金融機関に対して訓練の実施を明示的に要請しました。今後、G-SIBs等では、監督指針の要請に従って訓練を実施し、RRPの態勢整備・高度化を図っていくことが求められます。

また、RRPが適用される金融機関を拡大する動きがみられることも意識しておくべきです。例えば、2024年5月に公表された国際通貨基金(IMF)のFSAP(金融セクター評価プログラム)では、すべてのSIBsに破綻処理計画の策定を勧告したほか、主要行等に再建計画の策定を要請しています。加えて、保険会社や中央清算機関といったFMI(金融市場インフラ)におけるRRP策定の重要性に触れている点も見逃せません。

KPMGジャパンのサービス体制強化

KPMGジャパンでは、以上のような動向を踏まえ、サービス提供体制を強化しましたので、ご紹介します。我々の取組みが、本邦金融機関におけるRRPの態勢整備・高度化の一助となれば幸いです。

執筆者

あずさ監査法人
ディレクター 田中 康浩

KPMGコンサルティング 
マネジャー 高縁 友香

KPMG FAS  
マネジャー 野﨑 陽光

お問合せ