KPMGジャパン、「日本の企業報告に関する調査2023」を発行
KPMGジャパンは、統合報告書をはじめとする各種報告書の動向に焦点を当てた「日本の企業報告に関する調査2023」を発行しました。
KPMGジャパンは、統合報告書をはじめとする各種報告書の動向に焦点を当てた「日本の企業報告に関する調査2023」を発行しました。
KPMGジャパン(東京都千代田区、共同チェアマン:山田 裕行、知野 雅彦)は、統合報告書をはじめとする各種報告書の動向に焦点を当てた「日本の企業報告に関する調査2023」を発行しました。2014年より開始し10回目を迎えた本調査では、前回に続き「マテリアリティ」に焦点を当てた分析を行っています。調査の対象は、日経平均株価※1(以下、日経225)の構成企業が発行した統合報告書、有価証券報告書、サステナビリティ報告書や企業ウェブサイト上のサステナビリティに関連するページ(これらを総称して、以下「サステナビリティ報告」)、および2023年1月~12月に「自己表明型統合レポート」を発行する国内の企業等1,017組織が発行した報告書としています。
今回の調査結果では、マテリアリティに関する報告は増えているものの、マテリアリティ評価の前提となる経営環境の見通しを説明する企業は全ての報告媒体で減少するという傾向が見られました。また、GHG排出量(スコープ1、2)の記載割合は、統合報告書とサステナビリティ報告では8割を超えるが、有価証券報告書では3割にとどまりました。
グローバルに比較可能なサステナビリティ情報は、投資家をはじめとするステークホルダーの間での利用が一段と広がり、情報の信頼性向上がこれまで以上に求められることが想定されます。そこで大切なのは、取締役会や経営者がマテリアリティをどう認識しているのかを出発点に、報告内容を検討することです。マテリアリティの認識とそれに関連する企業行動が読み取れる報告の実践が、ステークホルダーからの信頼を得ていくうえでの根幹を成すと、KPMGは考えています。
主な調査結果
マテリアリティに関する説明は、統合報告書とサステナビリティ報告で89%、有価証券報告書でも75%の企業が実施
マテリアリティに関する説明が報告書に不可欠な要素であるとの認識が高まったことで、統合報告書やサステナビリティ報告の89%と、有価証券報告書の75%において、マテリアリティに関する説明がありました。中でも有価証券報告書における「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄の新設が、有価証券報告書におけるマテリアリティの記載の増加を大きく後押ししたと言えます。
図1:マテリアリティの記載
マテリアリティに関して報告する企業は増えるも、マテリアリティ評価の前提となる経営環境の見通しを説明する企業は減少
上述の通り、何がマテリアルなのかを示す割合は増加しましたが、マテリアリティ評価の前提となる経営環境の見通しを説明している割合は、すべての報告媒体で減少し、最も高い統合報告書でも28%でした。「ガバナンス」、「リスク管理」、「戦略」、「指標と目標」の4つの柱に基づく開示の枠組みに沿って、気候変動などマテリアルだと判断した個々の事象のシナリオを記載する一方で、マテリアリティ評価の前提である経営環境の見通しは省略した企業があったと考えられます。
図2:マテリアリティ評価の前提となる将来の経営環境の見通しの説明
GHG排出量(スコープ1、2)の記載割合は、統合報告書とサステナビリティ報告では8割を超えるが、有価証券報告書では3割にとどまる
温室効果ガス(以下、GHG)排出量(スコープ1、2の当期実績)の記載状況は、サステナビリティ報告で9割、統合報告書で8割を超えています。一方、有価証券報告書では、前年より14ポイント増えたものの、24%にとどまっており、GHG排出量の積極的な記載が求められている中で、当期実績を開示する企業はまだ少数です。
図3:GHG排出量(Scope1,2)の当期実績が開示されているか
人的資本に関し、制度が求める指標と、企業戦略との関連性は必ずしも十分に読み取れない
2023年3月期より、中長期的な企業価値の判断に資する情報として、「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」、「男女の賃金の差異」を有価証券報告書で開示することが要請されています。この3つの指標について、企業戦略との関連性が読み取れるかを調査したところ、「男女の賃金の差異」は関連性が読み取れた割合が最も低く、すべての媒体で5割を下回りました。
図4:比較可能性のある指標の記載
日経225構成銘柄の92%、東証プライム上場企業の時価総額81%にあたる企業が統合報告書を発行
2023年に統合報告書を発行した企業等1,017組織のうち、日経225構成企業は208社でした。これは、日経225構成銘柄の92%にあたります。また、2023年9月末時点で東証プライム市場に上場している1,830社の時価総額のうち、統合報告書を発行する880社の時価総額が占める割合は、前年より2ポイント減の81%となりました。
図5:発行企業のインデックス属性
図6:東証プライム上場企業の時価総額と企業数における発行企業の割合
本調査では、マテリアリティに焦点を当てた調査のほかにも、海外を含む投資家の意思決定により資するものへと企業報告を高度化させるための取組みである、サステナビリティ情報の報告早期化および第三者保証受審による信頼性向上、英文開示による公平性確保についての状況も確認しています。また、気候変動や人的資本など、今後ますます内容の充実が期待される事項の記載状況の確認と、統合報告書の基礎調査も実施しました。
KPMGからの提言
今回の調査では、多くの企業が自社のマテリアリティの認識を深め、報告書の情報もより充実していることが明らかになりました。また、報告内容の信頼性向上のため、第三者保証を受ける企業も増加しています。しかし、報告されたマテリアリティと企業価値向上につながる企業行動との間には、明確な関連性が読み取れないという課題もみられました。取締役会や経営層がマテリアルだと認識した課題について、深度ある議論に基づいた経営の意思決定が行われ、現場の取組みを通じて企業価値向上という成果に結実するまでのストーリーを、つながりを意識して伝えることが大切だと考えます。また、そのような一連の報告を実践するためには、質の高いデータを収集する仕組みの整備・運用も不可欠です。その実現に向け、調査結果に基づき、以下を提言します。
1.報告対象とした事項についてマテリアルだと判断した論拠を明確にし、関連性のある内容を示す
マテリアルだと判断した内容が経営上重視すべき事項として相応しいということを伝えるためには、その論拠を明確にし、背景や判断プロセスを丁寧に説明することが大切です。具体的には、マテリアリティ評価の前提とした将来環境の見通しや、その見通しのなかで想定されるリスクと機会、そのリスクと機会が企業行動に及ぼす影響を示し、それらについて、取締役会や経営層が主体的に議論している実態を示すことが望まれます。
2.コーポレートガバナンスのあり方が理解できる情報を伝える
取締役会には、持続的な価値創造に向けた組織の大きな方向性を定め、時に軌道修正しながら経営に関する戦略的な道筋を示しつつ、経営を監視する役割が期待されています。このため、取締役会が、自社のマテリアリティについて十分に認識を共有し、経営の監視責任を果たすために必要な体制や知見を具備しているかを示すことが肝要です。また、取締役会や経営者が経営上の判断や監視の基礎となる信頼性の高い情報やデータを収集する仕組みを構築しているかどうかも、今後は大切な要素になるでしょう。
3.制度が求める情報を単に開示するだけでなく、企業価値に関するインサイトを伝える報告を目指す
制度により求める項目や指標の開示は、企業がアカウンタビリティを果たすために最低限必要とされるものです。社会からの期待に応え、自社のパーパスに基づき、どのような価値を提供して自社の価値向上につなげていくのかを伝えるには、制度開示の要求を充足するだけではなく、経営者の視点で、将来の企業価値に影響し得る内容について、その背景や現状分析に基づく今後の見通しなどのインサイトを主体的に伝え、情報利用者と主体的に対話する姿勢が求められます
調査概要
調査対象期間 |
2023年1月~12月(英文開示のみ2024年1月まで) |
対象企業 |
統合報告書、有価証券報告書の記述情報、サステナビリティ報告の比較調査: 統合報告書の発行企業等および統合報告書に関する基礎調査: |
調査方法 |
調査メンバー全員で判断基準を定めた上で、企業ごとに1人の担当者が、統合報告書、有価証券報告書、サステナビリティ報告を通読し、確認する方法で実施 |
協力 |
企業価値レポーティング・ラボ |
※1日経平均株価(日経225)は株式会社日本経済新聞社の登録商標または商標です。
KPMGジャパンについて
KPMGジャパンは、KPMGインターナショナルの日本におけるメンバーファームの総称であり、監査、税務、アドバイザリーの3つの分野にわたる9つのプロフェッショナルファームによって構成されています。クライアントが抱える経営課題に対して、各分野のプロフェッショナルが専門的知識やスキルを活かして連携し、またKPMGのグローバルネットワークも活用しながら、価値あるサービスを提供しています。
日本におけるメンバーファームは以下のとおりです。
有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人、KPMGコンサルティング株式会社、株式会社 KPMG FAS、KPMGあずさサステナビリティ株式会社、KPMGヘルスケアジャパン株式会社、KPMG社会保険労務士法人、株式会社 KPMG Ignition Tokyo、株式会社 KPMGアドバイザリーライトハウス