KPMGジャパン、「日本の企業報告に関する調査2022」を発行

KPMGジャパンは、今回で9回目となる「日本の企業報告に関する調査2022」を発行しました。

KPMGジャパンは、今回で9回目となる「日本の企業報告に関する調査2022」を発行しました。

KPMGジャパン(東京都千代田区、共同チェアマン:山田 裕行、知野 雅彦)は、2023年4月5日に「日本の企業報告に関する調査2022」を発行しました。本調査は2014年より開始しており、9回目となる今回は「マテリアリティ」に焦点を当てた分析を行いました。調査の対象は、日経平均株価※1(以下、日経225)の構成企業が発行した統合報告書、有価証券報告書、サステナビリティ報告書や企業ウェブサイト上のサステナビリティに関連するページ(これらを総称して、以下「サステナビリティ報告」)、および2022年1月~12月に「自己表明型統合レポート」を発行する国内の企業等884組織が発行した報告書としています。

「マテリアリティ」という概念は、自らの存在意義に基づき、持続的な価値を創造する経営を推進するための基礎であり、マテリアルだと判断した内容は、経営の意思決定の根幹をなします。そのため、その判断内容と理由を報告することに意味があり、説明責任を果たすことにつながると言えます。調査の結果、マテリアリティ分析の結果を報告する企業は増えているものの、その内容は昨今関心が高まっているESG課題が羅列されているケースが目立ちました。また、マテリアリティ評価を反映した戦略の遂行や認識したリスク・機会の監督における取締役会の体制や役割、取締役の有するスキルや経験、マテリアリティ評価への関与に係る情報も十分ではない状況が明らかとなりました。

本調査では、マテリアリティに焦点を当てた調査のほかにも、海外を含む投資家の意思決定により資するものへと企業報告を高度化させるための論点となる、サステナビリティ情報の報告時期および信頼性向上と、英文開示の状況も確認しています。また、気候変動や人的資本と多様性など、今後ますます内容の充実が期待される事項の記載状況の確認と、統合報告書の基礎調査も実施しました。

調査結果の主なポイントは以下の通りです。

本調査の主なポイント

何がマテリアルな課題かを示す報告書は増加傾向にあり、有価証券報告書でも43%が言及

企業経営において、短中長期の視点で何がマテリアルなのかを示す報告書は、調査対象としたすべての報告媒体で前年から増加しました。統合報告書やサステナビリティ報告では80%を超え、財務報告が主目的である有価証券報告書でも40%を超えました。

図1 マテリアリティの記載

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マテリアルだと判断された内容に関連する重大なリスクや機会の監督機能を設置し、説明している企業は半数以下

上述の通り、何がマテリアルなのかを示す割合は増加しましたが、マテリアルだと判断された内容に関連する重大なリスクや機会の監督について、責任を担う機関または個人が特定され、説明があるのは、割合の高い順に、統合報告書で47%、サステナビリティ報告で38%、有価証券報告書で23%となりました。

図2 マテリアルだと判断された内容に関連する重大なリスクや機会の監督について責任を負う機関または個人が特定されているか

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サステナビリティ報告書の発行時期は、決算月の半年後が最も多く、有価証券報告書の提出期限である決算月の3ヵ月後までに発行している企業は7%

サステナビリティ報告書を発行している企業124社の発行時期は、決算月の6ヵ月後が31%と最も多く、有価証券報告書の提出期限である決算月の3ヵ月後までに発行している企業は7%(2ヵ月後2%、3ヵ月後5%)となりました。

図3 統合報告書・サステナビリティ報告書の発行時期

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TCFD提言に沿った開示は増加するも、温室効果ガス(以下、GHG)排出量(Scope1,2)を有価証券報告書で開示している企業は10%

GHG排出量(Scope1とScope2の実績)の記載状況は、割合の高い順に、サステナビリティ報告で92%、統合報告書で73%、有価証券報告書で10%となり、有価証券報告書でのGHG排出量の開示には消極的です。

図4 TCFD提言に沿った開示の状況(項目別)

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人的資本に関する方針の記載割合は、統合報告書・サステナビリティ報告で約8割と高い一方、有価証券報告書は約3割にとどまる

経営層・中核人材に関する方針、人材育成方針、社内環境整備方針など、人的資本に関するいずれかの記載がある割合は、統合報告書とサステナビリティ報告でともに78%と高い一方、有価証券報告書では31%にとどまり、任意の報告媒体での説明が先行しています。

図5 人的資本に関する方針の記載

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日経225構成銘柄の91%、東証プライム上場企業の時価総額83%にあたる企業が統合報告書を発行

2022年に統合報告書を発行した企業等884組織のうち、日経225構成企業は204社でした。これは、日経225構成銘柄の91%にあたります。また、東証プライム上場企業の時価総額のうち、統合報告書発行企業の時価総額は83%を占めるまでになりました。

図6 日経225構成銘柄に占める割合

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図7 東証プライム上場企業の時価総額における発行企業の割合※1

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KPMGからの提言

いずれの報告媒体も内容が充実してきていますが、それが企業価値とどうつながるのかが明確に示されておらず、説得力が伴わないものも見受けられます。自社のパーパスに基づいて提供する価値やそのために重視することを明確に説明することが肝要です。また、ステークホルダーごとに重視する内容が異なるため、企業価値や経済・環境・社会へのインパクトを経営に責任を有する者の視点から描くストーリーで伝えることこそが大切です。その実現に向け、調査結果に基づき、以下を提言します。

1. 報告対象とする事象について、マテリアルだと判断した論拠を明確にし、その背景とともに丁寧に説明する

マテリアリティ分析の結果と戦略の進捗状況を報告する企業が増えていますが、ESG課題が羅列された報告が多く、企業間や異業種間の違いが読み取りにくい印象を受けました。ESG課題は、ビジネスモデルや産業特性によって企業への影響は異なります。また、報告媒体の目的によって、マテリアルだと判断した対象が同じでも報告内容は異なります。取締役会や経営層の共通認識として、経営の意思決定の根幹をなすマテリアリティをどう認識しているのかを、情報利用者へ適切に伝えるためには、マテリアルだと判断した論拠を提示するとともに、その判断プロセスを含めた丁寧な説明が望まれます。

2. 価値創造を支える仕組みとしてのコーポレートガバナンスを伝える

企業価値創造の源泉と価値の毀損要因を分析し、その内容に基づいて策定した戦略を遂行する際、取締役会は包括的かつ長期的な視点で組織の方向性を定め、時には軌道修正しながら、持続的な経営を支える役割が期待されます。報告書には、マテリアルだと認識した課題に十分な知見をもつ取締役を選任しているかどうかや、目標達成のためのインセンティブとなる報酬体系があるかなど、マテリアリティに関し取締役会が十分認識を共有している実態や策定した戦略への責任を示す必要があります。コーポレートガバナンス改革に伴い、報告書に含まれる情報量は増加していますが、制度が求める最低限の情報ではなく、価値創造ストーリーに関連づけた説明を通じてインサイトを提供することが求められています。

3. 制度対応のための開示から脱却し、企業価値に関するインサイトを伝える報告を目指す

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB※2)は、IFRS®サステナビリティ開示基準の開発を進めており、世界各国の企業報告制度がその開示要求を組み入れる動きもみられます。日本でも、2023年3月期の有価証券報告書から、サステナビリティ情報の開示が必須となりました。企業の取組みについて適切な評価を得るためには、開示指標の意味合いを補足する背景情報や現状分析に基づく今後の見通しを伴った説明に加え、企業独自の指標を用いて目指す姿を伝えることが大切です。企業には制度対応を目的とする取組みから脱却し、企業価値とその持続性を高める行動の一環として、独自のインサイトを提供し、ステークホルダーと主体的に対話していく姿勢が問われてくるでしょう。

調査概要

調査対象期間

2022年1月~12月

対象企業

統合報告書、有価証券報告書の記述情報、サステナビリティ報告の比較調査:日経225構成企業225社

統合報告書の発行企業等および統合報告書に関する基礎情報の調査:「自己表明型統合レポート」を発行する国内の企業等884組織 

調査方法

調査メンバー全員で判断基準を定めた上で、企業ごとに1人の担当者が、統合報告書、有価証券報告書、サステナビリティ報告を通読し、確認する方法で実施

協力

企業価値レポーティング・ラボ
(「自己表明型統合レポート発行企業等リスト2022年版」提供)

※1   日経平均株価(日経225)は株式会社日本経済新聞社の登録商標または商標です。
※2 「ISSB™」は商標です。「IFRS®」はIFRS財団の登録商標であり、KPMG IFRG Limitedおよびあずさ監査法人はライセンスに基づき使用しています。この商標が使用中および(または)登録されている国の詳細についてはIFRS財団にお問い合わせください。

KPMGジャパンについて

KPMGジャパンは、KPMGインターナショナルの日本におけるメンバーファームの総称であり、監査、税務、アドバイザリーの3つの分野にわたる9つのプロフェッショナルファームによって構成されています。クライアントが抱える経営課題に対して、各分野のプロフェッショナルが専門的知識やスキルを活かして連携し、またKPMGのグローバルネットワークも活用しながら、価値あるサービスを提供しています。

日本におけるメンバーファームは以下のとおりです。
有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人、KPMGコンサルティング株式会社、株式会社KPMG FAS、KPMGあずさサステナビリティ株式会社、KPMGヘルスケアジャパン株式会社、KPMG社会保険労務士法人、株式会社KPMG Ignition Tokyo、株式会社 KPMGアドバイザリーライトハウス

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