1.グローバル
AIや防衛テック、宇宙テック分野への高い関心により比較的堅調に推移
世界のベンチャーキャピタルによる投資は、前四半期に行われたOpenAIによる400億ドルのようなメガディールがなかったにもかかわらず、AI(人工知能)や防衛テック、宇宙テック分野への投資家の高い関心もあり比較的堅調に推移しましたが、1,010億5,000万ドルと前四半期から減少しました。
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2025年第3四半期に注目すべきトレンド
米国の関税措置による不確実性からベンチャーキャピタルの多くが慎重な姿勢を取り続けるため、世界的に控えめな状態が続くと予想されます。米国の税制改正法案で提案された変更は、特にグローバル企業にとって今後3ヵ月から6ヵ月の間に新たな不確実性の波を引き起こす可能性があります。
AI分野は、特定の業界に特化した垂直型ソリューションに投資家からの注目が集まるなど、投資先として魅力的な分野であり続けると予想されます。また、防衛テックやヘルステック、フィンテック分野も安定的に投資家からの投資が見込めると考えられます。
2.米国
10億ドル超の大型案件が複数あったにもかかわらず投資額は減少
米国ではWorld Viewによる26億ドルのほか、Anduril Industriesによる25億ドル、Safe Superintelligenceによる20億ドルなど、10億ドル超の大型案件が複数あったにもかかわらず、ベンチャーキャピタルによる投資は減少しました。
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2025年第3四半期に注目すべきトレンド
政権交代前の2024年第3四半期と第4四半期に市場に蔓延していた慎重な楽観主義が、特にイグジット活動において戻ってきています。フィンテックやヘルステック、サイバーセキュリティなどの分野で、成熟したスタートアップが安定した市場を利用してIPOの扉を開ける可能性があります。
AIと防衛テック分野は、今後数四半期にわたってベンチャーキャピタルの主要な投資分野であり続けると予想されます。AI分野では、不足するAI人材を確保する手段としての買収や、革新的なAI製品を自社のプラットフォームやソリューションに導入しようとする企業があるため、M&A活動も活発化すると考えられます。
3.南北アメリカ
地政学的な緊張や米国の関税措置による不確実性から、投資額、案件数ともに減少
南北アメリカでは、米国のWorld Viewによる26億ドルが当四半期の南北アメリカにおける最大の案件となりました。米国以外では、カナダのネットワークセキュリティ企業Tailscaleによる1億6,000万ドルのほか、中古車販売プラットフォームを手がけるメキシコのKavakによる1億2,700万ドル、ブラジルの経費管理会社Claraとカナダの鉱物回収クリーンテック企業Destiny Copperによる8,000万ドルなどがありましたが、投資額、案件数ともに減少しました。
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2025年第3四半期に注目すべきトレンド
関税を巡る不確実性の影響を受けやすい製造業や消費財などの分野に対しては、関税政策が落ち着くまで投資が控えられる可能性があります。AIと防衛テック分野は米国に牽引され、引き続きホットな分野であると予想されます。米国とカナダでは、より効率的で効果的なヘルスケアソリューションに対する需要と、消費者のデータ駆動型健康分析およびソリューションへの関心の高まりを受け、ヘルステック分野も魅力的であり続けると考えられます。
メキシコは、2025年8月に予定されている司法制度の改革を様子見する姿勢が見られ、静かな状態が続くと予想されます。ラテンアメリカ全体では、フィンテック分野の可能性が認識されていることから、ベンチャーキャピタルにとってこの分野は最も魅力的な分野であり続けると予想されます。
4.欧州
地政学的および貿易の不確実性への懸念から、投資額、案件数ともに減少
欧州では、地政学的および貿易の不確実性への懸念から146億ドルと、前四半期からわずかに減少し、取引件数も前四半期の2,358件から1,737件に減少しました。
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2025年第3四半期に注目すべきトレンド
米国による関税措置を巡る不確実性が仮に2025年第3四半期以降も続くようであれば、AIや防衛テック以外の分野でのベンチャーキャピタルによる投資は低迷が続く可能性があります。EUと欧州のいくつかの大国は、重要な産業における米中依存を下げる政策を推進するとともに、スタートアップのスケールアップと成長のためのプログラムに資金を提供し続けると考えられます。
5.アジア
投資総額と件数ともに減少。中国の無人配送車企業Zelos Techによる3億ドルが最大案件に
アジアではベンチャーキャピタルによる投資の水準は低く、過去10年間で2番目に低い規模となりました。当四半期最大の案件は、いずれも中国企業のZelos Techによる3億ドルとYangtze Memoryによる2億1,900万ドル、インドのPB Healthcareによる2億1,800万ドルでした。
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日本は投資額と案件数ともに増加
2025年第2四半期、日本の案件数は前四半期の299件から333件となり、アジアの主要な国・地域の中で唯一増加し、投資額も15億ドルと、前四半期の9億2,700万ドルから増加しました。日本ではAIとディープテックの2つの分野が投資家から最も高い関心を集めたほか、ヘルスケアとロボティクス、自動車分野におけるAIソリューションへの関心も高まりました。
日本の投資家も世界的なベンチャーキャピタル市場における不確実性から慎重な姿勢を強め、レイターステージでの資金調達が厳しくなりました。業界内で強みを持つスタートアップは資金調達に成功した一方、強みを持たないスタートアップの資金調達は難しくなるなか、フラットラウンドやダウンラウンドが行われました。
日本のベンチャーキャピタルエコシステムは市場環境の変化に合わせて進化
過去数四半期、日本のベンチャーキャピタルエコシステムはいくつかの変化を経験してきました。実績のある大手ベンチャーキャピタルファンドが100億円以上のファンドを設立する一方で、小規模のベンチャーキャピタルファンドが苦戦するなど、ファンドの資金調達の二極化が進んでいます。日本では企業によるオープンイノベーションや資本・業務提携への関心が高まっています。
2025年第2四半期、米国の関税措置の発表を受け、多くの資金が輸出企業から内需株にシフトしたことにより、東証グロース市場250指数は約1年ぶりの高水準となりました。
2025年第3四半期に注目すべきトレンド
アジアでは、米国の関税措置による不確実性から控えめな状態が続くと予想されます。関税措置の影響に差があることから投資家がより慎重な姿勢を示す国や地域とそうでない国や地域の二極化が続く可能性が高いと考えられます。
中国ではAIアプリケーション企業に加えて、国内を主体に事業を行う企業がベンチャーキャピタルからより多くの投資を得る可能性が高い一方、電気自動車(EV)分野は市場が飽和状態にあり、価格競争が激化すると考えられることから再編統合の流れが続く可能性があります。
日本ではAI、ディープテック、宇宙テック、サイバーセキュリティなどの分野で、ベンチャーキャピタルによる投資が活発になると考えられます。また、企業が自社事業とのシナジーを生むスタートアップへの投資を強化すると予想され、日本の大企業との関係を深める目的での海外のベンチャーキャピタルによる投資増につながる可能性があります。
英語コンテンツ(原文)