サステナビリティ関連財務開示に対する第三者保証の制度化に向け、保証業務におけるデジタルトランスフォーメーション(以下、「DX」)の推進が求められています。本連載では、有限責任 あずさ監査法人およびKPMGあずさサステナビリティ株式会社(以下、「あずさ監査法人およびKPMGあずさサステナビリティ」)が推進する保証業務のDX、およびDXが企業にもたらすベネフィットを紹介します。

第1回:サステナビリティ情報開示の課題とDX

第2回:サステナ保証DXでデータ収集・加工プロセスの効率化を実現

第3回:サステナ保証DXでリスク評価分析の高度化を実現

第4回:サステナビリティ関連財務開示におけるDXの将来の展望

第4回となる本稿では、サステナビリティ関連財務開示におけるDXの今後を展望します。生成AIをはじめとした革新的なテクノロジーをサステナ保証業務にどう活用していくか、前回までの連載で解説したDXの現状をふまえて紹介します。

サステナ保証におけるDXの現状

サステナ開示における保証業務では、制度化の進展に伴い、限られた人的リソースのなかで対応力を高めることが求められています。こうした背景のもと、業務の高度化と効率化を目指したDXの取組みが進み、データ分析やプロセスの標準化を通じた改善が実現しつつあります。

前回までの連載では、あずさ監査法人およびKPMGあずさサステナビリティが開発した「Sustainability Data Analytics」(以下、「SDA」)を、DXの取組みの一例として紹介しました。現在、保証業務にSDAを活用した事例では、リスク評価分析の標準化で、リスク検知シナリオに該当する異常値への気づきが早期に得られる、企業から入手したデータの正確性チェックの時間が短縮されるなど、高度化・効率化に一定の効果がみられています。また、SDAからのアウトプットが企業に提供されることで、保証人の目線で設計されたリスク検知シナリオとリスクに対する手続の実施結果が共有されます。これらは、企業の分析・検証プロセスの内部統制強化の参考となり、スムーズなコミュニケーションでサステナ開示の早期化につながる効果も期待できます。

サステナ保証業務のさらなる高度化、効率化を目指して

一方、保証業務のプロセス全体で見ると、依然として一部で人的リソースに依存する業務が残っています。

サステナビリティ関連財務開示におけるDXの将来の展望図表01

出典:KPMG

一連のデジタルツール群において、さまざまなタスクが自動化され、可視化やリスク検知がサポートされても、個別のタスクを管理する業務は保証業務の専門家であるヒトが担っています。そして、個別のタスクにおいて、実行結果を確認して判断する業務も専門家に依存しています。

さらなる高度化・効率化を進め、DXの効果をより大きなものとするためには、タスク管理や判断といった業務にテクノロジーを活用することが鍵となると考えられます。

AIエージェントの活用で「つながるDX」を目指す

あずさ監査法人およびKPMGあずさサステナビリティでは、全体的なタスク管理および個別のタスク判断の高度化・効率化を支援するAIエージェントの開発を進めています。AIエージェントとはヒトからの指示を受けてタスクの設計や実行を自律的に行うことができるAIのシステムを指しています。AIエージェントの特徴を活かすことで、以下のような業務改善が考えられます。

状況を評価したうえでの選択を行えるため、自律的なタスク管理ができる

AIエージェントはタスク管理型AIとして、個別のタスクでの出力結果を評価し、複数の選択肢の中から次のアクションを指示できます。個別のタスクが、タスク管理型AIによって相互に連携することでシームレスなDXを推進し、人的リソースを高付加価値業務にシフトさせることができます。

専門家の知見を基にした判断のフレームワークを与えることで個別のタスクにおける判断が可能となる

AIエージェントに専門家の知見を学習させ、判断のフレームワークを与えることで、条件による分岐を伴う判断ができるようになります。これにより、専門家は、定型的な判断にAIを活用し効率化を図りつつ、より重要な判断に注力することができます。

外部情報から得た知見を学習し、提案することができる

AIエージェントは学習データにない外部情報をWeb上から習得し、提案することができます。タスク管理や個別の判断に有用な新しい視点を外部から取り入れたAIエージェントの提案を受け、専門家は保証業務の品質をより高めることができます。

このほか、将来はAIエージェントが他のAIエージェントなどと直接コミュニケーションをとることも考えられ、組織の枠を超えて一層の高度化・効率化が実現する可能性があります。

保証業務におけるAIエージェントと専門家の役割

AIエージェントはさまざまな役割を担うことができ、保証業務の高度化・効率化を促進する可能性があります。他方、保証業務においては判断の過程が説明可能である必要があります。AIによる評価や推論は入力から出力に至る過程を見ることができず、しばしばブラックボックスに例えられます。このため、保証業務においては以下の点に留意してAIエージェントの活用を進めることが重要です。

  • タスク管理および個別タスクにおける判断については、専門家がマニュアルを作成する。AIエージェントはマニュアルの枠内で自律的な判断を行う。
  • AIエージェントが実施した判断について、専門家がレビューを行うポイントを設け、重要な箇所は専門家が確認する。
  • AIエージェントが習得し、提案した外部情報の活用は、専門家が確認し採否を決定する仕組みを作る。

AIエージェントの仕組みを構築するのは保証業務の専門家の役割です。AIエージェントには制御された範囲で自律性を発揮させ、専門家の知見と外部情報とを照らし合わせた視点での手続の高度化・効率化を進めることが重要です。

企業のDXとの相互作用で叶えるサステナ保証の将来

保証人による保証業務のDXの推進は、企業のDX推進と連携することにより、真の効果を発揮します。現状のSDAを活用した業務フローでも、サステナビリティ情報のデータを作成する企業のDXと、提出されたデータに対する保証業務のDXを連携させることが、双方の業務の高度化・効率化を促進します。AIエージェントを活用した保証業務の将来像でも、SDAのAIエージェントが、企業のAIエージェントとコミュニケーションを取って定型的なデータの追加依頼や、残タスクの確認などを行うかもしれません。企業と保証業務のDXは将来においても相互にシナジーを産み出すものとして、ともに発展することが望まれます。

AIエージェントの保証実務への活用については、今後もKPMGのサイトに随時掲載します。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
サステナブルバリュー統轄事業部
KPMGあずさサステナビリティ株式会社
SUSアシュアランス事業部
マネジャー  荒川 瑞樹  

有限責任 あずさ監査法人
Digital Innovation & Assurance統轄事業部
アシスタントマネジャー 八幡 菜々子

サステナ制度開示に向けた保証業務体制のデジタルトランスフォーメーション

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