サステナビリティ関連財務開示に対する企業の取組みが活発化するなか、投資家からはサステナビリティ関連財務開示の信頼性の確保を望む声があり、第三者保証の制度化にも近年注目が集まっています。このような動きのなかで、有限責任 あずさ監査法人(以下、「保証人」)は第三者保証の制度化に向けた保証業務におけるデジタルトランスフォーメーション(以下、「DX」)を推進しています。本連載では、保証業務におけるDX推進の取組みと、これが企業にもたらすベネフィットについて詳しく紹介します。第1回では、現在企業がサステナビリティ関連財務開示において直面する課題を整理し、保証業務におけるDXの推進の取組みが企業にもたらすベネフィットについて解説します。次回以降は、膨大なデータの可視化、異常検知やリスク検知、さらに生成AIを用いたデータ解析など、保証業務の具体的なDXについて詳しく紹介します。
サステナビリティ関連財務開示における課題
企業のサステナビリティ関連財務開示において直面する課題には、サステナビリティ領域における知識と情報開示の実務経験を持つ人材の確保が難しい点や、情報収集や企業内外への報告の体制が整っていない点が挙げられます。特に情報開示に向けた作業の過程においては、開示に必要なデータの収集・集計に多大な時間を要することに加え、開示対象とするグループ子会社等の選定漏れ、グループ子会社等からのデータ収集漏れ、データの入力誤りなどの単純な人的ミスが発生することがあります。
デジタルトランスフォーメーションの推進
サステナビリティ関連財務開示における課題に対して企業が取り組むソリューションの1つとして、DXを推進することが挙げられます。保証人は企業のDXの動きに合わせて、より効果的かつ効率的な保証制度を実現するためにも、保証業務のDXを推進しています。具体的には、以下のようなソリューションが考えられます。
- データの前処理(例 データ形式変換、異常値修正・重複削除、正規化等)
- 膨大なデータの可視化
- 異常検知やリスク検知
- 生成AIを用いたデータ解析
- OCR(Optical Character Recognition、光学文字認識)技術を使用したデータ自動抽出等
デジタルトランスフォーメーションのベネフィット
企業はDX推進により、情報を整理して一元管理し、また、可視化することによりリスクを視覚的に把握することができ、リスクに対応した内部統制を適切に構築できます。また、情報が整理されて業務の効率化が図られることにより、開示業務の早期化にも取り組めるようになります。
保証業務のDXの推進は企業のDX推進と連携することにより、手作業で行っていたデータ加工を自動化・効率化し、創出された追加のリソースをデータの可視化やリスク検知の結果を踏まえた対応につなげることができます。また、保証人の高度な判断や知見は企業へ報告され、企業のDX推進による内部統制構築と連携することが期待できます。
このように、DXの推進は、企業および保証人の業務の効率化に大きく貢献し、持続可能なビジネスの実現に寄与します。デジタル技術を活用することで、サステナビリティ情報開示の保証制度はより信頼性の高いものとなり、企業と社会の持続可能性を支える重要な柱となるでしょう。
執筆者
有限責任 あずさ監査法人
サステナブルバリュー統轄事業部
KPMGあずさサステナビリティ株式会社
SUSアシュアランス事業部
シニアマネジャー 加藤 将也
有限責任 あずさ監査法人
Digital Innovation & Assurance統轄事業部
マネジャー 中山 美緒