内閣府宇宙開発戦略推進事務局が2025年2月末に公開した「宇宙スキル標準」は、宇宙業界の人材に求められるスキルや、関連する業界共通業務、参考となる教育プログラムや資格試験を整理したスキルブックです。
KPMGコンサルティングは、内閣府より本スキルブックの策定業務、およびその過程で実施される有識者委員会の運営について委託を受け、自社の専門知識とネットワークを結集し、支援しました。
【宇宙スキル標準とは?】
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プロジェクトの背景
日本の宇宙産業は、新たな国家成長戦略の柱として期待を集めており、政府による宇宙基本計画や宇宙技術戦略の策定、宇宙戦略基金を通じた投資の実行、それに伴う民間主導による衛星・ロケット開発の進展などを背景に、市場規模の拡大やプレイヤーの多様化が進んでいます。一方で、こうした産業成長を支える人的基盤は十分に整備されておらず、「どのような人材が必要とされているのか」「求められるスキルは何か」について業界共通の認識がないことが課題となっていました。
このような状況は、宇宙業界への参入を志す他分野の技術者や学生にとってハードルの高さとして認識され、結果として就職時に宇宙産業という選択肢が挙がらないことや、人材のミスマッチ、流動性の低下、教育機関におけるカリキュラム開発の困難さなどを招いていました。また、企業側においても、採用・育成・評価の基準が曖昧であることから、人員配置戦略を立てにくいという声があり、業界の中長期的な成長に向けた障害となっていました。
プロジェクトの概要
こうした課題を受け、内閣府宇宙開発戦略推進事務局は、宇宙業界全体にとっての共通言語となる「宇宙スキル標準(試作版)」の策定を2024年度の重点施策として位置付け、実務的な整理・文書化業務をKPMGコンサルティングに委託しました。
本プロジェクトは、宇宙輸送、人工衛星、運用、サービス活用など宇宙業界全体の業務領域をカバーする形で、スキルと業務の対応関係を体系的に整理した初の試みです。
KPMGコンサルティングは、プロジェクトの中核となる委員会の企画・運営を担い、JAXA、大学、高専、スタートアップ、大手メーカー、中央省庁、自治体等の約50組織からなる委員とともに、実務の多様性と将来性を見据えた議論を推進しました。
委員会は計7回にわたって開催され、並行して50件を超える個社ヒアリングや、衛星や輸送機などの分野単位でのグループヒアリング、延べ600人以上を対象とした全国説明会も実施しました。人材課題の構造分析やユースケース別の活用設計など、単なる一覧表にとどまらない“使えるスキル標準”の構築を目指しました。
【宇宙業界に関連するスキル一覧】
KPMGコンサルティングの役割と推進方針
KPMGコンサルティングは、本プロジェクトにおいて以下のステップで支援を実施しました。
- 課題構造の把握:アンケート・ヒアリング・ベンチマークを通じて業界における人的課題の現状分析とボトルネックの可視化
- スキルブックの体系設計:スキルや業務機能の定義、スキル・業務・ロールの紐づけ方、整理範囲・方針について設計
- 業務の全体設計:デスクトップリサーチやヒアリング等を通じた宇宙業界における主要業務の洗い出しと整理
- スキル定義:デスクトップリサーチやヒアリング等を通じた主要スキルの洗い出しと整理
- レベル設定:業務遂行能力、経験年数、資格との関連など複数軸からなる5段階評価指標を策定
- 活用設計:企業・教育機関・自治体・個人別にユースケースを分け、目的別の活用例を提示
- ドキュメント整備:スキルブック本体に加え、取扱説明書、業務・スキル概説書、全国説明会資料等を作成
- 委員会運営:スキルブック作成に係る、宇宙関連組織・専門家を招聘した検討会の運営推進
宇宙スキル標準の整理体系
宇宙スキル標準では、主要な業務を整理し、関連するスキルを定義・整理しています。加えて、一般的なロールを例示し、利用者が自身の組織にあった業務に即して、ロールをカスタマイズできる仕組みとなっています。
宇宙スキル標準におけるスキルの整理範囲
宇宙業界における共通的なスキルを整理しており、特定の状況下や特定組織のみにおいて活用されるスキルの整理は行っていません。
また、KPMGコンサルティングは、「今後の更新可能性を持たせる柔軟な設計」「他業界の人材が見ても理解できるスキル項目の表現」「現場の文脈で使える現実的な粒度」の実現にも注力しました。
成果と今後の展望
本プロジェクトの成果である「宇宙スキル標準(試作版)」は、以下のような多様な活用が期待されています。
- 企業:採用ポジション定義、人材要件の明確化、社内育成計画、リスキリングプログラム設計、能力評価・配置検討
- 教育機関:教育課程の編成支援、スキル評価の導入、実践教育との接続強化
- 自治体:宇宙産業誘致・育成施策の基礎資料作成、研修・職員配置の参考情報
- 個人:キャリアパスの可視化、スキル習得ロードマップの作成、業界理解の深化
宇宙スキル標準の想定活用方法
業界標準的なスキルが整理されることで、個人、企業、教育機関、自治体等の活用者が自己研鑽、採用、育成などの場面において、それぞれの活動を標準化・高度化することが可能です。
令和6年度(2024年度)の活動を通じて、KPMGコンサルティングは宇宙スキル標準(試作版)の策定を支援しました。さらに令和7年度(2025年度)も継続して、宇宙スキル標準(完成版)の策定業務を内閣府宇宙開発戦略推進事務局より受託し、現在支援を継続しています。
試作版の整理範囲拡充や制度設計への反映(資格連携・補助金活用等)、試作版の周知、活用事例創出に向けたハンズオン支援など、「社会実装」を目指した具体的な施策の推進が求められています。宇宙業界の持続的発展にとって、「人材の質と量の確保」は最重要テーマの1つであり、今回のスキル標準はその出発点として大きな意味を持ちます。
KPMGコンサルティングは、宇宙業界のエコシステム確立に向けた重要課題である「人材」に焦点を当て、引き続き関連する政府省庁、企業、教育団体、業界団体を強力に支援します。
- 宇宙スキル標準の掲載ウェブサイトはこちら(内閣府のページへ遷移します)。
宇宙スキル標準について
本記事担当
KPMGコンサルティング
アソシエイトパートナー 宮原 進
マネジャー 平田 悠樹