今日の物流および小売環境において、配送センターや小売店舗などの施設を戦略的に配置・拡張することが、運用効率の向上と競争優位性の確保に大きな影響を与えます。KPMGのプロジェクトでは、配送センターの最適なネットワーク設計と小売店ネットワークの拡張という、相互に関連する2つの目標に焦点を当てました。混合整数それぞれのシナリオに合わせた最適化モデルを、線形計画法(LP:Linear Programming)を用いて開発し、コスト、需要カバー率、および物流制約のバランスをとることで、ネットワーク設計のための堅牢なソリューションを生み出しています。

混合整数計画法(MIP:Mixed Integer Programming)とは、連続変数と離散変数の両方を含む複雑な意思決定問題を解決するための強力な数理最適化技術です。限られた資源を最適に配分する方法を数学的に解く線形計画法(LP)を拡張し、特定の変数を整数値に制限することができます。MIPでは、コストの最小化や効率の最大化などの目的関数と制約条件が線形方程式として表現されます。典型的なMIPの定式化は、目的関数とそれに従う一連の線形制約条件から成り立ちます。この方法は、分枝限定法、カッティングプレーン法、およびヒューリスティックアプローチなどの高度なアルゴリズムを活用して広大な解空間を効率的に探索し、大規模な問題でも効果的に解決できるようにします。コスト最小化、需要充足、容量制限などの制約を組み込むことで、MIPは物流および運用上の課題を正確にモデル化し、最適化するために不可欠なツールとなります。

コスト効率の高い物流のための配送センター最適化

はじめに、配送センターのネットワーク最適化に取り組み、建設工具レンタルを専門とする企業の運用コストを削減することに焦点を当てます。ここでは、新しい配送センターの設立にかかる初期費用と、顧客への商品配送に関連する運用費用の2つの主要なコストが重要となります。これらのコストを最適化することで、企業はリソースを効果的に配分し、需要を迅速に満たしながら運営コストを最小限に抑えることができます。

この目的を達成するために、容量制約付き施設配置問題(Capacitated Facility Location Problem : CFLP)モデルを適用しました。このモデルは、需要、容量、立地コストなどの物流要件を考慮しつつ、コスト最小化を図るように設計されています。候補地を分析することで、設立費用と配送費用を最小限に抑えながら需要カバー率を満たす最適な施設配置を導き出します。

このアプローチはデータ主導型(データドリブン)であり、主に2つの情報源に依存しています。

  1. 需要ポイント:住宅統計や地理データをもとに特定された、工具レンタルの顧客需要エリアを示す
  2. 候補地:利用可能な床面積(容量)、推定賃料(地域人口を代理変数とする)、および立地などの要因に基づいて評価される配送センターの潜在的な候補地点

最適化フレームワークは、需要カバー率とコストの両方を重視して設計されています。モデルは各需要ポイントに対して一定のカバー率の閾値(例えば、80%の需要を一定距離内で満たすこと)を確保したうえで、候補地ごとの初期賃料コスト(人口に基づく推定値)と需要ポイントから候補地までの距離に需要量を乗じた配送コストの最小化を図ります。

さらにいくつかの制約条件により解決策を絞ります。

  • 各配送センターには床面積に基づく容量制限があり、物理的に処理可能な需要量には上限がある。
  • 配送距離は通常300kmに制限されており、適切なサービスレベルの維持が図られる。
  • 各需要ポイントには、限られた数の配送センターによってサービスすることで、冗長性を抑制し、運用効率の向上を実現する。

その結果、コストを最小限に抑えつつ、高水準のサービスを維持する最適化されたネットワークが構築されます。このネットワーク設計は物流のオーバーヘッドを削減し、顧客満足度を向上させるとともに、物流を重視する業界での競争優位の確立に寄与します。

ファッション小売店ネットワークのカバー率最大化

次に、ファッション商品を扱う小売業者のネットワークの拡張にあたっては、コスト最小化ではなく、需要カバー率の最大化に重点を置きます。小売業者にとっては、新店舗を戦略的に配置することで、アクセス性と市場範囲が拡大し、顧客エンゲージメントの向上とブランド成長の促進が期待されます。

最適な新店舗の場所の決定には、最大被覆配置問題(Maximal Coverage Location Problem : MCLP)モデルを適用しました。このモデルは、各店舗から一定距離内でサービスできる需要の合計を最大化するように構成されており、需要の集中するエリアを効率的にカバーしながら、店舗間の重複を最小限に抑え、各新店舗のインパクトを最大化します。

このシナリオでは、需要ポイント、候補地、および小売業者の既存店舗に関するデータの組合せを活用します。

需要ポイント:昼間人口などの人口統計要因によって重み付けされた高い潜在顧客関心エリアを示す。

候補地:需要ポイントへの近接性と人口特性に基づいて評価される。

既存店舗の場所(商圏および営業日を含む):小売業者の現在のネットワークの背景を把握するのに役立ち、競合店舗に関するデータは競争密度に関する洞察を提供する。

このモデルでは20店舗の新規開設を前提とし、需要ポイントから一定距離(例:5 km)内に店舗を配置することで、需要カバー率を最大化するように設計されています。このアプローチにより、アクセス性を最大化できるとともに、影響力の大きいエリアへのリソース集中が可能となり、顧客の利便性とリーチ向上につながります。

主要な制約条件は以下のとおりです。

  • 店舗と需要ポイント間の最大距離の閾値を設定し、アクセス性を担保する。
  • 新規出店数を20店舗に固定することで、過剰な市場飽和を回避し、戦略的かつターゲットを絞った拡張を支援する。

2つのアプローチから得られた1つの示唆――コスト効率と戦略的カバー率

これら2つの最適化モデル、すなわち配送センターネットワークに適用されたCFLPと小売ネットワーク拡張に用いられたMCLPは、物流および市場拡張におけるさまざまな課題に対処しうる、MIPベースによる最適化アプローチの柔軟性を示しています。

図表:戦略的出店の目的とモデル概要

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配送センターネットワークでは、設立費用と配送費用の最適化を通じてコスト削減を追求し、小売ネットワーク拡張では、高需要エリア近隣への戦略的な新規出店により、市場カバー率の最大化を目指します。それぞれのアプローチは異なるビジネス目標に対応しており、企業にとって実用的かつデータドリブンな意思決定を支援する有効な手段となります。

本記事で紹介したモデルにより、コスト効率と市場の需要を考慮した、データドリブンなネットワーク計画が可能になります。ネットワーク最適化は、現在の物流や小売のニーズを満たすだけでなく、将来的に常に成長・変化する市場において企業がニーズを獲得する上で役立ちます。

当社は上記の開発プロジェクトを通じ、このように「経営戦略に役立つ資産」としての価値のある、ネットワーク最適化アルゴリズムの開発に成功しました。

執筆

株式会社 KPMGアドバイザリーライトハウス
アドバンスドアナリティクス部
シニア・データサイエンティスト
Jenny Choi

監修

株式会社 KPMGアドバイザリーライトハウス
アドバンスドアナリティクス部
マネジャー 大山 遼

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