消費者向けビジネスでは、個人の価値観の多様化によりパーソナライズされた顧客体験の提供が求められ、多くの企業が消費者の購買や行動に合わせた広告や販促に取り組んでいます。そんな今日における真のOne to Oneマーケティングとはどのような状態でしょうか。本稿では、この問いに答えつつ、One to Oneマーケティングの進化と成功に導くためのAIエージェントの活用を解説します。
1.One to Oneマーケティングの進化
マスマーケティングから現在のOne to Oneマーケティングへの進化には、ビックデータと機械学習の技術進歩が大きく影響しています。これらの技術進歩により、購買履歴・検索履歴・行動データ等の社内データや、SNS、アンケート等の社外データを含めた大量データを分析したマーケティングシナリオを作成することが可能となりました。
また、顧客セグメントの細分化により、誰に、どの商品を、どのタイミングでレコメンドすることが効果的か、導き出されるようになりました。この結果、さまざまなマーケティング施策との連携によるMA(マーケティングオートメーション)が普及しています。
さらに、教師付きの機械学習の活用により、顧客の行動予測や価値観・嗜好性の推定が実現可能となりました。たとえば、個人ごとに価値観・嗜好性を推定した情報をタグとして付与することで、ロイヤリティが高い既存の顧客と同じ要素を持つ潜在ロイヤリティ顧客を特定できます。このように、顧客購買変容を分析・学習し、類似嗜好の顧客別にアプローチが可能となったことで、真のOne to Oneにより近づいたと言えます。
2025年はAIエージェント元年であり、今後はAIエージェントの活用が普及していくでしょう。AIエージェントとは、ユーザーに代わり、情報に基づき適切な行動を自律的に選択しタスクを実行するAIの技術です。企業では、AIバーチャル顧客同士で対話する(たとえば、顧客Aと顧客BのAIエージェントが、商品を選択した理由や嗜好性などを会話する)ことで、顧客のニーズを把握しマーケティングの施策の有効性を検証する取組みが進んでいます。
現在はマーケティングの精度を高めるための活用に留まっていますが、今後はAIエージェント(企業型AI)を活用し、対話型で顧客に応じた広告や販促が行うことで、真のOne to Oneが実現します。
また、将来的には顧客個人の端末にもAIエージェントが組み込まれ、企業側のタッチポイントとしてのAIエージェント(企業側AI)と個人端末に組み込まれたAIエージェント(個人側AI)が対話し、他者の評価を求めるために個人側AI同士も対話を行うようになるでしょう。
個人側AI同士による対話が始まると、企業側の想定が難しくなりますが、顧客Aが影響を受ける関与者のパーソナリティを設定するなど、ユースケースを限定することで企業側と個人側のAIエージェント同士が対話し広告や販促を行うサービスの実現もそう遠い世界ではないと想像されます。
【図表1:One to Oneマーケティングの進化】
出所:KPMG作成
2.嗜好による購買影響力の重要性
個人の端末にもAIエージェントが組み込まれると、顧客の購買行動はさらに変化することが想像できます。顧客は嗜好性が高い商品に対しては、AIエージェントに好みを伝え、企業の広告や販促に反応します。一方、顧客の嗜好性が低い商品はAIエージェントに商品の選択を任せるため、一般的評価にてAIエージェントが商品を選択し、企業の広告や販促は届かないことになります。
このように、顧客の購買行動の変化は小売企業のマーケティングへ影響を与えます。広告や販促に対する顧客の反応を得るためには、嗜好性による購買影響が高い商品やサービスへ訴求する必要があり、企業の商品・サービスの嗜好性を整理し、ペルソナ分析や顧客ロイヤリティプログラムとともに、ターゲットを事前に明確化することが重要となります。
【図表2:嗜好性の高低による購買体験の違い】
出所:KPMG作成
3.One to OneマーケティングにおけるAI活用のアプローチ
KPMGでは、One to OneマーケティングにおけるAI活用を6つのアプローチで構成しています(図表3参照)。
プロジェクト立ち上げ段階では、マーケティングプロセスに対するAI活用導入後の将来像を策定し、組織横断的なプロジェクトを組成し、ユースケースを創出します。まずは組織横断でワーキンググループを開催し、将来像を議論し合うところから進めてもよいでしょう。
また、KPMGでは、立ち上げから活用・効果測定、さらには高度な活用検討までワンストップでの支援が可能です。AIエージェントの普及により真のOne to Oneマーケティングへと進化するなか、企業の環境や課題に合わせて、伴走しながら支援します。お気軽にお問い合わせください。
【図表3:One to One マーケティングにおけるAI活用のアプローチ】
出所:KPMG作成
執筆者
KPMGコンサルティング
マネジャー 片岡 千尋