韓国税務当局の動向およびTPへの対応方法 外国人投資に対する政府支援の強化

韓国は景気低迷の長期化により2年連続で税収欠損の状況におかれています。このような税収赤字を軽減するための韓国税務当局の努力によって税務調査による追徴金額は例年に比べて増加傾向にあり、税務署の調査を受けていた企業が地方国税庁の調査を受けることで課税リスクが増加する流れにあります。

韓国は景気低迷の長期化により2年連続で税収欠損の状況におかれています。このような税収赤字を軽減するための韓国税務当局の努力によって税務調査による追徴金額は例年に比べて増加傾向にあり

韓国は景気低迷の長期化により2年連続で税収欠損の状況におかれています。このような税収赤字を軽減するための韓国税務当局の努力によって税務調査による追徴金額は例年に比べて増加傾向にあり、税務署の調査を受けていた企業が地方国税庁の調査を受けることで課税リスクが増加する流れにあります。

ただし、納税者が税務調査対象者として選定されても、税務調査の事前通知の前にAdvance Pricing Agreement(以下、「APA」という)を申請している場合には、その対象期間の移転価格調査は猶予できますので、これを積極的に活用する納税者が多いです。

外国人投資に対する大韓民国政府の支援強化政策には、代表的なものとして外国人投資促進法による現金支援政策と租税特例制限法による投資税額控除があります。現金支援政策の場合、外国人投資家の増資、または外国人投資家の所有持分率が30%以上である外国人投資企業が社内留保金に再投資する金額の一定比率を政府が現金で支援するものです。また、租税特例制限法による投資税額控除は新成長源泉技術、または国家戦略技術を保有している企業に投資する事業用資産の取得金額の一定比率を税額控除として法人税を減額する制度です。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

Point

  • 韓国の税収予算、実績現況および納税者への影響
    ― 法人税収入の減少により直近2年の税収赤字となっている
    ― 税収赤字により税務調査による追徴金額は例年に比べて増加する傾向が強まっている。また、2024年度税制改正により、移転価格関連の正常価格調整に関連する更正請求に対しては、その期限を6ヵ月以内に延長しており、移転価格に関連する還付は一層遅延することが予想される
    ― 税務調査の事前通知の前にAPAを申請しているとその対象期間の移転価格調査は猶予できるので、これを積極的に活用するケースが多い
  • 外国人投資に対する政府支援
    ― 半導体、二次電池等の主力産業の発展および投資誘致のために韓国政府は現金支援制度や投資税額控除のような支援政策を拡大している
    ― 特に、外国人投資家が半導体および二次電池等の産業に投資する場合、外国人投資促進法の要件を充足すれば投資金の一定比率に相応する現金を支援し、投資した事業用資産は税額控除対象として法人税減免を支援する

Ⅰ.韓国税務当局の動向およびTPへの対応方法

1. 韓国税務当局の動向

(1) 30.8兆ウォンの税収赤字

韓国は景気低迷の長期化により2024年に30.8兆ウォン規模の税収赤字となりましたが、これは2023年56.4 兆ウォンの税収赤字に続く2 年連続の税収欠損に該当するものです。

企画財政部によると、2024年の年間国税収入は前年に比べて7.5 兆ウォン減少しただけではなく、全体の税収が国家予算に大幅に及ばなかったために30.8 兆ウォ ンの税収欠損が発生したということです。すなわち、政府が予想していた金額よりも実際に集められた税金が30.8 兆ウォン足りなかったことになります。

国税庁が発刊している統計資料を見ると、税収赤字の最も大きい原因は法人税の収入減少であることが分かります。これは景気の悪化による企業の実績不振による法人税納付額の減少が最も直接的な原因と考えられ、現政府による企業にやさしい減税政策が法人税収入の減少原因の1 つと見ることを否定するのは難しいと思われます。統計資料上の数値を見ると、所得税は1.6 兆ウォン、相続税は1.1兆ウォン増加し、付加価値税も物価上昇によって8.5 兆ウォン増加した一方で、法人税は前年対比で17.9兆ウォンも減少しました。

( 2) 国税行政の運営方向およびその 影響

このような2年連続の税収赤字が発生したことを受けて韓国税務当局の内部では危機感を隠せずにおり、税務当局自らが税収管理の必要性を強調しながら、これを克服するための国税行政運営方案を発表しました。主な内容としてはまず、景気条件、資産市場の動向等の税収変動要因を綿密にモニタリングすることでこれらの影響等を把握および分析し、このような税収変動要因による月別の税収進行状況を適時に報告するようにして、税収赤字を最小化するために管理しています。

このような税収赤字を減らすための韓国税務当局内部での要求および常時管理によって国税行政公務員は税収を意識しないわけにはいかなくなり、韓国税務当局の国税行政運営方向に合わせて業務を行っています。

その結果、税務調査による追徴金額は例年に比べて増加する傾向が強まっており、課税イシューに対して調査期間内に納税者が充分に納得しないまま追徴されるケースも発生しています。また、課税当局内部での執行基準上、約500億ウォン規模を基準としてそれ以下およびその境界にいる企業は税務署の調査を受けることが一般的であったところを、最近は税務調査の実績が多い地方国税庁の調査対象となるケースが見受けられます。

日系企業を含む外資系企業は国外関連者との取引が多いため、移転価格に関する課税リスクが高いです。

ただし、売上が約500億ウォン未満の外資系企業は、これまで相対的に移転価格調査に対する実績が少ない税務署の一般調査官から調査を受けてきたことにより、実質的には移転価格課税リスクに大きくさらされることはありませんでした。しかし最近は国税行政運営方案による影響によって、以前には税務署管轄であった企業が地方国税庁から調査を受ける対象となるケースも発生しており、移転価格調査の強度も例年に比べて高まっているため、移転価格税制による課税リスクが増大している状況です。参考までに、地方国税庁の場合は外資系企業の税務調査のみを専門に行う部門である􏘩 国際取引調査局􏘪 が別途存在し、同部門では多様な移転価格課税事例を互いに共有しながら調査官をトレーニングしています。

国税行政運営方案はまた、更正請求にも影響を及ぼしています。納付税額の還付に対する課税当局の検討期間が過去2 ~6ヵ月ほど所要されていたところ、最近は6ヵ月~1年以上に長期化しており、過去にはすでに還付を受けていたであろうイシューに対しても課税当局が疑念をもって再検討することによって、還付遅延となる傾向が強くなっています。

また、2024年には税法を改正して、2ヵ月以内であった更正請求期限について、移転価格関連の正常価格調整に関連する更正請求に対しては、その期限を6ヵ月以内に延長しました。実務的には税務当局からの資料要請および追加検討等で2ヵ月以上所要されていますが、移転価格に関連する更正請求については規定上でも6ヵ月以内へと4ヵ月延長したことで、今後、移転価格に関連する還付は一層遅延することが予想されます。

(3) 納税者としての対応 APAの活用

このような移転価格課税リスクの高まりおよび正常価格調整に関連する更正請求による還付遅延を克服するために、韓国に進出している日系企業の納税者においてAPA制度の活用の必要性およびその効果は一段と高まると考えられます。

図表1 年度別の韓国税収現況(単位:兆ウォン)

区分 FY2020 FY2021 FY2022 FY2023 FY2024
予算 279.7 314.3 396.6 400.5 367.3
実績 285.5 344 395.9 344.1 336.5
差異 5.8 29.7 △ 0.7 △ 56.4 △ 30.8

出所:KPMGジャパン作成

韓国国税庁が直近に発表した􏘩 2023 APA年次報告書􏘪 によると、APAの申請および処理件数は全般的に増加推移にあり、当初APAが締結された1997年から2023年の間、二国間APAの場合は開始日から締結日まで平均30ヵ月が所要されていたとのことです。ただし、2023年に処理されたAPA 87件の平均処理期間は27ヵ月で例年に比べてさらに短縮されています。これは、パンデミックが過ぎた2023年に二国間APAの円滑な進行を目指して締約相手国との対面会議を再開し、条件上、対面会議が難しい場合には、電話やビデオ会議を積極的に活用した結果であると思われます。

2023年まで韓国税務当局で処理されたAPA 753件を分析してみると、国際取引の産業別性質による11の産業群のうち、火薬/医薬産業の企業が125件と最も多く、コンピュータ/LCD/携帯電話産業の企業が119件でそれに続いています。韓国税務当局は当該産業に対する実績が豊富であるだけに、関連企業のAPAの進行速度は一層スピードを増すことが予想されます。

一方で、2023年までに処理された二国間APAの532件のうち、交渉相手国が日本である案件は154件で最多ですが、これは多くの日系企業がAPAを積極的に活用して移転価格課税リスクをヘッジしており、韓国と日本の税務当局間の相互協議も円滑に行われていることが分かる統計であると言えるでしょう。

韓国の場合、納税者のAPA申請によって税務調査が中断されることはありませんが、納税者が税務調査対象者に選定されても、税務調査の事前通知前にAPAが申請されている場合には、APA確認申請対象期間の国際取引に対する移転価格調査が猶予されるため( 国際租税事務処理規程第81条)、これを積極的に活用して移転価格課税リスクをヘッジする時期であることに間違いないと思われます。

Ⅱ.外強国化人投資に対する政府支援の強化

1. 現金支援および国家戦略技術税額控除の概要

(1) 現金支援(Cash Grant )制度

① Cash Grantは高度技術随伴、技術移転、雇用創出、適正な立地地域等を備えた外国人直接投資に対して交渉を通じて投資金額のうちの一定金額を現金で支援する制度であり、また、Greenfield型の投資( 工場施設の新設・増設)を行う外国人投資比率が30%以上である外国人投資企業に直接投資金額(FDI )の10 ~40%を産業通商資源部と地方自治体が協議を通じて支給する制度です。

② 2004年に韓国に導入されたCash Grant は、外国人投資企業に対する支援を行うことで継続的な雇用創出および生産増大等の効果創出を目指し、外国人投資企業はもちろん、国家と地方経済の活性化のために導入が決定されました。香港、シンガポール等にもCash Grantと類似する制度があります。

③ 韓国の産業通商資源部は毎年、500億ウォン程度の規模のCash Grant予算を策定していましたが、2024年からは同予算を800億ウォンに引き上げました。

④ 過去にもCash Grantを活用してさまざまな大規模FDIを成功させてきたことを見ると、全世界的にTax incentiveが無効化するトレンドのなかで、外国人投資企業の誘致活性化のためのCash Grantは主要な政策であると判断されます。

⑤ Cash Grantの対象事業は外国人投資促進法第14条の2第1項に挙げられています。

⑥ Cash Grant対象事業であるかどうかの判断を受けるためには、1)総投資金額および内訳、2)雇用規模、3)技術波及効果、4)地域経済に対する寄与度、および5)その他産業通商資源部長官が定める事項を含めた事業計画書を提出しなければならず、当該申請書は外国人投資委員会の審議を経て対象であるかどうかおよびCash Grant支給額が決定されます。

(a) 提出された事業計画書は技術的評価・財務的評価のために評価委員会から評価を受けることになり、評価委員会の開催後10日以内に総合評価点数および現金支援の適合性に対する結果を申請人に通知しなければなりません。

(b) 評価委員会は充て職である産業通商資源部の投資誘致課長と外部の人員で構成され、充て職委員を含めて7 名以上12名以内の委員で構成されます。

(c) 現金支援の適合性の判断は評価委員会の平均評価点数が6 0点以上である場合、過半数以上の賛成によって現金支援の適合性を決定します。

図表2 Cash Grant対象事業

外国人投資促進法第14 条の2 第1 項
①「 租税特例制限法」第121条の 2 第1項第1 号による事業を経営するために工場施設を新たに設置するか、増設する場合
②「 産業発展法」第 5 条による先端技術及び先端製品の事業を経営するために工場施設を新たに設置するか、増設する場合
③「 素材・部品・装備産業の競争力強化のための特別措置法」第2 条第1 号及び第2号による素材・部品及び装備として大統領令で定める素材・部品及び装備を生産するために工場施設を新たに設置するか、増設する場合
④ 大統領令で定める常時勤労者数を超過する規模の新規雇用を創出する場合として工場施設を新たに設置するか、増設する場合

出典:国税法令情報システム

⑦ Cash Grantの申請法人は現金支援金を受け取った後、毎年、大韓貿易投資振興公社(KOTRA)に申請内容に沿って投資が履行されていることを報告しなければなりません。

(a) 大韓貿易投資振興公社の長は契約期間中に申請人の投資支出計画、雇用計画、研究開発等の外国人投資現金支援計画書に明示されている義務の履行について毎年点検し、その結果を関係する地方自治体の長と産業通商資源部長官に提出しなければなりません。

(b) 申請人は契約期間にわたって約定した義務を履行できなかった場合や当該事業をこれ以上行うことができない場合には、支給を受けた現金支援金を返還しなくてはいけません。

⑧ Cash Grantの申請および審議対応、事後管理規定に対して韓国内での投資を計画する段階から充分に理解をし、制度を活用しなければなりません。

(2) 国家戦略技術の税額控除制度

① 国家戦略技術に関連する税額控除は租税特例制限法に規定されており、R&D税額控除と投資税額控除で構成されています。

(a) R&D税額控除の場合、一般的なR&D税額控除が研究費支出費用の2%を限度としている半面、国家戦略技術R&D税額控除はその限度を40%としています。

(b) 投資税額控除もまた一般投資税額控除が投資金額に対する税額控除率を1%と規定している半面、国家戦略技術投資税額控除は15%の高い税額控除率が適用されます。

② 国家戦略技術税額控除を適用するためには会社が保有している技術が租税特例制限法で挙げている技術に該当するかの審議を通じて確認を受けなければなりません。

(a) 租税特例制限法で挙げている技術は、半導体、二次電池、ワクチン、ディスプレイ、水素、未来型移動手段およびバイオ医薬品産業に関連するもので、特に半導体と二次電池に関連する技術は設計から製造までのすべての技術が含まれています。

(b) 挙げられている技術を所有している企業は発生するR&D費用と事業用有形資産に投資した金額(土地、建築物を除く)に対して高い税額控除の適用が可能です。

③ 国家戦略技術に該当するかどうかは納税者が提出した国家戦略技術等の審議申請書類を専担機関である韓国産業技術振興院の審議事務局で事前調査を行い、審議委員会からその可否の確認を受けて適用可能かどうかが決定されます。

(a) 申請書類提出後に審議結果の通知までは6ヵ月を超過することができません。

(b) 専担機関の事前調査段階では書面調査、および必要な場合には現場調査が行われ、主にR&D結果が国家戦略技術の水準を超過するかどうかと、当該技術を使用する事業用資産が実際に存在するかに対する検討が行われます。

(c) 専担機関は事前調査の検討結果に基づいて総合意見書を作成し、審議委員会に提出します。

(d) 審議委員会は企画財政部の税制室長および産業通商資源部の産業革新成長室長を共同委員長とし、各産業別専門家を外部委員として13名以内で構成します。

④ 国家戦略技術税額控除の対象であるか

に対する結論は審議委員会の議決後15日以内に申請人に通知しなければなりません。

⑤ 申請人である内国法人は審議委員会の結果に基づいて、過去事業年度に支出した研究費および事業用有形資産の投資金額に対する国家戦略技術税額控除の適用を、更正請求を通じて受けることができます。

(a) 現在の韓国の税法上の国家戦略技術の対象であるかに対する審議が先行されなければならないため、国家戦略技術税額控除は当初の法人税申告ではなく更正請求でのみ適用を受けることができます。

図表3 国家戦略技術対象技術(一部要約)租税特例制限法施行令別表7 の2 及び同法施行規則別表6の2

① 半導体:先端メモリ半導体の設計・製造技術、次世代メモリ半導体(STT-MRAM、PRAM、ReRAM)製造技術、高速コンピューティングのためのSoC 設計及び製造(7nm以下)技術等
② 二次電池:高エネルギー密度の二次電池パックの製造技術、高性能リチウム電池部品・素材・セル及びモジュール製造技術、使用後バッテリー評価及び選抜技術、使用後バッテリーの再活用技術等
③ ワクチン:防御抗原等のスクリーニング及び製造技術、非臨床試験技術、臨床薬理試験評価技術(臨床1 相試験)等
④ ディスプレイ:AMOLED パネルの設計・製造・工程・モジュール・駆動技術、環境にやさしいQD(Quantum Dot)素材を適用したディスプレイパネルの設計・製造・工程・モジュール・駆動技術等

出典:国税法令情報システム

Ⅲ.まとめ

法人税収の減少により韓国税務当局は税収管理を強化し、税務調査の頻度と追徴金額が増加しています。日系企業は移転価格課税リスクが高まっているため、APA制度の活用が重要です。 一方、韓国政府は外国人投資を促進するため、現金支援制度(Cash Grant )と国家戦略技術税額控除を提供しています。これにより、外国人投資企業は投資金額の一部を現金で支援され、高い税額控除を受けることができます。支援制度の申請および審議対応、事後管理規定を十分に理解し、適切に活用することが重要です。

執筆者

KPMG韓国
TAX3本部(日系企業税務担当)
キム・ジョンウン/パートナー
ベク・チョンウク/パートナー

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